氷の魔法使い

孤独な夜







 時に、夜は寂しくなる。

 孤独で、冷たくて、寒くて、独りぼっち。永遠に氷の中に閉じ込められているように感じる。


 氷は好き。わたくしを助けてくれたものだから。


 今でも忘れない。恨み。憎しみ。朝は笑顔の仮面で隠す。下心が見える男の目はわかりきってる。肩を撫でてきた奴がいたら、翌日には消えている。病院送りか、交通事故で亡くなるか、あるいは自殺だと報道されるか。その度にわたくしは涙を流すふりをする。馬鹿な奴らは騙される。パルフェクトはなんて良い子なんだと感動する。


 上辺だけしか知らない奴らが、わたくしを好きになる。

 だからわたくしはそれを利用する。

 人は利用してなんぼのもの。

 伝手は使うべきもの。

 お金は稼ぐもの。


 地獄を見たわたくしに、失うものは何もない。わたくしは完璧。パーフェクトのパルフェクト。


 ただ、失うものはないけれど、――失いたくないものは存在する。


「……っ……」


 息を殺した音を聞いて、目を向けた。ルーチェが唇を噛んで堪えている。大変。このままじゃ傷になっちゃう。こんなに柔らかくて、温かい唇なのに。手を伸ばして、人差し指で優しくルーチェの唇に触れる。


「ルーチェ」

「……んっ……!」

「我慢しなくていいよ」

「うわっ、ちょっ……ひっ……!」


 下着越しから濡れてるその部分を指でなぞってあげたら、ルーチェが顔を真っ赤にさせて、わたくしの腕を掴むの。ああ、可愛い。我慢してるルーチェも、震えるその手も、可愛くて、愛しくて、たまらない。


 ルーチェが荒い呼吸を繰り返し、虚ろな目でわたくしを見上げる。その目もいい。ルーチェの瞳って、なんでこんなに綺麗なんだろう。その目玉をくり抜いて、瓶に入れてコレクションにしたいくらい。だって、瓶にルーチェの目玉を入れたら、いつだってわたくしと目が合うじゃない。


 それって、とっても素敵。


「ルーチェ……♡ お姉ちゃんがイッてないのに、イっちゃ駄目でしょ?」

「……。……」

「お仕置き、しようね……♡」

「あっ……」


 ルーチェに触れたら、またルーチェの体が跳ねてしまうの。それが、また、もう、とんでもなく可愛くて、つい、やりすぎてしまう。


「あっ! だめっ! ああっ!! ああーーー!!」

「あはははは♡! 可愛い♡! ルーチェ♡! 可愛い♡! 可愛いよぉ♡!!」

「やっ、ごめ、なさ……」

「うふふ♡ どこ行くの? まだ、お姉ちゃんが満足してないんだから、だめでしょ?」

「あっ、ごめ、なさい、あっ、いやっ、あっ、許してくださ……あっ、あっ、いやっ、あああああ……!!」

「あはは♡!! ルーチェ♡! ルーチェ♡!! ルーチェ♡!! ルーチェ♡!!」


 わ た く し の ル ー チ ェ 。


「大丈夫。お姉ちゃんはルーチェの味方だからね」

「守ってあげるからね」

「ルーチェだけは、どんなことがあっても」


 白目を剥いて気絶する可愛いルーチェに、優しく優しくキスをした。




(*'ω'*)



(……あのクソ女殺す……)


 真夜中に目が醒めたルーチェが、体全身の痛みを感じて、強く決意を決めた。


(あんな……恥ずかしいことさせやがって……。毎回……毎回……別のパターンで来やがって……。ふざけんな……。パルフェクト……。あたしが魔法使いになったら……覚えてやがれ……。ついでにミランダ様にチクってやるから……!)


「……んぅ……」


 後ろの影がもぞもぞと動く。手が伸びて、ぽんぽんと辺りを叩いて探す。しかし目的のものは近くにいないようだ。パルフェクトが前方に動いて手を伸ばした。頭に触れた。ああ、いたいた。ここだ。と言わんばかりに近付き、後ろからルーチェを抱きしめた。


「んー……」

「……クソ重てえ……」

「……クソとか言わないの。口悪いぞ……」


 寝惚けた声が聞こえて、ルーチェがため息をついた。


「お姉ちゃんのせいでか、から、体、痛いんだけど」

「……んー……。……もう一日泊まっていいよ……」

「泊まるか」

「ルーチェなら、ここに住んでいいよ。……ふわぁ……」

「いい加減彼氏作りなよ」

「そんなクソいらない」

「こら、クソとかい、言わない。口悪いぞ」

「ルーチェ……。……お姉ちゃんは……ルーチェがいてくれたら……なんでもいいの……」


 ルーチェを抱きしめてる時だけ、体が温かくなる。


「……キスして……。ルーチェ……」

「やだ」

「んー」

「んっ」

「ちゅう。チュッ。……ちゅう」

「……うるさい……」

「キスして……」

「……あー……もう……」


 ルーチェが振り返り、パルフェクトに近付く。唇を寄せたのを見て、パルフェクトが瞼を閉じ、太陽のように温かい唇を堪能する。この時だけは、生きてる感覚になる。ルーチェがいる時だけは、世界が潤って素晴らしいもののように感じる。


 だから、自分はこの太陽を守らなくてはいけない。この光を傷つける奴らがいたら、パルフェクトは全力で叩き潰すことだろう。


「……ルーチェ」

「……何?」

「……大好きだよ……」

「……はいはい」


 ルーチェがパルフェクトの胸にすっぽり収まった。その仕草を見て、パルフェクトの胸がキュン♡と鳴った。一方、自分とは違う大きさの胸を見て、ルーチェが舌打ちする。


「デカパイめ……」

「……見る?」

「見なくていい」

「ルーチェ、まだ遅いから……おねんねしようね」

「……ふわぁ……」

「お休み」

「……お休みなさい。お姉ちゃん」

「……愛してるよ。ルーチェ……」


 世界なんていらない。

 命なんていらない。

 何もいらない。


 ルーチェ以外、何もいらない。


(……朝はルーチェに美味しいトースト作ってあげなきゃ)


 パルフェクトは微笑み、ルーチェの寝顔を見つめながら眠りにつく。血は争えない。いつの間にか同じポーズで眠っていた。


 星空が二人を見守る。


 孤独な夜は来なかった。






 孤独な夜 END(R18フルverはアルファポリスにて)

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