第5話、こんな書き方もあるんだね

 話法について少々、レベルアップ致しましょう。

 会話文について、こんな『 ルール 』を聞いた事がありませんか?


 「」の前後は、必ず改行せよ。


 ライトノベルの世界に限らず、純文学の領域でも、最近は常識となりつつあるようですね。 しかし、この提議に関しては『 言い切り 』は、しない方が良いでしょう。


 例文を記します。

 ↓

「 俺、今日は部活に行くの、ヤメとくわ 」

 アイツは、俺にそう言った。

 俺は、いぶかしげに答えた。

「 え~? ナンでだよ。 昨日は行くって言っていたじゃんかよ 」

 アイツは、頭をかきながら答えた。

「 ちょっと、ヤボ用が出来ちなってな…… 」


 まあ、フツーの書き方です。

 別に違和感もないし、問題は無いと思います。 よく見受けられる標準的な記述の仕方ですね。 一般的に見れば、至極『 当たり前 』の書き方です。 だからこそ、「」での改行を推奨し、人によっては、「」での改行に対して『 改行すべし 』と言い切ってしまいがち……

 

 では、下記の例文をご覧下さい。

 ↓

 アイツは、「 今日は、部活には行かない 」と言っていた。

( ヤボ用が出来た、とかも言ってたしな…… )

 俺は、アイツにとっての『 都合の悪い事態 』を推察した。


 例文の、1行目に注目して下さい。

 改行していませんよね?

 実は、この書き方、古い純文学で多用されていたものです。 状況描写などに加えられ、「」の会話文ごと、文章として記されています。

 また、文法の違いなどからか、英文を翻訳された場合にもよく見受けられ、外国の文学などには、頻繁に登場致します。

 これを『 伝達節 』と呼びます。

 1行目は『 アイツ 』のセリフを、そのまま伝えています。 これを『 直接話法 』と呼び、2行目の()のセリフ… 自分の立場に置き換えて表現する事を『 間接話法 』と呼びます。 時制に関しては、『 間接話法 』の方は、過去となる場合が多いようですね。


「 そう言えば、そんな書き方もあったな…… でも、俺はしないな 」


 …ですよね?

 流行りではありませんが、ライトノベルを書かれる方の、ほとんどの方が「」で改行をされていらっしゃいます。 まあ、フツーの書き方ですからね……

 実は、この伝達節… あまりに多用されている場合、出版社によっては、校正にてチェックが入り、時にして編集担当者から筆者に修正依頼が入る場合もあるようなのです。 これは「」での改行を強要しているような行為なのですが、編集者の方にとっても「」での改行は、『 当たり前 』の書き方となっているようですね。

 しかし… 文法的にも『 伝達節 』は、れっきとして存在していますので、「」での改行は『 望ましい 』くらいに留め、改行を『 義務 』… あるいは、既存する『 ルール 』の如く、その書き方の正当性を語らない方が賢明でしょう。


 …いや、むしろ『 改行は、しなくてはならない 』との発言は、間違いであると言っても過言ではありません。


 伝達節を多用していらっしゃる方は、ライトノベルの分野だけでは無く、様々なカテゴリにて、結構にいらっしゃいます。 特に、外国文学に傾倒されておられる方等… 海外のSF作品や、推理小説などの中では、頻繁に使われていますので、それらを読まれた経緯から、創作される作品にも伝達節は、よく登場するのです。


 ご自身の『 視野 』だけで、物事の判断は図らない方が、様々な意味合いにしても宜しいでしょう。


 伝達節に関しては、そう言った書き方を、何となく使用していた方もおられるでしょうし、この講義にて、初めて理解された方もいらっしゃるかと存じます。 今まで、伝達節の書き方を慣習的にされて来られた方にとって、「」の前後は、必ず改行しなくてはならない、と言う『 ルール 』は、カルチャーショック以外の何物でもないはず。

 『 言い切り 』発言の内容は、充分に精査しましょう。


 ちなみに、私は「」で改行する『 派 』です。

 読み易い上に、ストーリー展開や発言主の特定を、明確に提示出来るからです。 状況も、非常に、リアルに表現出来ますし。

 ただ、上記の例文のように、伝達節は、字数( 出版業界では『 ワード 』と呼びます。 10文字の場合、10ワード。 10Wと表記します )・ライン数を減らす効果が期待出来ます。 私も、場合に言っては伝達節を用い、「」での改行をしない時もありますね。

 どちらの書き方を選択するか……

 この判断もまた、作者の『 センス 』となる事でしょう。



 では、創作を、更に進める事に致しましょう。

 下記に、ある程度のボリュームを持った例文を用意させて頂きました。

 稚拙にて申し訳ありませんが、まずは、お読み下さい。

 ↓

 俺は、手にしてた拳銃を下すと、彼を見据えながら言った。

「 いいだろう… それが本当なら、問題ないからな 」

 彼は、少し安堵した表情を見せ、ずっと持ったままだったマグカップを、傍らにあった事務机の上に置くと、俺に言った。

「 参ったな……! まさか、お前が知ってたとはな。 迂闊だったぜ 」

 時間は、午前0時を廻った頃だろうか。 所々の照明を落としたオフィスは薄暗く、どことなく不気味に感じる……

 PCの明かりが反射する眼鏡を掛け直し、彼は続けた。

「 社長が言ってたのは、この事だったのか…… どうりで、あの時… 言葉を濁していた訳だ 」

 誰だって、居心地の良い所から出たくないのが本音だろう。 昨日、彼が『 業務 』を遂行しなかったのが、その証拠だ。

 俺は、彼を諭すように言った。

「 結果が分かってる時は、自分で思ってても、実現しないものさ 」


 ↑

 ちなみに、記述した状況展開・推察されるシチュエーション等は、テキトーに書いています。 ストーリー・状況の整合性等も、一切考えておりませんので『 文章 』のみ、読んでみて下さいね。


 実は、上記の文章、あまりよろしくありません。

 何が、いけないのか……


 会話文は… まあ、許せるかもしれません。 そのように発言する場合も、状況によっては多々あるからです。

 しかし、会話文以外の文章では、やってはいけない『 言葉 』が存在しています。

 ……お気付きになられた方、いらっしゃいますかね? 何となく、違和感を覚えた方、お見えになりませんか?


 この文章には、『 い 』抜き言葉が存在しています。


 初めてお聞きになった方、講義させて頂きますね。

 『 い抜き言葉 』とは、読んで字の如く、『 い 』が抜けている表記を指します。

 下記に、具体的に、網羅してみました。 右側が、正規の記述の仕方です。


 ・手にしてた拳銃       → 手にしていた拳銃

 ・お前が知ってたとはな    → お前が知っていたとはな

 ・社長が言ってたのは     → 社長が言っていたのは

 ・結果が分かってる時は    → 結果が分かっている時は

 ・自分で思ってても      → 自分で思っていても


 ……何となく、使っちゃいますよね?

 先記した通り、会話文の場合、『 い抜き言葉 』でも問題ない場合があります。 発言している言葉ですからね。 むしろ、い抜き言葉で会話文を記述すると、ある意味、人情味を演出する事が出来、セリフに現実味・信憑感を加える事にもなりますから、使い分けをされると良いでしょう。


 ちなみに、『 は 』抜き言葉もあります。

 最近のPCアプリでは、『 い抜き言葉 』を打ち込むと、文法的におかしな文章と判断し、赤の波線や、青の二重線で『 警告 』をして来ますが、『 は抜き言葉 』はスルーです。

 文法的には『 構わない 』らしく、そのまま、気付かずに校正を終えてしまう事がありますので、ご注意下さい。

 まあ、構わないのであれば、そのままでも良い気も致しますが……

 文中の『 は抜き言葉 』は、下記の通りです。


 ・問題ないからな        → 問題は無いからな

 ・居心地の良い所から出たくない → 居心地の良い所からは、出たくはない

  ↑

 ちなみに、この例文には、2つの『 は抜き言葉 』が存在致します。


 上段の例文の場合、「 問題なし! 」と記述した場合は、何も違和感がありません。 下段の例文でも、「 居心地の良い所から、出たくねえしな…… 」と記述した場合、むしろ、『 は抜き言葉 』の方が、状況によっては、ピッタリな感じがしたりします。 これも、使い分けが肝心ですね。


 しかし、『 い抜き言葉 』は、明らかに稚拙な表記と判断されてしまいます。

 会話文以外では、記述する事の無いよう、充分に気を配って創作を願う次第です。



 次章、更なる創作と参りましょう。

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