ありきたりな冬空の無色の雪

絵之色

第一話 とある冬の日の出会い

 祖母の草子そうこに会うために、俺こと榊護さかきまもるは都市の中央病院に来ていた。

 俺は一人で電車を乗り継いで病院に着くと、病院内にある自販機からホットココアを買う。

 受付の人に面会用の紙を適当に書いて渡してから、エレベーターに乗った。

 俺はばあちゃんが入っているいつもの病室の扉を開けた。


「ばあちゃん、来たぞ――――」


 窓辺に立っている人物を見て、俺は息を呑んだ。

 ばあちゃんじゃないのはすぐにわかった。

 冬空の淡い青空にだって負けていない、透き通った水色の双眸が俺を見据える。まるで雪の結晶をそのまま髪として定着させたとすら感じさせる神秘的で美しい寒風かんぷうで流れる銀髪は、婆ちゃんの温かみのある白髪しらがと、何か違うように思えた。


「貴方、誰?」


 彼女の唇から漏れる澄んだ声に俺は慌てて病室名と名札を確認する。

 そこには304号室と、鏡雪姫かがみゆきひめとあった。


「すみません! 間違えました!!」


 俺は慌てて力加減が出来ず思いっきり扉を閉める。病室移動してたのか、そういえばばあちゃんから連絡がメールであったのに忘れてたな。


「えっと……? 307号室、か」



 ◇ ◇ ◇



「あはは! 何やってんだい護ぅ」

「……ばあちゃんを笑わせる話ができてよかったよ」

「結構恥ずかしいんだろう」

「うるさいよ」


 愉快そうに笑っているばあちゃんを見て、少しほっとする。

 俺は椅子に座りながらばあちゃんに質問する。


「それで、その……間違えた病室の人、ばあちゃんは知ってる? 鏡雪姫って人なんだけど」

「あーユキちゃんかい? よく遊びに来てくれるよ」

「へぇー……」

「……護、アンタ渇消症かつしょうしょうって病気知ってるかい?」

「何それ」

「……死んだら骨も残らい病気らしいよ、聞いた話ではだけど」

「……え?」


 葬式で骨を骨壺に入れるが習わしの日本。

 日本独自のその行為を許さない病気がこの世にあるとは思いもしなかった。

 あの後、俺はネットで検索して調べ上げた。

 渇消症けっしょうしょうとは俗称で、本来は結晶化症候群と呼ばれている。

どういう病気かと言うと、結晶化症候群にかかった人間は体の中で血液を作るのが不可能になるのが大きな特徴だ。

 水を飲むことをやめてしまったら体中の筋肉や細胞などが結合していき、最終的に氷の彫像のような固体になってしまうことから、この命名をされたらしい。まだ結晶化症候群が知られていない時は、一般の人には水中毒になったと勘違いして、逆に水を飲まずに多くの患者が亡くなったことがあったそうな。

ちなみに渇消症けっしょうしょうは水中毒とは異なり、低ナトリウム血症という症状が出ることはない。現在も治療方法が確立してなく、進行を抑えるために患者に水を飲ませるという対症療法しか行われていない、と書かれてあったのを見て俺は頭を抱えた。


「あの子、こんな病気にかかってたのか」


 しかも一部の患者のブログには、冬の時に雪に当たると火傷のような炎症を引き起こす、と綴ってあった。


「……冬の時期、絶対外に出られないってことだろ? 苦痛すぎるじゃないか」


 俺はゲーミングチェアに思いっきり持たれた。

 ……もし、俺もそういう難病にかかってたら、こんないじめなんて受けなかったのだろうか。


「……馬鹿なこと考えてるな、俺」


 自分の状況が耐えられないからって、そんなことを考えるなんて馬鹿のすることだ。俺は、晩飯を作るために適当にカップラーメンを作って食べることにした。

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