第3話

※この話はフィクションです。


年商と売上高は同じだ。


係長から放たれた言葉である。

私の頭の中は疑問符で占められ、係長の説教は滑っていくのであった。


時は18時50分。

我が社の就業終了時間は19時である。

10分前となると、明日出社の方に引き継ぎをしたり等やることがあるのだが、今日は落ち着いていたので教えていただいたことのまとめ、勉強、先人の足跡を辿ったりしていた。

この時、係長は不在である。

上から歓声が上がったのが聞こえた。何かやっているのは明白であったが、事務所を開けるわけにもいかず、私は1人パソコンの前で悩んでいた。

関連会社の同期が辞めると聞いたのだ。

辞めたいという話は前々から聞いていた。ただ話す余裕もなく、それだけになってしまい、関連会社で仲の良い人ができていたので大丈夫そうだな、と思っていたが、追い詰められていたのだった。選眼力も観察力もない自分を悔いた。最後に話をしたい。私も最近は辞めることを考えている。画面の前でため息をついていた。ため息をついてもパソコンの解答はない。当たり前だ。臭い息を吐きかけるなくらい思っているかも知れない。

思考を巡らせていると、一本の電話が入った。地方の営業さんからの弾んだ声だった。

契約が上がったとのことだった。

営業さんの努力が報われるのは嬉しい。人の喜んでいるところを見るのは好きだ。

しかも、大型だ。

契約が入ったら、会社全員にメールを送らなければいけない。

契約のメールを打とうとした時だった。

お客様の商品に不具合が見つかった。

しかも、工事が必要な様子で在庫がないと最近話題になった物だ。メールを慌てて送ると、私は3階まで駆けて行った。

なんとかなった。

関連会社も連絡が取れてお客様を待たせることもない。在庫も探してくれてありがたいことだった。

ホッとして3階を後にしようとした時だった。

呼び止められた。

先ほどの歓声は飲みものを掛けたじゃんけんだったらしい。私もコーヒーを奢ってもらえることになった。

嬉しいが、頼むから誰か事務所に居てくれ。

今度こそ部屋を後にした。

営業が階段から上がってくる。

明日お客様のところに行くから、データを打ってくれ。

めのまえがまっくらになった。

階段から落ちそうになりながら、全力でパソコンの前に座った。19時はもう過ぎている。

元々データ入力がしていたお客様であることは幸いだったが、先になると考え、細やかなチェックをしておらず、慌てて確認すると、係長に最終確認をお願いした。

19時を過ぎたら、ゴミ捨てをしなければならない。上着を着るのを忘れ、足先から斬るような寒さが襲い、指まで冬将軍に滅多刺しにされた。

ゴミ捨てから戻ると、激怒した係長がいた。

書類を渡す時はわかりやすいようにして渡せ。指摘の通りだ。これは私が完全に悪い。

言い訳になるが、係長が家庭の事情で19時半に帰ってしまうので、すごく慌てていた。

そして、上記の件である。

しかし、この入力の制度が決まった際、年商と売上高は違うと言われていたのだ。制度が始まったのは去年の6月。まーた係長忘れたのかと思っていたが、これは八つ当たりであるな、と思い至った。

そもそも何故こうなったかというと11月の売上の計算が間違っていたのだ。

入力は係長である。

営業さんに給料を10万多く渡していたのだ。

計算は営業さんもしているはずで気づいていたはずだった。当然返せとなる。しかし、今は1月。年末年始は物入り用である。全て使ってしまっていたのだ。

どうしたかというと、社長に10万借りたのだ。

社長の奥方は係長。家庭の財布の紐を握る人間である。10万は大きい。Switchが何台買えるか。加えて、社長はたびたびこの営業さんに係長に内緒でお金を貸している。

怒りが沸き、ストレスになるのは明白だろう。ついでに私は未だ仕事ができない。

さあ、どこに当たるか。

年下で仕事も出来ず、言い返さない私しかないだろう。

容易に想像できることだった。

年商と売上高について、説教するくらいなら内容確認してくれ。

私の扱うデータは特殊であり、一度入力したら変更は効かず、お客様の同意が必要なのである。面倒なシステム故片手で数えるくらいしか案件がない。説教後、ざっと確認しただけだけど、大丈夫じゃない?という言葉が出た。

信じられなかった。

何もかも全て無駄ではなかろうか。と考えながら車に乗っていたら、ウィンカーを忘れそうになった。ドリンクホルダーに入れた温いコーヒーが腹立たしい。窓から放り投げたい。

家に帰るとLINEが来ていた。

先に帰ってしまい、申し訳ないこと、最後荒っぽい説明になったのを謝る内容だった。

また今度、丁寧に説明してくれるのはありがたいけど不安に駆られる。また「こんなことも知らないの?」とか言われるのだろうか。最近は不信感がある。請求書は必ず出せ、と言われていたのに、今日また聞いたら、別に良いと言われた。「だーかーらー」は余計だ。一回振り込まれなかった事件があっただろうに。

苛立っていたので家族に返信内容を相談しながら、スマホをこたつ内にぶん投げて、わたしもこたつに潜り込んだ。

人の声を聞きたくない。

あぁ、せめてもう1人事務が欲しい。

7〜10月まではミスは少なかったのだ。係長の評価は良くなかったが、電話やメールを送る人間がもう1人いたので、こんな慌てたことはしなかったのだ。

今、何故この文を書いているかというと、寝ていたが、入力した内容が不安のため、動悸が走り、飛び起きたからだ。

わたしはもう疲れた。

だか、来週からは冬の太陽の君の復活だ。

気は紛れるだろう。

私だって愚痴はもう吐きたくないのだ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る