大家族ー血がつながってない『オレ』のおはなしー

びぃなす

第1話 オレの家族

 


 弱くて弱くて弱くて…そんな自分が嫌で。



 気付いたら、海に叫んでた…。




 ◇◇◇◇◇




 ある漁師町に住んでいる、ある家族。




「朝ご飯できたよー!」



 オレの朝は母の声から始まる。

まだ寝ぼけてる体を起こすために、布団の中で伸ばした。


 隣に寝ていた母の布団は、すでにぬくもりが消えている。

家族の朝ご飯とお弁当を作るために、早く起きているからだ。

自分の布団の後に、母の布団もたたむ。 オレに与えられた仕事。


 うちのルールその1、『家の仕事は、その家に住んでいるみんなでやる。』


 母一人で家の事すべてやるのは無理、君の母はそこまでスーパーウーマンではない、布団の事で言えば、寝ているオレのそばでほこりも立てたくない、と言っていた。


 たたんだ布団を押し入れに入れて、脱いだパジャマも投げ入れた。押し入れの下の段にあるタンスからシャツとズボンを出す、梅雨明けの太陽が今日の陽気を教えてくれている。


 一階への階段を途中まで下りて、キッチンを覗くと「おはよう。二人を起こしてきてくれる?」と母がお弁当におかずを詰めながら、顔だけこちらを向いて言った。



 今下りてきた階段を戻り、4つある扉の一つを叩く。

扉に下がっているドアプレートには、同じ顔の男の子のイラスト2つに『はると&みなと』と書かれている。


「朝だよー、起きてるー?」

返事はない。


 ドアを開けて中に入る。

ドアのまっすぐ前、目線の先に大きめの窓があり、左に二段ベッド、右に机代わりの板が2つのカラーボックスを繋げている。

真ん中には歪み防止の発泡スチロールでできた重なるレンガと、それを挟むようにあるイス。

洋服は、タンスがあるのに畳まれて床に置かれたままの物と、ベッド等にハンガーで掛けられてる物。

洋服が皺になるのが嫌だからと言っていたが、この状態が皺にならないのかと疑問が残る。


 二段ベッドの下の段には目もくれず、はしごを上る。

仰向けに寝ている顔とその首に抱き着くように寝ている同じ顔。

どうして二段ベッドなのに一緒に寝てるんだ、という疑問はもう浮かばない。

声をかけながら、身体を揺らし続ける。

寝起きが悪い二人を起こすのも、もう日課だ。


 先に目を開けたのは、仰向けで寝ていた兄の陽翔はると

時間を聞かれたから答えると、隣のみなとを起こす。

耐荷重の事もあるし、せめて下で寝れば?と提案すると、

「寝た後、勝手にみなとが入ってくるんだ。」

と言われた。

じゃあ、陽翔はるとが下に寝れば良いのに…。



 双子が着替え始めたので、部屋を出て、また階段を下りる。

すると食卓には、おにぎりとハムエッグ、トマトサラダがすでに並んでいて、長男のれんが、母と味噌汁を出していた。

「おはよう。」と言われたので、同じ言葉を返した。

母に「起こしてきてくれてありがとう。 今日も大好きだよ。」と、頭にキスをされながら抱きしめられた。


 母は毎朝、家族みんなに言葉と態度で愛情を伝えてくる。

いい加減恥ずかしいけど、やらないと気が済まないらしい。



 誰かがバタバタと慌ただしく、階段を下りてくる気配がして振り向くと四女の帆香ほのかだった。

「今日朝練だったっ!」

と、急いだ様子で中学のジャージの着替え分をバッグにしまっている。


 同じ部活の近所の幼馴染みから、今朝連絡が来ていたのを起きた時に確認したらしい。

教えてもらって良かったね、なんて言われながら、お弁当を受け取り、味噌汁を急いですすると、おにぎりを口に咥え、「いっふぇいまふっ!」とリビングを出て行った。

その帆香ほのかを追いかけて、母は玄関で頭だけ抱きしめほっぺにキスしながら、「いってらっしゃい。今日も大好きだよ。」と送り出す。



「今日も元気だね。」と穏やかな笑顔で入ってきたのは父、友三ともぞう

某アニメのおじいちゃんと同じ名前だけど、まだ48歳。

父の母であるおばあちゃんが、心の俳句が大好きで名付けたんだって。

本人は嫌がりそうなもんだが、覚えてもらいやすいし初対面のネタにもなる。

それに名前のおかげで母と出会えた、と存外気に入っている。

仕事は作家で、20年前に書いたものが大ヒット。 ドラマにもなったらしい。

以降、出せば売れる状態で、今は1年に1作品出したり出さなかったり。

そんな父とも母はくっついて、大好きだと伝え合ってる。



「…通らせて。」

 キッチンへの入り口で抱き合っていた父と母に、そう言ったのは三女の一華いちか

ごめんごめん、と

母は一華いちかの頭にもキスをし「大好きだよ。」と言った。




 そんなオレたち、長谷川はせがわ家の住まいは、二階建ての一軒家。

二階には、オレと母が寝てる六畳間と双子が寝てる六畳間、一華いちかが寝てる四畳半と帆香ほのかが寝てる四畳半で、4部屋。

一階にキッチン、お風呂、テレビとか置いてあるつづきで6畳間が2部屋と、父の仕事場兼寝室の書斎、あとれんが部屋にしてる、四畳半の離れが一つ。

ちなみにトイレは一階と二階に1つずつで、2つある。 3つあっても良いくらいだなって思う、朝とか特に。



 そう、うちはこの少子化時代じゃ珍しい大家族。



 でも『普通』の家族と違う。




 それは、オレの血がつながってないから。








 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇




 うちは子どもが、オレの他に7人いる、8人兄弟。



 1人目の長女は25歳の社会人、名前は陽菜ひな

近所に住んでる。 月一から月二くらいで帰ってきて、仕事とか彼氏の話を家族としてる。

母似のきれいな顔してるけど、あまり笑わないし、怒ったらチョーこわいんだ。



 2人目の二女は20歳の専門学生、名前は菜乃佳なのか

学校に通うのに便利だからって、陽菜ひなと一緒に住んでる、ルームシェアってやつらしい。

将来就きたい仕事があるらしいけど知らない、教えてくれないから。(別にいいけど…。)

身体が小さいくせに声が大きくて、よく笑う。 だから帰ってくるとすぐわかるんだ。



 3人目の長男は18歳の高校生、名前はれん

サッカー部のエース。 この夏で引退。 はっきり言ってサッカーバカ。

大学の推薦ももらってて、引退しても俺はしないってわけわかんない事言ってた。

『オンナゴコロ』ってやつがわからないらしく、最短1か月経たずに別れたって聞いた。

本人は、全然平気そうな顔して「わからないもんはわからないんだからしょうがなくね?」だって。

でもなぜかモテるらしく、すぐに新しい彼女が出来てるって双子がぼやいてた。



 4人目5人目の次男と三男が16歳の高校生で、その双子。名前は陽翔はるとみなと

二人とも高校生になったら、髪の毛茶髪にしたり服を着崩したりしてて、見た目完全チャラ男になった。 コーコーデビューってやつらしい。

本人たち曰く、双子なのを生かして(?)女の子をよくナンパしてて成功率99%だって言ってたけど、家族は誰も信じてない。



 6人目の三女は15歳の中学生、名前は一華いちか

日本人形みたいな真っ黒の長い髪が腰まである。前髪も目にかかりそうなところで揃えられてて、陽菜ひなとは別の意味でこわい…。

学校に行ってないらしいし、部屋からはあまり出てこないし、籠って何やってんだろ。

でも時々オレにちょっと良いお菓子くれるんだ、食べたらおいしかったからって。 お取り寄せってやつらしい。

一緒に食べながら、話もするし、時々勉強も教えてくれる。 笑った目はやさしい。 だからこわいけど、嫌いじゃないよ。



 7人目の四女は13歳の中学生、名前は帆香ほのか

よく動いてるイメージ。 陸上部らしい。 近所の幼馴染と一緒に入ったんだって。

家にあまりいない。 学校から帰ってきても、すぐ出かけちゃう。

帰宅時間も遅くて、夕食に間に合わない時は怒られてる。 どこ行ってるのか不思議で、一回聞いてみたら、「海。」と短く返された。


 8人目がオレ、四男、9歳、小学生、名前は、はやて。

オレは生後数週間くらいの時に、家の前に置かれていたらしい。

小さなかごの中で毛布にくるまれて泣いてたんだって。

一緒にあったのは「はやて」って書かれた紙だけ。

名前かもわからないし、漢字もわからなかったから、そのままひらがなで戸籍登録したって言ってた。 まぁ、なんでもいいよ、名前なんて。


 そんな経緯でオレは、大家族の末っ子になった。




 家族の事は好きだよ、みんな接してくれる。




 ただ、時々無性に寂しくなる時はある。 気にしなければ気にならない程度だけど。


 例えば、冬休みにみんなでリビングにいる時、「はやてがうちに来たの今日みたいな寒い日だったよね。」なんて始まる。

みんなはホントに懐かしい昔話をするみたいに、言う。

実際、


 小さくて可愛かったとか、ほっぺがぷにぷにだったとか言ってるし。



 でもオレにとっては、『オレは違う。』って再確認する時間で、正直聞きたくない。

だから、その話が始まると目をつぶって寝たふりをする。

そのうちホントに寝ちゃって、最近では目をつぶって、1…2…3、くらいで寝れるようになった。



 でも家族は嫌いじゃないし、感謝してる、ホントだよ?


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