第11話 人騒がせな俺の彼女

 時刻は八時過ぎ、無事に今日の仕事が終わり俺は帰路についていた。


「つ、疲れた……」


 仕事ってこんなにもきつかっただろうか。

 前はあんなにも軽々と持ち上げていた材木が持ち上げれなくなっていたり、足場の昇り降りがきつくなったりと、俺は二年間の生活が如何に身体全体に悪影響を与えていたのかを思い知らされた。

 とりあえず、早く飯食って風呂入って寝たい。

 こんな生活がまた続くと思うと地獄だった。


「た、ただいま……」


「あ!悠くん!おかえり!」


 なぜ俺が帰ってくる前から日菜乃がいるのかというと俺が日菜乃にスペアキーを預けたからである。先に家にいれば俺が帰ってくる時間に合わせてご飯の準備が出来るからという日菜乃からの強い要望があった。

 俺としてもその方が助かった。

 帰ってきてすぐにご飯が食べれるのは本当にありがたい。


「それで悠くん、先にご飯にする?お風呂入る?それとも、わ・た・し♡」


「ご飯」


 俺は相手にする必要なしと判断し、即答した。


「もーう!悠くんのばか!少しくらい付き合ってくれてもいいじゃん!」


「だって腹減ったし、久々の仕事で疲れてそんな体力残ってない」


「私が一番やりたかった事なのにぃぃぃぃぃぃぃぃ!」


「はいはい、早く一緒にご飯食べよ?」


 俺は軽く微笑みながら日菜乃の頭を撫でた。


「……しょうがないな。今日はこのくらいで勘弁してあげる」


 最近、頭を撫でたりすると日菜乃がやたらと照れる。

 もしかして自分から甘えに来る時は照れないのに俺の方からやると照れるのか。

 なるほど、良いことに気付いた。

 日菜乃自身が気付いているのかは分からないので俺は黙っていることにした。


「「……ごちそうさまでした」」


 今日も日菜乃の料理は美味しかった。特に豚肉のレバニラが美味かった。

 レバーと言えばパサパサなのが印象的だが日菜乃の下拵えしたレバーは全くパサパサしていなかったので驚いた。

 聞いたところ、レバーは牛乳で臭みを取ったあと揚げ焼きにしたらしい。

 さすがの腕前だ。


「じゃあ、洗い物は私やっておくから。悠くん風呂入ってきちゃいなよ」


「ああ、じゃあ入ってくるわ。よろしく」


 俺は洗い物を日菜乃に任せ、脱衣室に向かった。


「……ふう」


 湯船に浸かると一日の疲れが吹き飛んだ。

 溜まっていたものが全身から抜けていく感覚があった。

 やっぱり仕事して食べる飯は美味hいし、お風呂も気持ちいい。

 このまま湯船で寝てしまいそうになった時、お風呂のドアが開いた。


「ひ、ひなの!?」

 

 そこにはバスタオルで身体を隠す日菜乃の姿があった。俺は嫌でも目が覚めた。


「一緒に入ろ?悠くん♡」


 入るも何も、そこまでの格好になる前に確認しろよ。


「いやいやいや!むりむりむり!むりだから!」


「えー、でも私ここまで脱いじゃったし」


「じゃあ俺が上がるから!」


「それはだーめ♡」


 日菜乃が湯船から出ようとした俺をもう一度湯船に沈めた。

 タオルの隙間から谷間が見え俺は思わず目を逸らした。

 これは脱出は無理だと思い、俺は諦めた。


「じゃ悠くんはそのまま浸かっててね~」


 日菜乃は髪を洗い始めた。

 俺は洗う姿を湯船に顔を沈めながら見ていた。


 改めてみると日菜乃の身体は凄かった。いつもは服越しだから分からなかったが、出るところは出ていて、引っ込むところは引っ込んでいてモデルみたいな体系だった。あの大食いからは想像できない体系である。


 そしてこの白くて色艶のあるスベスベの肌である。これが持って生まれたものなのだから本当に羨ましい。全世界の女性が奪えるなら奪いたいと絶対言うだろう。


 しかしこんな美少女が俺の彼女だなんて未だに信じられない。


「じゃあ、私も湯船に浸かるね♡」


「え、お前入んの?さすがに狭いだろ!」


「大丈夫、大丈夫。悠くんが足を広げればいい」


「ここに入るの?」


「うん、問題なし!」


 笑顔でグッドサインをする日菜乃に抗えるわけもなく……。


「じゃあ失礼しまーす!」


「……どうぞ」


 日菜乃は俺に背を向けながら湯船に浸かった。


「はあ~、気持ちいい」


 俺は全然気持ち良くない。俺の股の間に女子高生がいるこの状況でどうやってリラックスして風呂に入れというのだ。

 俺は自分が自分でいられるように平常心を保つことで精一杯だった。


「あれ~?悠くん全然気持ちよさそうじゃないね?」


 日菜乃が意地悪そうな表情でこっちを見てきた。


「……って、おい!日菜乃!まえ!まえ!」


 日菜乃がこっちを向いた瞬間タオルが外れ、胸が丸見えになっていた。


「まえ?あ~、大丈夫、大丈夫。悠くんだし~」


「何も大丈夫じゃねぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!」


「お風呂でそんな大声出さないの~」


 日菜乃が俺を抑え込むように抱き着いてきた。前に経験した時よりも更に鮮明にあの二つの感触が今度は俺の胸に当たっていた。


――――生のおっぱいって、こんなに柔らかいんだ……。


「お風呂で騒ぐ悪い子にはお仕置きしちゃうぞ♡」


 そう言うと日菜乃は胸に気を取られていた俺の耳にかぷっっと嚙み付き、舌で舐め回した。


「~~~~~~~~!」


 俺は言葉にならない悲鳴を上げ、我慢できずに立ち上がった。


「あら?身長の割にはこっちは意外とスモールサイズなのね♡」


「うるせえ!この小悪魔が!」


 俺は急いで風呂を出て、身体を拭き髪も乾かし脱衣室を抜け出した。


『悠くん出るの早いよ~。もうちょっと、遊べたのにな~』


 疲れを取るどころか、日菜乃のせいで逆に疲れが溜まってしまった俺だった。


        *


――――ようやく一週間の仕事を終えた俺は衰弱しきっていた。


 もう無理だ、動けない。何もしたくない。

 土曜の朝八時、俺はベッドで屍のような状態だった。


 仕事の方はなんとか一週間で今までの遅れを取り戻すくらいまでは進んだが俺の身体が限界だった。だが日菜乃が毎日ご飯とお風呂の準備をしてくれていなければ今頃俺は野垂死んでいただろう。


 今日と明日はゆっくりと身体を休める事にしよう、そうしよう。

 でなければ身体が持たん。

 だが現実はそう甘くはなかった。


『ピンポーン、ピンポーン、ピンポーン、ピンポーン、ピンポーン』


 止めてくれ。俺は疲れているんだ。動きたくないので無視した。

 だが今回はインターホンの音がすぐに止まった。

 さすがに疲れているのを察してくれたか。そう思い、俺はもう一度寝ようとした。


「やっほー!悠くん!朝だよ!起きろー!」


 しまった、こいつスペアキー持ってんだった。


「……日菜乃、頼む。今日くらいは寝させてくれ」


「しょうがないなー。じゃあ耳いただいてから帰る♡」


「それだけは勘弁してくれぇぇぇぇぇぇぇ!」


 俺はベッドから飛び起きて耳をガードした。


「そんなに警戒することないじゃん~、耳ぺロペロするだけだよ?」


「そのペロペロされるのが嫌なんだよ!」


「ほんとは嬉しいくせに♡」


「うるせぇぇぇぇぇ!さっさと帰れ!」


 ゆっくりしたかったのに朝から日菜乃に付き合わされることになるとは……。


「で、今日は何だったんだ?」


「ふぇ?」


「何しに来たんだって聞いてんだ」


 なぜこういう事を聞いたかというと日菜乃は立川で一人暮らしをして、ここまで来るのに片道一時間は掛かる。

 それを学校がある中で今週一週間続けてくれてたのだ。

 初めての事で疲れているだろうし、さすがに今日は来ないと思っていたのだ。


「えとね。私、ここに引っ越しました!」


 日菜乃はあっさりと自供した。


「……?」  

 

 だが日菜乃が言ったことが衝撃的過ぎて俺ははただ驚き言葉が出なかった。


「ちなみに隣の部屋が空いていたので隣にしました!今日から隣人さんです♡」


 こいつの行動力は一体どうなってんだ。読めないから本当に困る。


「引っ越して来たのは分かった。それで俺にどうしろと?」


「言わなくても分かるでしょ?引っ越し手伝って♡」


 俺の大事な休みが終わりを告げた。


――二時間後……。


「終わった……」


「悠くんのおかげで無事に引っ越し完了!ありがとね!」


 ある程度の物は業者の人が家の中まで運んでくれたのでそこまで大変な作業では無かった。

 だが細かい物は会社から借りたトラックで日菜乃の家まで取りに行ってきた。

 休みの日まで運転したくなかったのが致し方無かった。


「もうお昼の時間だし、ご飯食べよっか!」


「今日は何作ってくれるの?」


「今日は作らないで茹でるだけ~、引っ越しそば食べよ!」


 そういやそんな習慣あったな。俺は面倒くさくてやらなかったけど。

 ちなみに蕎麦には、『”おそば”に越してきました』、『蕎麦のように細く長くお付き合いしたい』などと言った意味が込められている。

 蕎麦が茹で上がり、俺達はテーブルに座った。


「「いただきます」」


 俺達は二人前のざるそばをつっつき合いながら食べた。


「悠くん、これから隣人としてもよろしくね♡」


 日菜乃は嬉しそうにこっちを見て言った。


「ああ、こちらこそよろしく」


「毎日朝起こしに行くし弁当も渡すから楽しみにしててね!」


 朝どうやって起こされるのか俺は不安でしかなかった。

 まあでも毎朝、日菜乃に会えて弁当も食べられるなら別に大したことではないだろう。俺はそう自分に疑心暗鬼させることしか出来なかった。

 しかし、まさか彼女が隣人となる日が来るなんて思いもしなかった。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る