第2話 ケサランパサラン①

 なんだろう? と思わずキャッチした綿毛のようなものをそっと開けば……ふわふわとした、一瞬見た通り綿毛の塊でした!!


 たんぽぽの綿毛の一部どころか、たんぽぽが綿毛を作った後のまるごとそのままのような……しかし、中心に種の部分はなく羽毛の布団の中身にも見える、綿ぼこりの集まりにも見えます。



「……可愛いです!」



 ばっちいとか、汚いとかは一切思うことなく……僕は可愛い可愛いと誰も通らない道で連呼してしまい、とにかく何かで保存が出来ないかとお店に戻って、空いている瓶などを探しました。



「……あ、この瓶なら」



 ちょうど、表に出る前に空にしたコーヒー豆の瓶。カスが多少残っていたので、丁寧に取り除いてから綿毛を入れようとしたんですが。



 バク!



 僕の手の中にあった綿毛の塊が、いきなり勝手に動き出して……瓶に入り、底にあったコーヒー豆のカスを覆った……と言うか、食べた??


 まさか、生き物か何か?? と観察しても、口とかなにも見えず、ただただ覆っているようにしか見えませんでした。


 そして、カスをパクパクと食べ終えて少しして……くるっと動いたら、とてもつぶらな茶色の瞳を僕に向けてきました!!



「……生き物??」



 なんでしたっけ?? 都市伝説のようなそうでないような……僕よりもオーナーがこう言うのには詳しいのですが、あいにく今日はまだ来ていない。けど、この子は可愛い可愛い可愛い!!


 僕、男ですが可愛いものには滅法弱いのです!!


 くりっくりで、まるで小粒の宝石のような輝きを持つ瞳……飼いたい気持ちに駆られますが、自宅ではなくここは務めているお店。


 ひとまず、オーナーが来るまで隠しましょうか? と考えたところで瓶を移動しようとしたら。



「おはよーさん」



 そのオーナーがちょうど来てくださいました!!



「おはようございます、賢也けんや君!!」



 彼の名前を呼べば、眠たげな賢也君の目の下には濃いクマがありました。



「今日も元気やな? とりあえず、キャラメルラテ」


「お任せください。あ、ちょっと見て欲しいものがあるんですが?」


柊司しゅうじが俺に??」


「賢也君の方が詳しいと思いまして」



 綿毛の瓶をそのまま彼の前に出せば……眠たげな目をしていた賢也君は、すぐに目を丸くしました。



「こいつ……まさか」


「ご存知ですか??」


「柊司、ケサランパサランは知っとるか??」


「けさ……ぱさ??」


「妖精とか妖怪とか、精霊とかとも思われとる綿毛の塊や」


「さすがは賢也君」



 趣味で小説を書いているだけあって、色々お詳しい。


 しかし、この子が妖怪とかには僕には見えませんねぇ??


 瓶を覗いても、相変わらずくりくりとした瞳を僕とかに向けてくれるだけです。



「つか、どこで見つけたん??」


「オープンした直後に飛んできたので、捕まえちゃっただけですよ」


「……元から妙に幸運体質やしなあ?」


「この子どうしましょう??」



 正直言うと、やっぱり飼いたいです!!


 それが伝わったのか、賢也君は出来上がったキャラメルラテを飲んでから、大きく息を吐きました。



「柊司ならちゃーんと面倒見るし……ま、ええで?? このままやったら、オブジェかなんかに見える程度だしな?」


「ありがとうございます! ご飯……とかどうしましょう?」


「伝承……やと、おしろいやけど。それは普通に売ってないしな?」


「さっきコーヒー豆のカス食べたんですが」


「……雑食か??」


「その後に、茶色いお目々が」


「……実験ぽくなるけど。掃除させる意味で、さっきの豆カスやってみ??」



 と、賢也君が言うので、エスプレッソマシーンから抽出した後の豆かすをたっぷりと瓶の中に入れれば……ケサランパサラン君? ちゃん?? は、またパクパクとそのカスを食べ出したのです。


 ピンポン玉サイズくらいの彼? 彼女?? が同じ大きさくらいのコーヒー豆のカスを何の躊躇いもなく……口は見えませんが、パクパクと食べ進めていきました!!

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