第20話 義弟を追い払う

 バイト、ヤエ、カオリ達はボーラギ王宮にいた頃の姿に戻ってもらった。その方がセイローも分かりやすいだろうからね。


 そして、街道脇の休憩場(今や観光村になってるけど)までカオリの魔法で転移してから、ゆっくり歩いて街道を進んでみたよ。どこか傷んでいる所がないか確認しながらね。リッターセンキロとカオウメイジンが出来てから、この街道を通る人が数多くなったから、序に確認しておく事にしたんだ。帰りは休憩場から国までの街道を確認する事にしてるよ。


 そして確認しながら歩くと森の入口を睨みつけている軍隊を見つけたよ。僕は入口の手前で止まって彼らに声をかけたんだ。


「やあ、ボーラギ王国屈指の将軍、オオ・タイーサン・ビーじゃないか。久しぶりだね。そんな所でどうしたんだい? こっちに来てくれたら僕の国に案内するよ。さあ、入って来たら良いよ」


 僕は彼らがこっちに来れない事を承知の上でそう言ってあげた。案の定、イラッとした顔をしたオオ・タイーサン・ビーだけど、その後にイタズラを思い付いたようで、にこやかになって返事をしてきたんだ。


「リッター王子、お久しぶりですな。前国王の許可があって現在は魔境で領地をお持ちのようですが、国を興す許可までは出ていなかった筈ですぞ。よって、国の法に従い現国王のセイロー陛下が直々にリッター王子を裁く為にいらっしゃっております。さあ、コチラに来ていただけますか」


 バカな事を言うオオ・タイーサン・ビーだけど勝ち誇って笑顔で僕を手招きしているよ。そこで僕は彼に見えるように前国王父上の証明書を見せてあげた。そこには文末に、


『領地にてどのような統治をしようとも、ボーラギ王国は関わりないものとする』


 の一文が記載されていた。


「この文があるから僕は何も違反はしてない事になるんだよ。分かるかな?」


 その一文を見たオオ・タイーサン・ビーは驚いて走って下がっていったよ。恐らくセイローに言いにいったんだと思う。


 待つ事五分。オオ・タイーサン・ビーがセイローを連れて戻ってきた。


「兄上、久しぶりだな。私が今回来たのは兄上が国を興したと聞いて、祝いの為にやって来たのだが、この森が我らをはばんでいるようなのでな、何とかしようとしていた所なのだ。他意はない」


 セイローは僕を見てそんな事を言ってきたけれども、素直に信じる筈がないじゃない。もう少し上手い言い訳を考えた方が良いよ。

 僕は答えずに黙ったまま静かにセイローを見つめている。そしたらセイローがまた喋りだした。


「兄上、ガンを使者としてそちらの王国に送ったのだが、どうしたのだ? まさか…… 使者を斬ったりは……」


 この言い分には僕も少しカチンと来たので言い返しておいた。


「セイロー、君じゃないから義弟おとうとを斬ったりなんてしないよ。ガンは我が国への亡命を望んだから、受け入れたんだよ」


 僕の言葉にセイローがボソッと呟いた。


「チっ、あの役立たずが……」


 それを聞かなかったフリをして僕はセイローに言った。


「せっかく祝に来てくれたようだけど、この森はある女神様の祝福によって、よこしまな気持ちを持つ者が通れなくなってるんだ。だから通れないセイロー達はよこしまな気持ちを持ってる事になるね。だから、もうボーラギに大人しく帰って、しっかり国を統治したら良いよ。今なら不問にしてあげるから」


 僕の言葉にセイローが本性を現した。


「兄上、余を愚弄するか! 大方、そこの神殿の神官がかけた結界であろう! 余は大国ボーラギの国王だっ! この程度の結界などこの宝剣と余の力によって破ってやろう! しかし、今、大人しく国の全てを余に差し出すならば、兄上の命をとるのはやめておこう。そう、カーナも含めて、全てを余に差し出せばなっ!!」


 ハァ、どうやらセイローはセイローのままで、前より更に己の欲望に忠実になったようだよ。継母上ははうえといい、似た者親子だね。


「これはカオリが作った結界じゃないよ、セイロー。正真正銘、女神様の祝福で守られているんだ。いくら宝剣でも破れないよ」


 それに、僕のスキルとヤエの聖別も上乗せしてあるから、宝剣が砕けるのに板金千枚をかけても良いね。まあ、セイローとは賭け事はしないけれど。負けたら踏み倒すのが分かってる相手と賭けをしても面白くないからね。


「フッ、そんな嘘は余には通じないぞっ! 後悔するなよ!」


 その言葉と共に宝剣をスラリと抜いたセイローは、決め台詞を言う。


「宝剣ネオトップカイザーよ! 主である余が命じる! この邪なる結界を破るのだ! 行くぞ! 剣技【スーパーバーン】!!」


 台詞と共に高く飛び上がり、街道に居る僕達を目掛けて宝剣を振り下ろすセイロー。

 しかし、予想通りに宝剣はシャッ、ラーンとキレイな音をたてて粉々になった。


 うーん、良い音色だね。


 砕けた宝剣の柄を呆然として見るセイロー。そこにオオ・タイーサン・ビーが兵士達に向かって指示を出した。


「ぜ、全軍、撤退! 国王陛下をお守りしながら、急速に速やかに、撤退せよ!!」


 指示と共にまだ呆然としているセイローを抱えて軍の方に素早く引き下がる。うん、引き際を見極めているのは素晴らしいね。将軍なだけはあるね。


 けれども、このまま引かれたんではまたいつか難癖をつけて来るかも知れないから、僕はバイト、ヤエ、カオリに指示して、死なない程度に追撃をしてってお願いしたんだ。時間は十五分だけね。それ以上の時間を三人にあげると、絶対に調子に乗ってセイローまで倒してくるからね。


 王が変わったばかりで、国王無しの状態にしたら、周辺諸国から直ぐに攻めてこられてボーラギ国の無辜の民まで傷つけられてしまうからね。


 僕は十五分待って、帰ってきた三人と一緒に国に戻ったんだ。

 あっ、勿論、街道のチェックもちゃんとしながら帰ったからね。 




 

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