第2話

 「ふあぁ〜。良く寝た。」


 朝日が登り、窓から入ってくる陽射しを浴びて俺は目が覚めた。

 下からバタバタと音が聞こえる。

 そうか、今日はお客さんが来るって言ってたな。


 偉い人達の話は面白くないから早く遊びに行こうと思い、服を着替えてから騒がしい音のする居間に向かった。


 「おぅアレクおはよう! 今日は父さんと母さんは忙しいからすまねえな。」

 「おはようアレク。朝ごはんは作ってるから食べておいてね。あと、お昼のお弁当も作ったからソフィアちゃんと一緒にお食べ。」

 「ありがとう母さん!」


 あんまり話しかけるのもダメだと思い、静かに朝食を食べた。

 食べ終わり、食器の片付けをすると、弁当を持ち忙しそうな両親に向かって、


 「じゃあいってきます!」


 そう言い家を出た。


 少し早いからソフィアもまだ寝てるかな?と思ったのだが、ソフィアの家の前を見ると、


 「アレク遅い! 女の子を待たせたらダメなんだからね!」

 「早いじゃんソフィア。おはよう。」

 「おはよう! 今日はどこに行くの?」

 「昨日考えたけど、森の奥に行ってみよう!」


 目的地を告げるとソフィアは驚いた顔をし、


 「危ないよアレク! 森の奥は魔物とかも出るんだよ? 私達まだ10歳なんだからダメだよ〜。」

 「魔物に見つかりそうになったら逃げよう。きっと大丈夫だよ!」


 早く冒険がしたい! というような表情で俺はソフィアを見た。

 ため息をついたソフィアは、


 「危ないと思ったらすぐに帰るからね!」

 「わかった! じゃあ行こうぜ!」


 そうして俺達は、森に入って行った。


 ギャアギャアギャア!!!


 「きゃあああ!!!」


 森に入り進むこと約1時間……。

 普通の動物ではない、魔物の鳴き声のようなものが聞こえだし、鳴き声が響く度にソフィアが叫んでいた。


 「もう嫌だ! 帰ろうよアレク〜。」

 「大丈夫だ! 普段は大人に止められるけど、今日は偉い人が来るからって俺達は放置なんだ。もう少しだけ探検しようぜ!」


 ソフィアは怖がっているが、俺はまるで誰かに呼ばれているかのようにどんどん突き進んで行く。

 自分でもなんでこんなに進むのか分からないが、進まないといけない気がするんだよな。


 そして、さらに進む事約30分……。

 俺達は、森の奥に広場のような広い空間に到着した。


 「ほわぁ〜。森の奥にこんな所があったんだな。ここでピクニックとかしたら楽しいんだろうな。」

 「こんな魔物が出る場所でピクニックなんか普通はしないよ!」

 「ま、それもそうだな。」

 「ねえアレク。まだ奥に行くの?」

 「いや、今日はそろそろ帰ろうか。これ以上奥に行ったら帰ってる途中で日が暮れるし。」

 「そっか! じゃあ早く帰ろ!」


 俺が帰る決断をしたのが余程嬉しいのか、ソフィアは今日1番の笑顔で俺に言ってきた。

 なんでそんなに嫌がるのか分からないが、これ以上付き合わせたらソフィアが泣いてしまう。

 泣かしたのがバレたら、父さんから拳骨が飛んでくるから早く帰ろう。

 父さんの拳骨ってめちゃくちゃ痛いし。


 そう思い帰り道を歩き出した時、上空から羽ばたく音が聞こえた。

 俺とソフィアは音のする上空を見るとそこには、見た事のないサイズの鳥が飛んでいた。

 ソフィアは震えながら、


 「ね、ねぇアレク。あれって魔物だよね?」

 「そ、そうだな。」

 「もしかして、私達の事気付いてる?」

 「なんとなく目が合ってる気がするからな。」

 「クエェェェ!」

 「に、逃げろー!」


 鳥が俺達の方へ突進してきたので、ソフィアの手を掴み急いで森の中へ逃げ込む。

 これで大丈夫かと思い、少し安心して後ろを見ると、鳥が嘴を開けている。すると、嘴の前に現れた丸い球に風が吸い込まれていく。

 これは不味い! と瞬時に悟りソフィアを抱きしめる。そして次の瞬間、

 鳥から放たれた丸い球は突風を生み出し、周りの木諸共俺達を吹き飛ばした。

 


 「きゃあああ!!!」


 浮遊感が俺達を襲い、上下左右の方向が分からず、ソフィアが叫んでいる中俺が出来た行動は、少しでも怪我がないようにソフィアを抱きしめる事だけだった。

 風が少し収まりだしたと感じた次の瞬間、俺の背中に強い衝撃が走った。


 「がっ!」


 どうやら、俺の背中から着地したらしい。

 倒れた木がクッション代わりになったおかげで、思ったよりも軽傷だ。


 意識が朦朧としながらも、自分の身体の状態とソフィアが無事だった事を確認する事ができ少し安心した。


 「アレク! アレク! 大丈夫!? しっかりして!」

 「ゴホッゴホッ。あぁ、だい…じょ…ぶ。」


 ソフィアから声を掛けられているのは聞き取れたが、上手く返事が出来ない。

 なんとか立ち上がったが、身体中に痛みが走っている。

 俺達が起き上がったのを確認したのか、鳥の魔物は鳴きながらこちらに向かって突進してきた。

 震えて座り込んでいるソフィアを持ち上げ、


 「ソフィア。に…げろ!」


 魔物の攻撃範囲の外に放り投げた。

 俺が最後に見た景色は、ソフィアが泣きながら手を出している所だった。



 ~ソフィアside~


 「ソフィア。に…げろ!」


 腰が抜けて立てない私を持ち上げ、アレクはそう言い私を放り投げた。

 嫌だ! このままだとアレクが!

 泣いていて声が出せない代わりに、私はアレクを掴もうと手を伸ばした。

 でも、伸ばした所で掴める訳もなく、私の前でアレクは魔物に突進され吹き飛んでいった。


 「いやあぁぁぁ!!! アレクー!」


 大人でも吹き飛びそうな勢いの突進をまともにくらい、アレクの身体が飛んでいく。

 後先を考えず私はアレクの元へ向かった。


 「ひっ。ア、アレク……。」


 私が見たアレクの姿は、死んでいてもおかしくない状態だった。手足が変な方向に曲がり、身体中から血を流した状態で仰向けになっていた。

 

 「クエェェェ! クエェェェ!」


 鳥の魔物は勝利を確信したのか、その場で鳴き叫んでいた。

 完全に足の力が抜け、私はアレクの傍に座り込み涙を流した。

 誰か、誰か助けて……。

 もう私には奇跡を信じて祈ることしか出来ない。


 魔物が私達にとどめを刺す為に再び嘴を開け、先程の球体を作り出した。

 もうちょっと強くアレクを止めたら良かったなぁ。

 発射された球体を見ながら私は衝撃に備えて目を閉じた。


 「おらぁぁぁ!」


 衝撃がいつまで経ってもこないのが不思議で恐る恐る目を開くと、私達の前に1人の大きな剣を持った男の人が立っていた。

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