第5話 渚と日菜乃のご対面

 俺は世界滅亡くらいの危機にあっていた。どうすればいいのだ。

 横には彼女の日菜乃が寝ている、玄関には妹の渚が待っている。

 この状況を打破するには何かいい手はないか、俺は必死に考えた。


 俺は考え抜いた末、やっぱり寝た。だってこれしかないんだもん。

 

『ピンポーン、ピンポーン、ピンポーン、ピンポーン、ピンポーン、ピンポーン、ピンポーン』


 渚のインターホンを押す回数が増えてきた。さすがに押しすぎだよ。

 何回押すんだよ、インターホンも疲れちまうだろうが。

 俺はひたすら無視し続けた。だが、さすがに日菜乃も起きてしまった。


「ゆうくん?だれか、きたの?」


 半分寝ぼけた可愛い小さな声で俺に聞いてきた。


「ん、ああ、まあ眠いし無視しよぜ」


「居留守は良くないよ、悠くんが出ないなら私が出る~」


 そこは同意してくれよ!

 日菜乃は起き上がり軽い足取りで玄関へと向かって行った。ま、まずい……。


「はい!今出まーす!」


「日菜乃!ちょっと待った!」


 だが遅かった。もうすでに玄関のドアは開いていた。

 そこには日菜乃を見て無言で佇む渚の姿があった。


 ――沈黙の時間が続いてた。


 俺、渚、日菜乃の三人は誰一人として口を開かなかった。

 そうだろう、誰一人この状況を理解している人間がいないのだから。


 沈黙が五分ほど続いた頃、遂に日菜乃が口を開いた。


「えーと、あなたはどちら様ですか?」


「そ、それはこっちのセリフよ!あんたこそ誰なのよ!私は渚!月城渚(つきしろなぎさ)!」


「つきしろ?あ、もしかして悠くんの妹さん?」


「悠くん……?それはもしかして、おにーのことかしら?」


「そうだけど?」


「あなた!私のおにーとどういう関係なのよ!」


「彼女、私は悠くんの彼女だよ」


「何を冗談言ってるの。ねぇ、おにー?」


「え、いや、その、えっと……」


「まさか、おにー、噓でしょ……」


「嘘じゃないよ、悠くんは私の彼氏になったの。ちなみに私の名前は柊日菜乃(ひいらぎひなの)。よろしくね、妹さん♡」


「いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」


 渚の叫び声が部屋全体に響き渡った。


「渚とりあえず落ち着けって!」


「落ち着けるわけないじゃん!私の大好きなおにーがこんなよく分からない女に取られたんだよ!」


「あれれ?もしかして妹さん、今の話を聞く限りだとブラコンですかー?」


「そうよ!私はブラコンよ!おにーの事が大好きで大好きでしょうがないのよ!」


 え、うそ、まじ。渚ってブラコンだったの?全然分からなかったんだけど。

 いやでも確かに言われてみればそうかもしれない。

 小さい頃から今に至るまで何百回、何千回とおにー大好きって聞かされてきた。

 そしてどこかで話したかもしれないがキスもされた。


「そうなのね、でもあなたの大好きなお兄ちゃんは今は私の彼氏。ごめんなさいね♡」


「柊日菜乃、あなた私と勝負しなさい!あなたがおにーに相応しい女性なのか見極めてあげる!」


「いいわ、その勝負受けて立つわ!」


「勝負するのはいいが、一つだけいいか?」


「「なに!?」」


 なんで息ピッタリなんだよ、初対面だろ。


「お前ら、二人とも同い年だぞ」


「「え……?えぇぇぇぇぇぇぇぇ!」」


 息の合った二人の驚く声は、けたたましい音を立てて部屋全体に響き渡った。隣人の皆さん、朝からうるさくして誠に申し訳ございません。


        *


 ――――渚と日菜乃が出会ってこんなことが起こるなんて思いもしていなかった。


「まさか、同い年だとは思わなったわ、渚」


「いきなり呼び捨て?私もあんたが同い年だと思わなったわ、日菜乃」


 お互い火花が出るくらいバチバチにライバル視してるんだが。

 女って生き物は怖いなと思い知らされた俺だった。


「渚、あなたってちょっと子供っぽいよね。最初見た目中学生かと思っちゃったわ」


 日菜乃、それは渚に一番言ってはいけない言葉……。


「そっちこそ、ちょっと顔が整いすぎてて二十歳なんてとっくに過ぎてるんだと思ったよ」


 渚も負けじと対抗した。

 だが日菜乃は喜んでるように見えるのだが、こいつ本当に大丈夫なのか。


「お前ら、いつまでも玄関で喧嘩してないでさっさとリビングに来いよ」


 そろそろ見ているこっちが辛くなってきたので仲裁に入った。だが、


「おにーには関係ないからそこで黙ってて」


「悠くんはそこで見てて。渚のこと負かせてみせるから」


 二人とも全くいうことを聞いてくれなかった。

 あまり使いたくはなかったがこうなってはしょうがない、こいつで行くか。


「はあ、渚と日菜乃なら絶対仲良しになると思ったんだがな。俺の思い違いだったのかな。二人が仲良くしてくれたら俺幸せなんだけどな。自殺なんて考えないんだけどな~」


 さすがにこれはダメかと思ったが。


「お、おにーが自殺しないって言うなら、しょうがないわね。仲良くしてあげなくもないわよ」


「私も悠くんがいてくれないと困る。渚と仲良くする」


 やっぱりこいつら単純だった。

 俺の言葉が効いたのか、二人は仲良く俺の部屋の掃除を始めた。

 渚は日菜乃に俺の家の事を隅から隅まで教えてくれていた。

 なんだ、ちゃんと仲良くできるんじゃないか。俺は安心した。


 だが事件はすぐに起こった。渚が俺のベッドを整理し始めた時だ。


「おにーのベッド、おに―以外の違う匂いがする」


「あー、それはその、だな……」


「そりゃするでしょ。さっきまで私と悠くん、一緒に寝てたんだもん」


 またしてもこの女は。少しは隠そうとは思わないのか。


「何時から寝てたの」


「私が来たのが二時間前くらいだからそのくらいからかな」


「おにー、女子高生といきなり一緒に寝るのはさすがにどうかと思うよ?」


 渚が鬼の形相でこちらを見ていた。


「いや、これは仕方なかったんだ。日菜乃がダイブしてきてそのまま寝ちゃったんだ」


「へー、そうなんだ。ちなみにいかがわしい事はもちろんしてないよね?」


「当たり前だろ!するわけないだろ!」


「でも悠くん私の寝顔と寝相見て楽しんでたよね?私、実はちょっとだけ起きてたんだよ♡」


 頼むから日菜乃はこれ以上余計な事を言わないでくれ。


「あ、そういえば私、この前悠くんにおっぱい触られたんだったね♡」


 どうして今それを言うんだ……。渚がとんでもないことになっている。

 見たことのないオーラが出ちゃってるよ。

 素人でも分かるくらいやばいオーラ出ちゃってるよ。

 どうすんだよこれ、取返し付かないよ。


「あ、あの、な、なぎささん?」


「おにーの変態!ばかぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」


 渚の左ストレートが俺の顔面にクリティカルヒットし、俺はそのまま気絶した。

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