第17話 魔境の王がやってきた

 新しい冒険者ギルドが発足して二週間後に、既存の冒険者ギルド本部から、総長と副総長、総務部長、経理部長という立場の人がギルドにやって来たって連絡があったんだ。

 僕が必要なら行くよと伝えたら、その必要はございませんとのつれない返事が…… ちょっと悲しいです。

 でもまあよく考えて見たらヤエが聖別した街道を通って来たんだから、悪い感情を持って来た人達じゃないからね。冒険者達から評判になったウチとカオウのギルドを見て学びたいって話らしいし。


 僕は国王としてカオウと連携しながら、親を亡くしたり、虐待されたりしている子供達が安心して暮らしていける施設を早々に建設していた。今日はソコに月に三度の視察に行く日なんだけれども、その前にお客様が来たようだ。急遽視察を明日に変更して対応する事にしたんだ。

 だってお客様は【魔境の王】と名乗っているから会わない訳にはいかないよね。

 門番からの報告では、髪も目も金色こんじきで、凄まじいまでの威圧感が出ているって話だけど、ソレを聞いてバイトがポンッと手を打って言った。


「ああ、あいつか。忘れてたな」


「うん? バイトは誰だか知ってるの?」


「はい、リッター様。ヤエとカオリも呼んでおきます。私の知ってるヤツならいきなり攻撃などはしてこないですから、話し合いをしてみて下さい」


「そうなんだね。分かったよ。でも誰かは教えないでね。会って本人から教えて貰うから」


「分かりました。俺とヤエ、カオリはアチラの小部屋に居ますので、必要なら呼んで下さい」


「うん、分かったよ」


 そうして、僕は【魔境の王】を謁見の間にお連れするように手配したんだ。現れた男性は報告通りで髪も目も金色こんじきだったよ。


「お初にお目にかかる。リッターセンキロ国の国王、リッター殿。私はこの魔境の王でオ・ウゴンと言う。見知りおきを」


「初めまして、リッターです。それで、オ・ウゴンさんは何の用でウチに?」


「ふむ、私が魔境の奥で過ごしていると人々が勝手に入ってきて町を作り、国を作ったのでな。挨拶も兼ねて、その真意を問い質しに来たのだ」


「勝手にとおっしゃいますが、女神○■●□様からの許可は得ていますよ」


「何! 女神様は復活なされたのか!? 一体どのようにして…… あの神殺しの槍からは例え女神様といえど逃れる事は不可能だと思ったが……」


 オ・ウゴンさんがブツブツ言って考え込んでしまう。しかし、ハッとしたように僕を見て言った。


「もしや私をたばかっているのでは? リッター殿」


「いいえ、僕は嘘は嫌いですから。それに貴方をたばかっても僕には何の得もありませんし」


 僕が冷静にそう返すとオ・ウゴンさんも落ち着いた様子でそれもそうかと言った。そして続けて言う。


「ならば言おう。確かに女神様の許可は得ているであろうが、それは聞いた私しか分からぬ事になる。それでは私も魔境の王として部下達に示しがつかぬ故に、リッター殿かもしくはリッター殿が推薦する者と対峙して力を見せて貰わねばならぬ」


 そこで威圧感を上げてきた。けれども僕は平気な顔をしてオ・ウゴンさんに言った。


「こちらは三人でもよろしいですか?」


「ほう!? 我が威圧を受けて平然としているとは相当な胆力キモだな。勿論、三人でも私は構わないが、たった三人で大丈夫なのか?」


「我が国最高戦力の三人ですから。それからコレはお願いですが、ウチが力を示したらカオウメイジン国には手出し無用で願います。カオウメイジン国は我が国の兄弟国ですので」


「ふむ、大した自信だが良いだろう。リッター殿が言う三人の力を私が認めた場合はカオウメイジン国には手出しはしないと約束しよう」


 言質をとった僕はバイト達を呼んだ。


「バイト、ヤエ、カオリ、来てくれるかな」


「はい、リッター様」


 三人が返事をして謁見の間に入ってきたらオ・ウゴンさんの目が見開かれた。


「なっ! 何故其方らがココに居る! 剣神ヤイバ、聖女ヤヨイ、大魔導ハルカ! 英雄は故郷に帰ったのではなかったか!?」


 それに答えたのはバイトだった。


「いよう、久しぶりだな。黄昏竜おうごんりゅう


「き、貴様、ヤイバ! 今黄昏たそがれと書いておうごんと呼んだな!! 何度も言うが私は黄金竜おうごんりゅうだっ!!」


「えー? 俺にワンパン喰らって泣きべそかいて黄昏たそがれてたじゃねーか。だから、黄昏竜おうごんりゅうなんだよ」


「ちっ、違うぞ! 断じて私はあの時に黄昏たそがれてた訳じゃないぞ!! しかし、リッター殿、コレはズルい! こんな化物共を三匹も相手では私でも苦戦してしまう! せめて違う相手かリッター殿が相手を……」


 まだ続けて言おうとしたオ・ウゴンさんの言葉を遮ってヤエが大声で言った。


「こんのっ、おバカっ!! 無礼者! 貴方は分からないの! リッター様の優しさがっ! もしもリッター様が貴方の相手をしたら、貴方なんて一秒も持たずにこの世から消えるわよっ!!」


 そのヤエの言葉を聞いて驚愕するオ・ウゴンさん。


「なっ! ヤヨイよ、まさか、そんな…… リッター殿からは強者の気配など全然……」


 ソコでカオリが続けて言った。


「たそがれ殿、リッター様が本気になれば私達三人が相手でも五秒で消されてしまいます」


「た、たそがれ言うなーっ! けれどハルカが嘘を言う筈もない」


「オイコラっ! 私が嘘を言うっていう事かっ!!」


 ヤエが突っ込みを入れた。


「いや、だって聖女って事だけど、下品だからヤヨイは……」


 火に油を注いで木を足すオ・ウゴンさん。


「良しっ! 今決まった! 貴方は女神様の身許に行く事がっ!」


 僕は慌ててヤエを止めたよ。


「ダメだよ、ヤエ。大事なご近所さんなんだから、これから仲良く出来ますよね? オ・ウゴンさん」


 僕がそう聞くと、ヤエの殺気にブルブル震えていたオ・ウゴンさんが飛びついた。


「も、勿論だ、いやです。リッター殿いや、様に私は服従いたしますぞ。なーに、部下達は私に服従しておりますし、簡単に解決致しますから。では、用事も済んだので私はコレで失礼致します。今から部下達によーく言い聞かせに戻りますので。では、失礼致します!!」


 そう言って風より早くオ・ウゴンさんは去って行ったんだ。 




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