第11話

 学園に着いた俺達は、合格発表者が書かれている受付場所へと向かった。


 受付場所の近くまで来ると、想像していた以上の人だかりに俺とマルスは驚いていた。


 「なぁ。さすがにこの人混みの中、見に行くのは嫌なんだけど。」

 「間違いねえな。そうだ! 中庭で軽く手合わせしてみねえか?」

 「あぁいいぞ。じゃあ行くか。」


 時間を潰すついでにマルスと手合わせする事になった。


 そういえばこいつの戦闘スタイルはどんなスタイルなんだろう。

 同年代の人と手合わせするのは何気に初めてのような気がする。


 俺は少しワクワクしながら、中庭へと歩いていった。


 「勝負は一本勝負で、急所に先に寸止めで当てた方が勝ちでいいか?」

 「わかった。」


 中庭に着いた俺達は準備運動を行い、マルスがルールを決めた。

 了承した俺は、剣を右手に持ち軽く素振りを行う。

 マルスも素振りをしているが、振っているのは剣ではない。

 あれはどんな武器なんだ? 少し長めの棒に取っ手が付いている。

 棒という事は振り回したり、突いたりするのが主な攻撃手段かな?

 俺がマルスの武器について考えていると、


 「この石が落ちたら試合開始だ。」


 マルスが地面から石を取り、俺に見せてきた。

 どんな攻撃か分からない以上、まずは様子見だな。

 俺はマルスに頷き集中した。


 「じゃあ行くぜ!」


 マルスは石を投げ武器を構えた。

 石が地面に落ちたと同時に、


 「おらぁ!」


 マルスが突っ込んできて右手の棒を振り上げた。

 予想通り振り回す武器か! そう思い身体を傾けて回避しようとすると、


 「甘いぜアレク!」


 マルスが棒を回転させ持ち方を変えた。そして、ガラ空きだった俺の腹に突きを放ってくる。


 「ぐっ!」


 咄嗟の事で回避する事が出来ず、モロにくらってしまった。


 「まだまだぁ!」


 マルスは残った左の棒を振るい、俺の顔を狙いにきた。

 このままではまずいと思いマルスの攻撃とは反対側に転がって避けるが、武器のリーチが短い分攻撃のスピードが早い為中々反撃する事が出来ない。

 どうにかして一度距離を取らないと!

 ダメージ覚悟で俺は剣を大きく振るい、マルスを引かせた。


 「はぁはぁはぁ。厄介な武器だな。」

 「へへっ。そうだろ? お前はこの武器、トンファーを見るのは初めてか?」

 「あぁ。今その武器の事を実戦形式で勉強している所だよ。」

 「じゃあ対策を取られる前に勝負を終わらせないとなぁ!」


 マルスは両手のトンファーを回転させながら再び距離を詰めてきた。

 どちらから攻撃が来るか分からないので、ギリギリまで引き付けて反応してやる!


 「ふぅ。」


 一度呼吸を吐き集中する。

 マルスは自分の距離まで接近し、右手のトンファーで突きを放ってきた。

 反対のトンファーを意識しつつもマルスの突きを剣で弾く。

 マルスは弾かれた勢いを利用して身体を回転させながらトンファーを振ってきた。

 体勢が悪かったが、何とか剣でガードをする。

 ん? なんでこんなに体勢が悪い状態で受け止めてもガード出来るんだ?

 トンファーってもしかして、攻撃自体は軽いのか! そうと分かれば!

 俺は今まで力を込めて弾いていたが、それはどうやら逆効果のようだ。

 次々と襲ってくるトンファーを軽く弾く。それによって、次の動作がスムーズになりマルスの動きについていく事が出来るようになった。

 だんだんと動きに慣れてくると、トンファーを強めに弾き反撃に出る。

 先程と同じようにマルスは弾かれた勢いを利用して攻撃してくるが、俺はその回転を利用し剣の腹をマルスにぶつける。

 俺の側頭部にトンファーが当たりかなりの痛みが襲ってきたが、相打ちでマルスの腹にも剣が当たり吹き飛ばす。


 「ぐっ! や、やりやがったな!」

 「へへっ。いつまでもやられっぱなしじゃねえよ。」


 思いの外マルスのダメージは大きく、腹を抑えて膝立ちになっている。

 俺も頭から血が流れているが、今がチャンスだと思い攻めに行った。

 マルスも立ち上がり応戦してくる。


 「おらおらぁぁぁ!」

 「ふっ! はっ! しっ!」


 両者激しい攻防がしばらく続いたが、不意にマルスがふらつき動きが悪くなった。


 「もらった!」


 決着をつけるべく俺は剣を水平に振るう。


 「ま……けるかぁ!」


 マルスが叫びながら接近してくる。

 トンファーを振ってくるが俺の方が早い! もらったぞこの勝負!


 「ぐはっ!」


 俺の方が早いと油断したのだろう。俺の右の横腹にトンファーがぶつかる。

 マルスは片方のトンファーで剣をガードし、もう片方で俺の腹に攻撃した訳だ。

 体勢を崩し倒れそうになる俺の顎に、とどめの一撃でマルスの膝蹴りが飛んでくる。

 見事にクリーンヒットし俺は膝から崩れ落ちた。


 「はぁはぁはぁ。俺の勝ちだ!」


 マルスは右手を上げ勝利を宣言した。


 パチパチパチパチ……。


 手合わせが終わり拍手の音が聞こえ周囲を見ると、いつのまにやら観客に囲まれており、観客がみな拍手をしていた。

 マルスが笑顔で拍手に応えながら俺に手を差し出してきた。

 俺はマルスの手を掴み立ち上がると、


 「次は負けないからな。」

 「おぅ! 俺ももっと鍛錬して強くなるぜ。」


 同年代の友達っていいもんだな。

 観客達も俺が立ち上がり手合わせが終わったと理解すると、少しずつこの場から去っていき辺りは静かになった。

 マルスが俺の方を向き、


 「じゃあそろそろ見に行くか。」

 「そうだな。」


 自然と笑いあった俺達は、受付場所へ向かうべく歩き出した。

 受付場所に到着し、お互いの名前を確認するとハイタッチをして喜んだ。

 しかし、合格者があれだけの人数が受験してたったの10人とは。

 改めて試験の難しさと、合格出来て良かったと思った。


 「ところで、俺達はこれからどうすればいいんだ?」

 「さあ? 近くにいる人に聞いてみればいいんじゃね?」


 マルスが受付場所の片付けをしている生徒に声をかけて聞いている。

 しばらくするとこちらに戻って来て、


 「どうやらこの先の集会所って所に集合らしいぜ。」

 「じゃあ行くか。」


 俺達は早速、集会所に向けて歩き出した。

 思った以上に集会所は近かったみたいで、5分もしない内に到着した。


 「集会所って言うからそこまで広くないんじゃないかと思っていたが、全然大きかったな。」


 俺は、目の前に建っている集会所を見て思わず呟いた。


 「さっさと入ろうぜアレク。」

 「あ、あぁ。そうだな。」


 中に入ると、俺達が最後だったのか数えてみると全員揃っていた。


 「あら? あなたも受かっていたのね。」


 声のする方向を見ると、セレスティアが俺の方を向き話しかけてきた。

 俺は手をひらひらと振りながら、


 「なんとか受かりましたよ~。あんたも受かってたんだな。」

 「失礼ね。これくらい余裕よ。」


 俺の態度に驚いたマルスは慌てて俺の両肩を掴み、


 「お前、この方を誰か知らないのか?」

 「昨日会ったばかりのやつを知らないのは当然だろ?」

 「はぁ。どんな田舎に住んでたんだよ。いいか? この方は……。」

 「合格者の皆様。ただいまより学園長の挨拶や今後の説明をしますので静かにお願いします。」


 いつの間にか俺達合格者の前に、1人の女性が立っていた。

 女性は、俺達を見渡し私語が消えたのを確認すると、一度咳をしてから話し出した。


 「皆さんこんにちは。私は今回の進行役で学園長秘書のナターシャと言います。まずは、学園長に挨拶の言葉をいただきその後は今後の説明となります。それでは、学園長どうぞ。」

 

 そう言いナターシャさんが後ろに下がると、スーツ姿の女性が現れ俺達の前に立った。


 とんでもなく綺麗な人だな。

 まず最初に思ったのはその一言だった。金髪ポニーテールの女性は切れ長の目で俺達を一度見てから、


 「合格者の諸君。入学おめでとう。私の名はレヴィと言う。まずは難しい試験を突破出来たことを褒めよう。しかし、諸君らはスタートラインに立った所だ。これからは学業に鍛錬、任務と忙しい日々を送るだろうが、精進するように。怠けているとすぐに死ぬぞ。」


 どこにでもある学園長の長ったらしい挨拶かと思ったら、最後に多少の脅しを含んだ挨拶で驚いた。


 まぁ、この街でトップを目指すんだから怠けている暇なんてないんだけどな。

 学園長の挨拶が終わったと思っていたが、


 「時間がもったいないから私の挨拶は以上とする。最後に、ソルジャーとして成果を上げ続ければ私と同じ任務に着くこともあるだろう。それを楽しみにしている。」


 そう言い残し学園長は歩いて俺達の前から去って行った。

 あの人も師匠と同じクラスパラディンなのだろう。

 佇まいだけで、俺達と実力の次元が違うと嫌でも思い知らされた。

 いつか必ずあのレベルに追いついてやる!

 俺は拳を握りながら静かに誓った。

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