第25話 GW明けの仕事はしたくない

 今日から再び仕事だが、 さすがGWの後って感じだ。

 この憂鬱な気持ちと身体の倦怠感、身体に鉛でも乗っているんじゃないかというくらい動かない。間違いない、これは「五月病」の発症間近だ。


 入社当初の頃も一回発症したのを思い出した。あの時は確か兄弟子の雅弘(まさひろ)さんに「気合い入れろ!」って言われて頭叩かれて目覚めたんだったな。

 あの人は手加減っていうものを知らないからな、あの一撃で俺の頭吹っ飛ぶかと思ったよ。


 この歳でまた頭叩かれるのも嫌だし、この仕事も残り一ヶ月とちょっとで終わらせなくてはいけないから気持ちを早く切り替えなくては。


 誰よりも早く、俺は七時半に現場に入って仕事を始めた。本当は八時からなんだが俺は特別に許可を貰ってるから問題はない。

 GW前には外壁は仕上がっていたので、残っているのは内装だけだ。俺は中に入り仕事を始めた。


 この誰もいない静かな三十分間が俺は大好きで仕事が捗るのだ。だから俺はよく一人で現場を任せられる事が多かった。普通は大人数でやった方が早いはずなのだが、俺一人の方が早く終わるのだ。決して手抜き工事をしてる訳では無い、ただ単純に集中力が増すだけだと俺は思っている。


「おはよぉ」


「雅弘さん!おはようございます!」


「GW明けだってのにお前は相変わらず7時半に来てたのか?仕事熱心なのは構わねぇがよぉ、ちゃんと休んだんだろうな?」


「もちろんですよ!今年は充実した休みでしたよ!」


「珍しいな、お前がそんな笑顔見せるなんてな」


「え?今の俺そんなに笑顔になってました?」


「ああ、他のやつも見たらびっくりするくらいのな」


 俺は基本笑うことがなかった。よく笑うようになったのは日菜乃に出会ってからだろう。あいつのおかげで人と話すことの楽しさや大切さを学ぶことが出来た。


「悠人さん!おはようございます!」


 入社して二年目の若い子が挨拶してきた。


「おはよ〜、GWどうだった?」


「彼女とディズニーとか行けて楽しかったっす!そういう悠人さんはどうでした?」


「俺はかなり出歩いたな。関西まで行ってきたし」


「あっちまで行ってきたんすか!?凄いっすね!」


 今の俺と話す同僚は必ず「悠人さんって人柄だいぶ変わりましたね」と言ってくる。正直変わりすぎだと自分でも思う。俺は仕事の内容以外で同僚と話すことがなかったが、今では最近のトレンドや趣味の話を自分から進んでするようになった。

 仕事していく上でコミュニケーションを取ることがいかに大事か、俺はここ最近でようやく理解した。


「月城、お前いつからそんな美味そうな弁当食うようになったんだ?」


 昼休憩中、俺は現場で雅弘さんと一緒に弁当を食べていた。

 俺はもちろん日菜乃の手作り弁当だ。


「再就職してからですよ」


「だよな、前はコンビニの弁当かカップ麺だったもんな。ちなみに誰が作ってくれたんだ?彼女か?」


 俺は米を吹き出した。


「あははっ!冗談!冗談!お前に彼女なんてまだ出来ねぇよな!すまんすまん」


 雅弘さん、その言い方はかなり傷つきますよ。

 大きな鎌で首元から腰辺りまで一気に裂かれた気分です。


「いますよ、彼女」


「……え、嘘?まじで?」


「まじですよ」


「――――皆聞けぇぇぇ!月城に彼女が出来たぞぉぉぉ!」


「ちょ!雅弘さん!やめてくださいよ!」


「なんでだよ!月城に彼女出来たんだぞ!?皆に教えないでどうするよ!」


「だからってそんな大声で言わなくてもいいじゃないですか!恥ずかしいですよ!」


 雅弘さんの声を聞き付けて、周りで昼ご飯を食べていた同僚達が俺のもとにやって来た。


『悠人さん彼女出来たんですか!?』


『どんな子なんですか!教えて下さいよ!』


『遂にモテ期到来っすか!羨ましいっす!』


 困ったことになった。俺が女子高校生と付き合っているなんて、口が裂けても言えない。俺の顔から冷や汗が流れ始めた。

 どう言い逃れするか、俺は考えた末に嘘をついた。


「……一個下の彼女だよ」


 俺はどうして彼女がいるなんて暴露してしまったのか後悔した。自分で自分の首を絞める形になってしまった。

 俺に彼女が出来たことはあっという間に会社全体に広がり、皆が祝福してくれたが俺は少したりとも嬉しくはなかった。


        *


「……ただいま」


 俺は生気(せいき)の無い顔で帰宅した。


「悠くんおかえり〜!」


 日菜乃はいつも笑顔で迎えてくれたがそんな日菜乃が今日は一段と輝いて見えた。


「……やらかした」


「何したの?また誰か殴ったの?それはまずいよ?」


「さすがにそれはしてないから安心しろ。彼女いることが会社にバレた、しかも広まった、最悪だ」


「それなら良かった、じゃあご飯食べよ?」


「良くない!女子高校生が彼女なんて死んでも言えるわけがないだろ!」


「あ〜、もしかして悠くん、嘘ついてきたのね?」


「……」


「嘘つくくらいなら言わなきゃ良かったのに」


「しょうがないだろ、そういう流れになっちまったんだから」


「でも遅かれ早かれ、そのうちバレちゃうよ?」


「バレた時はどうしようもない。てか、どうしよう」


「何も考えてないんじゃん」


「とりあえず、バレないようにするしかないか……困ったことになった……」


「まぁ、せいぜい頑張ってくれたまえよ。私と付き合う事を最終的に決めたのは悠くんなんだからさ」


 ドヤ顔でこちらを見つめる日菜乃に俺はさらに意気消沈としながらも、渋々ご飯を食べることにした。

 今日ばかりは気分が良くないせいか、あまりご飯が美味しく感じなかった。


――――明日から会社行きたくねぇ。


 俺の感情を読み取ったのか、日菜乃が「絶対に休むなよ」という表情でにっこりとこちらを見つめていた。本当に恐ろしい女子高校生を彼女にしてしまった。

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