第6話 オレの実感


「え? え!? えぇっ!!?」


 なんだそれ、どういう事だ!!!???



 メダパニどころじゃない、メラゾーマ?

いや、違う。 メダパニーマ? ゆうわくのけん? ほしのかけら?



 とにかく大混乱だっ!




 オレの慌てふためき様を見て、同じような顔になった父が続ける。


「すまない。 本当にすまない。 まさか、自分だけ血がつながってないと思ってるとは思わなかった。」



 待ってくれっ 父よっ 逆だっ

8人中6人血がつながってないって誰が想像するっ




「待って、じゃあ…。」

そこまで言って、盛大なくしゃみが出た。


 忘れてた、オレ、身体が冷えてたんだった。


「先に、お風呂入ってきたら? もう準備できてるでしょ。」

帆香ほのかが言うと、

「あと水分補給。」

と、一華いちかがコップを渡してくれた。




 2人にお礼を言いつつ、コップを空にして、お風呂場に向かう。


 やっぱり喉は乾いてたみたいだ。 5分の1とは言わなくても、8分の1位は無くなってたんじゃないのかな?





 湯船に入ると、身体から力が抜けていくのが分かった。

 細胞に温かさがしみ込んでる感じがする。



「はぁ~……。」



 つい口から息が出る。

お風呂ってこんなに気持ち良かったっけ?




 なんとなく、水の中で自分の手をグーパーしてみたり、手のひらをジッと見てみたりする。



 3か月で、手相って変わるらしいけど、オレはこの数時間で変わった気がする。

それどころか、細胞まで変化したんじゃないかな………もちろん、気のせいなんだろうけど。




 それくらい、自分の感じる世界が変化した。

 母さん達がオレを大事に思ってくれてる事は知ってるつもりだったけど、ホントにで、実感はなかったんだな。





 自分の生みの親を知らない事が、ホントに怖かった。

常に足元がぐらぐらしてる感じ。

いつもどこかに落ちそうで。

落ちた先になにがあるのかも、どこに行くのかもわからなくて。

ものすごく怖かった。




 そう、オレは、ずっと、怖がってたんだ。





 情けないと思えばいいのか、今となってはしょうがないと思えばいいのか、自分の感情の行き先が分からず、顔の下半分を水中に入れて、口から空気を出す。



 ぶくぶくぶく、と泡が音を放つ。



 それを聞いて、小さい頃、お風呂で誰かと濡れたタオルで遊んでいたのを思い出した。

タオルを濡らすと、風船のように空気を含ませられる。

それを水中に沈めると、タオルの無数のすき間の穴から、空気が上がる。

小さな小さな無数の泡は、数秒ですべて無くなって、水中にはただのタオルが泳ぐ。


 刹那的で、花火を彷彿とさせたその遊びを、オレは切なくなりながらも、何度もせがった。



 もう一度、ふくらんだタオルが見たくて。



 水面をボーっと眺めながら、そんな事を思い出していると、ドアの反対側から「はやて?」と声をかけられた。



はじかれたように顔を上げ返事をすると、夕食の準備ができた事を伝えられる。


 そういえば、お腹すいた。


 水中でお腹が鳴る。

聞こえていないはずなのに、ふふっと笑う声が聞こえた。

早く出ておいで、と言ってドアの向こうの影が小さくなる。



 たわいのない会話。



 それもうれしくて、自然と笑顔になった。





 母さんと話した事で、ちゃんと立てるようになった感じがする。


 その足で、オレはお風呂を出た。



 もしかしたら、いつかまたぐらつく事もあるかもしれないけど。

でも今は、安心して立てる場所を見つけた、それがとても、とても嬉しくて心が落ち着いていくのが分かった。






 お風呂を出ると、食卓には湯気を出した鍋を中心におかずが並んでいた。

今日はなんの鍋か聞いたら、オレの好きなやつだった。

うちの鍋は、当日は餅で〆て、翌日うどんにする事が多い。

鍋は全般好きだけど、翌日のうどんを考えると好きな味は絞られてくる。

オレは、鍋のリメイクうどんが大好きなんだ。


 そう言うと、知ってる、と優しい笑顔で母に頭をなでられた。




 ご飯の後、「おいで。 話をしよう。」と父に言われ、みんなとリビングへ行く。


 各々、飲み物や甘味を用意してる。 がっつり、しゃべる時のスタイルだ。

オレも、お気に入りのマグカップにいつものココアを入れて、持っていく。



「そうだねぇ。 …じゃあ、始めから話そうか。」と、父が、目を細め、懐かしむように話を始めた。


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