美少女に鍛えられて、プロゲーマーになるんだ!
ういんぐ神風
第1話 序章
「ほら、早く攻めなさい。チャンスでしょう?」
「えっと……」
戸惑いながらもマウスを操作し、戸惑いながら24インチ液晶モニターの中にあるキャラクターを操作している男子高校生、八月一日(はっさく)翔(しょう)。
液晶の中のキャラクター『猛烈パンダ』はうろうろとクリックされた場所へと移動する。しかし、その猛獣戦士の近くにいる敵『恐怖の案山子』には接近することはできなかった。
ただクリックするだけで移動する、簡単な作業なのにこうも戸惑う理由はあった。
それは……
「あのー。久遠さん。出来れば少し離れてくれませんか?」
「?……どうして?」
「胸が当たっています!や、やりづらいです!」
胸が当たっているって!集中して出来ない!
や、軟らかい感触が……この背中に!
翔は心の中で叫ぶ。だが隣にいる犯人には指導している少女が犯人は全く動揺することなかった。
美しい体系の持ち主、誰でも女優と思える体系と美貌の大和撫子。だが、その美貌を台無しするような長い黒い髪をぼさぼさにして黒い双眸。それにかつ双眸にクマがある少女。
久遠(くおん)光(ひかり)、翔と同じ教室で2年B組。ゲーム対戦部所属、プロゲーマーだけど残念美少女。そんな少女が手取り足とり(?)ゲームを教えてくれているが……軟らかい水風船が背中にあたりで手が動けない。
「ふう……」
「うわ!耳に息を掛けないでくださいよ!」
「ほら、集中しなさい。対戦中よ」
クスクスと笑う光に対し、翔は不安を押しこらえ視線を画面に戻す。ゲーム操作に集中した。
ここは『ゲーム対戦部室』。最新のゲーミングパソコンと装備が揃っている。右手で使っているマウスもゲーミングマウス、市場では2万円単位のマウスだ。
覗いている液晶モニターだって5万円以上はするものの、左手で叩いているキーボードは3万円のメカニカルキーボードと右手で握っているのは1万円ゲーミングマウス。最先端のゲーム機器がここにあるのだ。ゲーマーの武器だとも言える。
そして翔はこうして光の指導を受けながらゲーム対戦を身に叩きこんでいる。現在やっているゲームはGod of Fantasy,通称『G.O.F』だ。
『G.O.F』は株式会社Omexが開発したマルチプレイヤーオンラインバトルアリーナゲーム、MOBAというゲームだ。プレイヤーは二つのチームに分かれ、青陣に5人、赤陣に5人の対戦アリーナ。
各プレイヤーは一人の英雄およびキャラクターを選び、アリーナで対戦をする。
プレイヤーはその英雄をマウスとキーボードで操作しながら味方と協力し相手を倒す事、チームプレイが必要になっていく。操作はMMORPGに似ているが対戦全面的なゲームであるため、全員レベル1で始める。レベル上げは各チームがミニオンや英雄を倒す事で徐々に上がっていく。最大レベルは20だ。
「あーあ。もたもたしているから敵の援軍が来た」
「うわわわ!」
操作にもたもたしている所為で、『猛烈パンダ』が追っている『恐怖の案山子』に他の敵の英雄の援軍がやってきた。
『闇の騎士デュラハン』『煉獄の死者ダンテ』『孤高のエルフアミラ』『円卓の騎士ガヴェーン』が画面の右側からやって来る。
見る限り、このまま突っ込む事と返り討ちにされるだけ。相手はアタッカー2人タンク一人とサポート一人。完全で王道パターンのチーム編成だ。
『猛烈パンダ』タンクの一体じゃあ何もできない。この場は逃げるのが賢明の判断。負ける戦場に挑むバカはいない。
撤退しようと、翔は後方へ操作するのだが、
「お前はもう死んでいる……」
「へ?」
光が不思議の言葉を放った瞬間、画面の中にある『猛烈パンダ』上空から光が赤く燃え上がる。丸い球体が出てきた。
そう、これは、
「『円卓の騎士ガヴェーン』のアルティメット、ガラティーン。効果は範囲内の敵一体を対象にし、一定のダメージと3秒間のスタン状態になる」
「あ!!!」
アルティメット、必殺技だ。
この3秒のスタンはどれほど致命的なのか素人である翔もわかる。
ここでスタンを受けると足止めされるとなすべきこともなく棒立ちになった状態、タコ殴りにされる。しかもあのアルティメットをよける方法はない。
予想通り棒たちになっている『猛烈パンダ』はタコ殴りにされて一瞬で倒されてしまった。
「あーあ。これは終りね」
「でも、リスボーンして相手を押し返せるよね?」
実に言うとこのゲームで操作している英雄が倒されることは普通の事である。敗北の意味ではない。一定の時間が経過するとリスポーン、復活する。逆転なチャンスはあると翔は想定する。
MOBAゲームの特徴としては相手の英雄を倒すことが必ずしも勝利する事ではない。勝利条件はたった一つ。それは相手の本拠地にあるネクサスを倒す事だった。
敵の英雄を倒すのは自分のチームが有利になるだけ、だからまだ復活すればなんとかなると思っていたが、
「んなわけないでしょう?あなたが復活するには60秒もかかるのよ?」
「え?!そんなに?」
「レベルが高ければリスボーンする時間も長くなる基本でしょう?」
翔の考えは爪が甘かった。リスボーン時間はレベルに応じて時間が変わっていく。序盤の方はすぐにでも復活するし、両チームは万能ではなくレベル上げや相手をちょっかいするのが仕事だったが、
レベル20になると、全英雄は万能状態。つまりゲームは後半戦に向かっていることだ。そこでプイヤー一人欠けたいま、状況が一気に逆転していくのだった。サッカーでたとえるなら延長時間にレッドカードが一人出たと同じく、戦況を取り戻すことは難しい。
「え。うそ?この二十秒間でタワーが二つも倒された?」
「当たり前でしょ。もう後半戦なのよ?相手のタンク、防御役が消えたいま好機に決まっているでしょう?」
翔は成すべく事なく、味方のタワーが崩壊されていくさまと敵の英雄たちが本拠地に流れていくのを眺める事しか出来なかった。
『タワー』それは本拠地に向かうための塔。敵が範囲に入ってくると受動で攻撃するものだった。つまり、このゲームに置いて防壁になるもの。ここで防壁が二つも消えていくのは災厄だった。
だが、敵の進軍は止まることなく本拠地まで攻めてくる。防壁と邪魔する英雄いないいま、本拠地はガラ空き。攻めない方が可笑しいのだ。
「あ……」
『YOU LOSE』
本拠地のネクサスが破壊されると共に大きく液晶画面に映し出す敗北宣言。
「よわっ。窓から飛び降りれば?」
「……ごめんなさい」
謝罪する以外の言葉が翔は見つからなかった。
自分の弱さはもちろん、教えている人にも失礼だと思っている。集中力が足りていないからこうも負ける。
「おつかれさま。少し休もうか?」
「あ、ありがとう。絵里子」
翔が落ち込んでいると、とん、と熱い緑茶が入った紙コップが手元に置かれる。
送り主に振り向くとワングレングスでミディアムの長さを持った茶色の髪と、にこやかな瞳で送ってくる女子高生。
生天目(なまため)絵里子(えりこ)。外見は一般の女子高生。普通な生活を送り、ゲームの知識はまったくなく。体系も女子高生並みのもので特に目立ったものはない。翔の幼馴染だった。
「無理していない?」
「大丈夫。この試合で新しい知識が増えたから」
「でも、ちょっとやりすぎじゃない?」
「やり過ぎ?一時間半の試合だった気がするけど?」
「ゲームは一日一時間ですよ?」
「えっと、大会に向けて特訓しているのにそう制限掛けられると特訓している意味ないよね?」
そう答えると絵里子はきょとんと目をして「え?私何かおかしいこと言った」みたいな表情をしている。
絵里子はやはり天然でプロゲーマーのことは知らない。
世の中には一日六時間特訓されているプロゲーマーの日課がある。しかし、残念ながら一般世間に知られていないのだ。
ゲーム対戦業界、esport業界は普通のスポーツ業界と違い一般人には知られていなく、称賛もされない。
「いいのよ。絵里子。こいつに気遣いなんてしなくていいんだよ。まだまだ下手だし。子供の遊び程度しか理解できていないのよ」
「あう……」
「まあ、一歩は成長したんじゃない?前は操作すらできていないから。ここはほめてやるよ」
「あ。ありがとう」
クスクスと、悪魔のように笑いを浮かべる光。翔は感謝の言葉をした。
これが落としてから上げる褒め方なのか。
それよりも、光が褒めてくれたのは嬉しかった。
この部活で2番目に強いプレイヤーが褒めるのは、嬉しかった。
しかし、どうして光が翔を鍛えているのか。
それについては理由がある。翔は光と同じく所属の部活、『ゲーム対戦部』であり。同じチームであるからだ。
『ゲーム対戦部』の部員は全員G.O.Fのプレイヤーで、チーム、『不滅の騎士』ゲーム大会のプロチーム所属である。去年の夏には優勝し、日本代表までに駆け上ったゲーマー集団チームだった。
部員は全員で6人+1人であるがこのゲームには未経験と最新メンバーは翔一人であった。(絵里子はマネージャー役であるため特別)
こんなプロなゲーマー集団に未経験で才能もなく入部した翔。
足手まといにならないように今は頑張っているのであった。
「よう、翔!成長したか?」
翔がゲームの反省した時に、扉から声と共にとある男子生徒が入って来た。
その顔は翔と全く同じく、身に纏っている制服も同じだった。外見からすれば全く同じだった男子生徒。英雄的存在。
「あ、お帰り。大翔(はると)」
「兄さん」
八月一日(はっさく)大翔(はると)。翔の双子の兄であり、生まれが一分早い兄にあたる人物だった。
大翔はこの『不滅の騎士』のチームリーダーであり、この部を立ち上げたカリスマの人間。G.O.Fでのポジションはアタッカー。所有している英雄は『光の神ルー』、素早い攻撃の英雄だ。
「また、こてんぱにされているのか?」
「弱すぎるわよ。本当に窓から飛び降りればいいのに。死んだら異世界へと転生してチート能力を持ってハーレムを作れば?」
「面目ないです……」
「まあ、あなたの面倒をみると決めた以上最後まで見るけどね」
言葉でもコテンパにされている翔に少しほめる。
だが、プロゲーマーの目線からさっきの試合結果はひどいものだ。
MOBA系の試合結果は勝ち負けだけではなく、経験値の数字や死んだ回数やレベルの伸長をグラフに表している。
結果上では翔が死んだ回数、得た経験値、相手へ与えたダメージ、タワーへのダメージ、全ての結果が表示されている中総合的に『ひどい』といようしかない。
「死んだ回数10回。相手へのダメージ300。受けたダメージ5000……これは素人だな」
「でしょ?」
光は結果について吐きだすと、しゅんとする翔。
結果は芳しくない。相手は手強い最高難易度のAIだとしても、この結果はプロからすればひどい。
少し重苦しい空気になっていると絵里子は場を和らげようと口を開く。
「あ。でも、光さんは優しいのね。弱いのに最後まで面倒みるなんて。あ、もしかしてこれって男子が言うツンデレってやつなのかな?」
「はあ……なたがお嫁に行く姿は浮かばないわねえ。あなたももっと自分のことを考えた方がいいわよ?」
「ありがとう」
女子同士はいつの間にか言い雰囲気で会話を始まっている。
「しょうがねえものさ!最初はみんなコテンパにされるのが当たり前さ!」
他方は、わはは、と笑い試合結果の画面を見つめている大翔。
(……でも兄さん。G.O.Fを初めてやったとき最初からMVPを取って。圧勝だった話を聞いたことあるけど)
以前に翔が聞いたことある話。大翔が初めてゲームをプレイした時、MVP(対戦結果一位)を取り……完全勝利した。大翔は天才ゲーマーであった。
「うす!また弟を教育中かい?」
「いつも御苦労さまです。マネージャーさん」
「絵里子ちゃん、ちーす」
「あ。三人ともいらっしゃい。お茶用意するねー」
と、また部室に新な三人の男子生徒がここに登場するたびに絵里子がお茶の用意を始める。
一人目は筋肉がもりもりと、肌は日焼けされたような男性。どうみても体育系な男子抗生、斎藤(さいとう)陸(りく)。G.O.Fのポジションではタンク。所有している英雄は『巨人タイタン』、ダメージが通り難い、鉄壁の壁と称されている英雄だ。
「ふむ、見ていると手こずっていますね。前衛でこの結果はかなり厳しい」
二人目はメガネを右手で少し上げ、冷静素早く大翔の後ろに立ち画面結果を覗き込んでいるのは本条(ほんじょう)圭太(けいた)。どう見ても勉強しか興味がなさそう男子高校生。G.O.Fのポジションではサポートの回復役。所有している英雄は『女神ダナー』英雄のHPを回復する事が出来る、長期戦への役割をもつ英雄の一つだ。
「あーあ。もっと優しく教えないと駄目でだぞ?レディーなんだからもっと紳士に優しく」
三人目はパーマな髪を少し揺らしながら、少し高いトーンでさわやかな声と「やれやれ」と肩をすくめながら言う。
彼の名前は秀夫(ひでお)彰人(あきと)。外見はどう見てもゲームに興味なさそうで女遊び好きな男子高校生。G.O.Fのポジションではアタッカー。所有している英雄は『魔女のケルフウェリー』、長距離から攻撃し、交戦外から支援攻撃が出来るある意味重用な役割を持っている英雄だった。
「優しく教えても結果は変わらないでしょう。一番成長が早くなるのは窓から飛び降りるより舌を噛んで死ね。転生した方がいまより強い可能性は高いよ?」
「あのー。さっきまで僕の面倒をみると言いませんでした?」
「ああ。それは死んだ後の面倒のことよ?異世界じゃなくてこの世界だけどね」
「それって墓参りのことですよね?」
「さあ、ご想像にお任せします」
毒舌を回しているのはさっきまで翔を指導していた、光。チームの副リーダーであり、G.O.Fのポジションでは『マイティー』。この『マイティー』とはこのゲームで一体しか存在しかない英雄。『円卓の騎士王アーサ』、レベルに応じてスキルを選択する次第でアタッカーかタンクにもなれる『切り札』とも言える英雄。戦略に応じて『アタッカー』でも『タンク』になる。臨機応変に変えられる英雄。
しかし、レベル上げで取得したスキルの選択をミスすると『アタッカー』のスキルを『タンク』に組み込む事も発生する。その場合は完璧の能力発揮出来ず、中途半端な英雄になり、最弱になる。難しい英雄だ。
このゲームに置いてのスキル選択は一度しかできない。取り消す事が不可能。ここでスキル選択ミスするとゲームの敗北が決まる、諸刃の剣な英雄である。普段のゲーマーはこの英雄を選択するのは避ける。
しかし、光はその天才ゲーマー。状況を読み、手慣れた操作で状況を有利へと導き、勝利へとたどり着ける。この『円卓の騎士王アーサ』をうまく操作が出来るのは彼女しかいないのだ。
そんな天才ゲーマー、光と大翔の二人のコンビでチームの勝利に導いた。『不滅の騎士』ではこの二人のスーパープレイで何度も世間を驚かせた。
「それにしても弱すぎでしょ?これじゃあ私たちの予備選手にもならないわ」
「いいえ。彼は成長期です。鍛えれば強くなりますよ。回復約の英雄にも簡単に手慣れるように操作出来ますよ」
光はまだも愚痴を言うが、圭太は全力でサポートする。
たしかに、成長期にも見えるが本当にそうだろうか?このG.O.Fを初めて一週間だが何か進歩があったのだろうか、と翔は思え返して見る。
「回復役の英雄を手慣れたら私と変わってください。彼ら前に出しすぎて回復が間に合わないのですよ。サポートの身で考えてくださいよ」
「ガハハ。タンクの俺には関係ないな!俺はいつも生きているし」
「その生きているのは私が回復しているからですよ、陸?それに、彰人ももっと私をカバーしてください。特に乱戦の時は後ろも気にしてください。私が死ぬとチームの心臓が消えるのですよ?」
「げえ。なんで俺まで愚痴言われるんだよ。お前の回復は最高とほめようと思ったのに……」
……成長の褒めの裏には、回復役代行を探していたのだ。
このゲームにおいて回復は重要だ。特にチームファイト(乱戦)に入った時。
チームファイト(乱戦)の中で回復役は味方を回復しつつ、その乱戦の中に有利な状況を作らなければ行けない、乱戦の心臓とも言っていい。
回復役が先に落ちるとその乱戦は一気に不利の状況になってしまう。前衛がごりごりとHPがなくなり続いてドミノのように落ちていく。最悪の場合全員その乱戦で落ちることもほぼある。
そうならないためには回復役を守らなければならない。回復役を守りつつ、相手の回復役を倒す。その判断が毎秒で働いている。
場面と状況の判断ミスは全員の命にかかわる、というと過言ではない。
「なら、次は人工知能『A.M.』を誘ってチームに入れようぜ!あれなら絶対に勝てる!」
「不正はダメですよ。彰人。それに、あんな天才な人工知能はもう姿を消されています。もう、消されたんじゃないですか?」
「まあ、それもそうだな。AMに遭った人はもういないしな」
ハハハ、と自分の放った冗談笑う彰人に圭太は『やれやれ』と疲れ切った様子でいる。
(……A.M.か……)
翔はその名前を軽く呟く。
A.M.、人工知能一つ。去年の話題の一つ。全世界ネット上に現れて人と接触し、問題や質問を解決してくれる人工知能。話し相手にもなってくれ、人と会話で知識を増やしている。初めて心がある人工知能だった。
誰の前にも表れ、ネット検索をすれば出て来る便利な人工知能。問題も解決して、子供からお年寄りまではなし相手にもなってくれる、まるでネットアイドルにでもなっていた。
実際彼女の姿は女性、無論偶像の姿であるが美貌を持つ少女だった。
しかし、そんなある冬の日。A.M.は姿を消えた。誰もかもその行方を知らず、もしかすると消されたとでも噂もされていた。真相は誰も知りえない事だった。
「おいおい。お前ら何変なものを弟に押し付けているんだよ。こいつにはこいつの役目があるんだ」
「兄さん……」
大翔の言葉に翔は少し困惑する。自分にそんなゲームの才能があるのかと。
その反論を聞いた圭太はまたも右手でメガネを上げて、質問を問い掛ける。
「なら。あなたの目線では彼の的確のポジションは何だと思いますか?」
「知らねえよ。そんなこと」
「はあ?」
思わず声を上げたのは圭太ではなくチーム副リーダーの光だった。投げやりな答えしか返えてきた。これって責任のない返事なんじゃないかな。
(兄さん、僕……才能がないじゃないのかな……このチームを抜けた方がいいのかな……)
「いいか。弟の道は弟が決める。俺たちが横で水を差すことは出来ないだよ。チームのポジションだって大体は埋まっている。だから、何をプレイしたって予備選手になれるのさ」
たしかに『不滅の騎士』の状況ではポジションはバランス的で埋まっている。タンクが一人、サポート一人、アタッカー二人、アタッカー/タンク一人。ある意味役割はもう揃っている。変えたとしてもアタッカーがサポーターになるかタンクになるか。だから、ある意味補充は必要性がないのだ。
もし、あるとしたら万が一に備えこの中が誰かが抜いてもその穴を埋めるようなポジションにならなければ行けない。オールマイティ、全ての英雄をプレイ出来なければ行けない。兄のように。
ある意味ハードルがぐっと上がった。これは何だが本当にオールマイティをやらせるのだろうか?
と。緊張感を追い払うように次の大翔の言葉が放たれる。
「一番重要なのは楽しければいいのだよ!ゲームってそういうものだろ?」
「あ……」
「なら、我が弟よ、問う!おまえはゲームが好きか?」
そうだった。この質問の答えは既に知っている。簡単な答えじゃないか。
当たり前だよ。ゲームは、楽しい・
「楽しいよ」
ゲームは楽しいから続けられた。下手でもプロでもその楽しさが実感出来るからやめられないだった。
もしかするとこの感情はゲームだけではなく、スポーツ選手も同じではないだろうか?楽しいから続けられる、そして強くなれる。こうじゃないのかな?
「ならよし!おまえは『不滅の騎士』の一員だ!」
「ありがとう……」
「そして、今から強くするためやることは決まっている」
「やること?」
大翔の言葉に僕は目を丸くする。
強くするためは何をすればいいのだろうか?
考えているうちに、大翔の方から先に口を開く。
「会議をしよう!課題はそうだ。さっきお前が失敗した点はなんだ?リプレイを見ながら考えてみよう!お前らも手伝え」
「オス!」
「わかりました」
「へい」
「はあ……まあ約束したものは守るよ」
その言葉にみんなは様々な答えで返事し返す。
反省会であった。さっき僕がミスしたところを探し、どう改善していくのか。ディスカッションして練習していく
実は珍しくないものだ。スポーツ選手や芸の人やプロの業界では自分がやった行動を振り返って改善することが多い。この修練をつける事で上達していく、前へ進むのであった。
大翔は本気で僕を鍛えている証拠の一つだった。
「いいか!俺はお前をチームリーダーにしてやる!覚悟して置けよ!」
前向きで、眩しくて、翔に取っては相当及ばないカリスマ性のゲーマー八月一日大翔。チームの支えにもなり、柱にもなっている人物。
いいや、違う。チームだけではない。日本のゲーマー、G.O.Fのプレイヤー全ての柱でもあり。憧れでもあり。日本代表プロゲーマーで誰もが大翔のようになりたいと思っている。
だから、翔も前に進めなくちゃ。兄のように、眩しくてその場へ立ちたいと思えた。兄みたいなゲームの英雄もたいになりたいと思えた。
「あ。お茶出来たようーどうぞ」
「「「「「あ」」」」」
全員がテンションを上げている時に絵里子はお茶を運んでくる。さっきまで会話に参加していなかったのはお茶を用意していったからだ。
全く存在感が薄いのは昔と変わっていないな。と、翔は心の中で懐かしい記憶が蘇り少し苦笑しながら絵里子に顔を向けた。
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