第27話

 次の日……。


 「今日はいい天気だなぁ。」


 朝の鍛錬を終えた俺は、私服姿で学園の正門前に立っていた。

 セレスティアに呼ばれたのは良いけど、今日は何するんだ?

 今日の予定が全く分からず、まだ来ていないのでとりあえず携帯を開き時間を潰そうとした。

 昨日、エリス先輩の連絡先を交換し(半ば無理矢理)寮に帰宅すると、さっそく携帯の機能の一つであるRINEに連絡が来ていた。

 以前マルスに詳しい使い方を尋ねたところ、これは電話機能とは違い文字だけで連絡をとることが出来る機能らしい。

 ほんと何でもありだなこいつは。

 それよりも、昨日は疲れていたし返事を送れなかったから今のうちに返事を送ろう。

 先輩の内容を再び確認すると、

 『昨日はお疲れ様ですわ。大演習があんな事になるなんて残念でしたけれど、アレクくんと一緒に戦えたのが嬉しかったです。大演習の感想も聞きたいので、良ければ近いうちに食事でもどうでしょう?』


 うわぁ〜。長文だなぁ。

 喋るだけではなく、文字を打つ方も長いエリス先輩の文章を苦笑しながら見て返事を書いて送った。

 いいですよ。っと。これでいいか。

 返事がこないのを確認し、ポケットに直すと、


 「ごめんなさい。待ったかしら?」


 ちょうどいいタイミングでセレスティアがやって来た。


 「待ってないから大丈夫。それよりも全然姫様らしくない格好だな。」

 「当たり前でしょ! 家にいる時のような格好をしたら注目されるだけじゃない。」

 「それもそうか。でも似合ってるぞ。」

 「あ、ありがとう。」


 どうやら服装を褒められたのが嬉しかったのか、セレスティアは照れていた。

 ちなみにセレスティアの私服姿は、水色のワンピースに下はデニムを履いていた。

 俺はデニムにTシャツとラフな格好だからドレスとかで来られたらどうしようとドキドキしていたのは内緒だ。

 合流した所で俺はセレスティアに尋ねることにした。


 「今日は何の用事なんだ?」

 「あなたの剣折れたでしょ? だから新しいやつが必要かと思って誘ったのよ。」

 「いや、買う金ないし学園からの支給品でも全然いいんだけど。」

 「見に行くくらい良いでしょ! ほら! 早く行くわよ。」

 「お、おい待てよ。」


 少し早歩きで歩くセレスティアの後ろを追いかけた。

 まぁ、武器を見るのは無料だしたまにはいいか。

 追いついた俺はそんな事を考えていた。



 「相変わらず人が多いな。」

 「当たり前でしょ。商業の中心部なんだから。」


 学園から少し歩いた所にある商業地区に入ると、以前訪れた時と変わらず多くの人で賑わっていた。

 あんまり人が多い所は好きじゃないんだけどなぁ。

 少し憂鬱な表情を浮かべていると、セレスティアも似たような反応をしており、


 「さっさと行くわよ。人が多いのは賑わっている証拠だけど私には合わないわ。」


 そう言ってどんどん先へ歩いて行く。

 置いてかれないようについて行かないと。

 今の状況で見失ったら間違いなく迷子になる自信がある為、俺は必死でセレスティアの後を追いかけた。

 少し人だかりが少なくなり、セレスティアの隣で歩いていると、美味しそうな匂いが漂ってきた。

 周囲を見ると、露店が並んでいる事からセレスティアと初めて出会った場所だと思い出した。


 「そういえば、ここでお前は変な男に絡まれてたんだよな。」

 「そうね。あなたが調子に乗って乱入してきた時よ。」

 「あれは助けようとしただけだろ! それに、あの後お前が逃げたから俺は捕まったんだぞ!」

 「それは悪かったと思ってるわよ。だけど王女の私があんな所で捕まる訳にはいかなかったんだもの。」

 「平民に罪を擦り付けるのは卑怯だぞ。」

 「悪かったって言ってるでしょ?」


 全く謝罪には聞こえないが、一応形としては謝っているのだろう。俺は無理矢理納得する事にした。

 しかし、良い匂いがするな。

 朝食を食べていないからお腹が減ってきた。

 俺はセレスティアの方を見て、


 「なぁ。お腹空いたから何か買ってもいいか?」

 「後でお店に連れて行ってあげるから我慢して。」

 「頼む! 朝から何も食べてないんだよ。」

 「はぁ。わかったわよ。」


 セレスティアがため息をつきながらも渋々着いてきてくれたので、美味しそうな食べ物があるか探すことにする。

 多少時間をかけて物色した結果、俺は一角兎という首都近辺の森で獲れる兎の肉の串焼きを食べる事にした。

 三本くらいならすぐに食べ終わると思い、購入し一口食べてみると、獣特有の臭みがなくタレの味とも合っておりとても美味しかった。


 「もぐもぐ。これ美味いぞ。一本食べるか?」

 「結構です。歩きながら食べるなんてはしたないわ。」


 貴族としての面子か何かか?

 それなら勿体ないな。こんなに美味しいのに。

 あっという間に三本食べ終わった俺は満足した表情で、


 「あー食った食った。ごちそうさま。」

 「食べたのなら早く行くわよ。」

 「ちょ、待てよ。」


 再びセレスティアが先に歩き出し急いで隣まで走っていった。


 「なんでそんなに急いでるんだ? 折角の休日なんだからのんびり行こうぜ。」

 「あなたと二人で歩いている所をクラスメイトとかに見られて変な話題を作りたくないのよ。こんな人通りが多い所だと見つかる恐れがあるでしょ。」


 じゃあなんで俺を誘ったんだよ。意味がわからん。

 言っている事がチグハグなセレスティアの態度に俺はよく分からないと頭を傾けた。

 すると、セレスティアは半目でこちらを見ながら、


 「なによ?」

 「何もありませんよ姫様。」

 「あなたに姫って言われるとからかってるのかと思うのだけど。」

 「はいはい気を付けますー。んで、武器屋はまだ遠いのか?」

 「露店通りを抜けて、職人街の方へ行ったらすぐよ。」


 露店通りって言うんだなここ。

 今更知った新情報を記憶しながら前を見ると、何軒か前にあるだけでもうすぐ露店通りを抜けそうだった。

 俺達はさっさと抜ける為に先程よりも早く歩き目指している武器屋へと向かった。


 「着いたわよ。ここが私が聞いた中で有名と言われている武器屋だそうよ。」


 ここかぁ。なんか敷居が高そうだな。

 俺達の前にある店は、武器屋とは思えない程綺麗な外観で大きい店だった。

 店内を覗いてみると、色々な客がいて確かに繁盛してそうだ。

 なんか想像していたのとは全然違う武器屋だったけど。

 俺のイメージでは武器屋って全体的に武骨なイメージだったんだけどな。


 「さっさと選んで昼食を食べに行くわよ。」


 こうゆう武器屋に入る事は滅多にないのか、意気揚々と入っていくセレスティアの後ろ姿は傍から見ても分かるくらい楽しそうだった。

 良い武器があるといいな。

 俺も期待しながら店内へと入った。


 「いらっしゃいませー!」


 可愛らしい女性の店員に声をかけられながら中に入ると店内は、多くの人で賑わっていた。

 ここ本当に武器屋なのか?

 周りを見ると、ソルジャーや軍関係の人だけではなく、個人で生計を立てている冒険者であろう人達も見かけた。

 冒険者とは、ソルジャーと違い冒険者ギルドという所に登録をしてそこで依頼を受けその報酬で生活をしている人達の事を言うらしい。

 詳しくは知らないが、ランクというものがあって、高ランクの冒険者になるとかなり稼ぎのいい仕事なんだそうだ。

 ソルジャーは魔物の討伐から犯罪者の捕縛に闇組織の壊滅など多岐に渡る仕事内容だが、冒険者は簡単に言えば魔物の討伐をメインとしている狩人みたいな感じだな。

 まぁそれは置いといて武器を見ることにしよう。

 俺としては少し長めの長剣があれば嬉しいんだけどあるかな?

 買えなかったとしても今後の武器選びの参考にさせてもらうか。

 棚に飾ってある剣を一つ一つ見ながら探していると、


 「お客様どんな武器をお探しで?」


 スーツ姿の店員さんが俺の元にやって来て話しかけてくる。

 俺は自分の要望を答えると店員さんは、


 「それでしたらあちらの棚になります。ちなみにご予算はいくらくらいで?」

 「それが、ソルジャーになりたてで今はそんなにお金を持っていないんですよ。」


 手持ちがない事を店員さんに伝えると、困ったような表情をしながら、


 「お客様。当店の商品は少々お値段の張るものになっておりまして。お値段の安いものでも最低30万ゴルドは必要になります。なのでご予算がない事には厳しいかと。」

 「やっぱりそうですよね。今回は諦めます。」

 「かしこまりました。またのご来店お待ちしております。」


 そう言うと店員さんは次の客の方へとさっさと歩いて行った。

 その様子を見ていたセレスティアが、


 「なんなの! 口調は優しそうだけれど心の奥底で馬鹿にしたようなあの態度! 気分が悪いわ!」

 「仕方ないだろ。実際今は金がないんだし。」


 まぁ値段の相場が分かっただけでもいいか。


 「次の店を探すわよ!」

 「いやいや! 今日はもういいから! とりあえずご飯でも食べて落ち着こう。」


 むきになって探そうとするセレスティアを引っ張り俺達は職人街から出た。

 武器を探している俺が今日はいいって言ってるのにそんなにむきにならんでも……。

 俺はそんな事を思いながら怒って先を歩くセレスティアについていった。

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