第30話 救えた命、救えなかった命、そして旅の終わり

 救えた命、救えなかった命

 色々ある。


 ブラッドが3人に指示したのは戦場での選別、つまりトリアージだ。


 死体の顔には布を掛け、その布にXをマークする。


 そして急を要しない奴は一箇所に集め、ニスティに様子を見させ、意識を失ったりしたら知らせるようにした。


 タミアとマリーナは応急処置だ。


 グレイズの部下2人に、息絶えそうな奴を最優先で知らせろと言ってある。


 本来のトリアージは無情だが見込みの薄い奴は切り捨てて、救える命を優先する。


 今回怪我をしたのは15人だ。

 5人が重症で意識がない。血がドピューっと出ている奴もいる。


 まずはブラッドはそいつに回復を掛ける。


 瞬く間にとは行かないが、徐々に傷がふさがり、血は出なくなった。


 中途半端だが、グレイズの部下に様子を見させた。

 次の奴に取り掛かる。取り敢えず命の危機を脱するに留め、命を落としそうな奴に切り替える。

 意識のない5人の応急回復が終わった途端に、ブラッドはニスティーに呼ばれた。


「ブラッド様、こちらの方が意識を失くし、痙攣を始めました」


「分かった。今行く」

 

 ブラッドはフラフラだった。既にかなりの魔力を使っており、涸渇はしていないが慣れない事に体が慣れておらず、真っ直ぐに歩けなくなっていた。


 ニスティーの所に着くとニスティーはブラッドに押し倒され、胸に顔を埋めてきた!


「何よこの獣!人が死に掛けているのに、私を襲うなんて卑劣な!」


 しかし、ニスティーは異変に気が付いた。ブラッドの息がかなり荒いのだ。


「悪い。痙攣している奴に俺の手を当ててくれ」


「ちょっと、貴方凄い熱じゃないの!」


「済まない。今にも気絶しそうだ。頼む」


 ニスティーは言われるがままに、ブラッドの手をその者に触れさせた。


「今触っているわよ」


「ああ、ありがとう」


 ブラッドは今にも死にそうな護衛の者に回復術を使う。


 すると怪我は見る見るうちに癒えて行ったが、ニスティーの胸に顔を埋めたまま遂に気絶してしまった。


 死に掛けていたのはその一人が最後で、ブラッドのお陰で戦闘後に死んだ者はいなかった。


 結局死亡者は護衛の者が3名だった。


 また、襲撃者で生き残ったのは8名で、ブラッドが一騎打ちでリーダーを討った後に一部が逃げたが、この者達は気絶していて捕らえられたのだ。


 今はグレイズにより奴隷紋が刻まれ、奴隷となった。

 死体は護衛の3名はその場で埋葬し、敵は金目の物を剥ぎ取り、その場に捨て置く。


 ニスティーはブラッドを膝枕をして介抱していた。


 3時間位して死体の片付やら馬車の応急処置が終わり、そろそろ出発となった。


 さて、ブラッドをどうしたものかとなった時にブラッドが目覚めた。


「ニスティーか。いまいち状況が分からないのだが、何故俺はお前に膝枕をされているんだ?いつの間に俺達はそういう間柄になったっけ?」


 ニスティーは涙を流していた。


「そんな訳ないでしょうに。皆を救った英雄を地面に寝かせる訳にいかないから膝枕をしてあげただけだから、勘違いをしないで。貴方に心を許した覚えはないわよ。しかし貴方は馬鹿なの?なぜ倒れるまでやったのよ?」


「なあ、戦闘後に何人死んだ?」


「ゼロよ。あんたのお陰でね。でも残念ながら戦闘中に3人の方が亡くなりましたわ」


「そうか。誰が死んだんだ?」


「護衛に雇われた傭兵の方が3名よ」


「マリーナとタミアは無事か?」


「怪我一つないわよ」


「そうか。怪我をしている奴はまだいるのか?」


「怪我人は馬車の中にいる筈よって、まさか貴方、そんなフラフラな状態で回復術を使うつもりなの?また倒れて辛い目に遭うのよ?」


「俺の事は気にするな。それより苦しんでいる奴がいるのなら、早く楽にしてやろうぜ。まあ、その、心配してくれてありがとうな」


「別にあんたの事なんかどうでも良いのよ。あんたが死ねば私達も路頭に迷うのよ。それに転売されたら私の純潔が散らされるの。だから気を付けなさいよ」


「ああ。分かっているよ。お前程の女だ。心から愛してくれる奴に抱かれるまで守り通す権利がある。その羨ましいやつの為に守り通すんだな。じゃあ、俺は皆を助けるから、倒れたら馬車の中に入れてくれ」 


 そうしてフラフラながら、ブラッドは痛みに苦しむ護衛の所に行く。レイガルドが心配そうにしていたが、大丈夫だと首を撫でた。


 そうして治療を終えると、ブラッドは逆に治療をした者達に肩を貸されながら馬車の中に転がり込み、寝かされて3人に介抱されていた。


 タミアは複雑だった。女として見向きをされていない。ブラッドはどうやら昔の恋人に操を立てている。もしもブラッドの女になるのなら、その恋人にハーレムの一員に加えて欲しいと頼むしかない。昨晩女を買ったと言っていたが嘘だった。そうしないとニスティーとマリーナが不安がるから、女を買って発散した事にするようにグレイズにお願いをしていたと、タミアはグレイズから聞かされたのだ。


 ブラッドはハーレムを作る許可証を持っているから、世間から後ろ指を指される事はない。


 その後は順調に進み、翌日にはブラッドは回復し、目的の町に着いた。グレイズは約1週間いるとの事だ。もし王都に戻るのに行動を共にするならば、その前に戻るようにと言われ、握手をして別れた。


 ブラッドは目的の村に行く前に一泊する事にした。目的はかつての仲間を探す事だ。やり残した仕事が一つあるのだ。確かアイツラはこの町の出身者だったなと。


 ブラッドは3人に兵士時代の仲間がこの町にいる筈だから、それらを探すとし、別行動をとなった。


 酒場を何軒か回ると、漸く一人いた。皆この町にいるとの事で、全員を大至急集めるようにと伝えた。目的を話すと目を輝かせ、娼館に向かう。皆今の時間は娼館に入り浸って、お気に入りの女の乳首を吸っているという。


 竿なしのやれる事はそれ位だ。


 やっている最中の客もいるが、お構いなしにずげずげと中に入る。用心棒が止めに掛かる。


「止めておけ。店を壊したくない。俺は性騎士殺しだ。大体の実力は分かるだろう?昔の仲間を探している。これは迷惑料だ」


 あの兵士達から回収したお金で懐は潤っていて、金を渡すと頼むから壊すなよと通された。

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