星に願いを

 歩道橋の真ん中。私は彼の隣で夜空を見上げる。


 人通りは少なくなり、車の音だけが響き渡る。

 二人は何も口にせず、ただひたすらに夜空を見上げ続けた。


「お前は、自分の死に気づかなかったんだな」

『うん。気づかなかった。いつものように学校へ行き、いつものように過ごしていた。そう、思っていた』


 そういえば、噂があったなぁ。

 星空にある歌を聞かせると、願いが叶うんだっけ。一体、何を歌えばいいんだろう。


 もし、願いが叶うなら、私はまた、彼と共に──


「……──」

『ん? なぁにっ──』


 名前を呼ばれ、隣を向く。すると、いつの間にか彼の水色の瞳が目の前にまで迫っていた。

 触れられるはずがないのに、彼は私の頭に手を回し、腰を抱きしめようとする。

 触れられている訳じゃないのに、支えられているところには、確かな温もりがあり、私も抱きしめ返そうと、彼の背中に手を伸ばす。


 触れたい。もっと。彼と一緒にいたい。


 触れ合っている感覚がない。でも、彼は私にキスをしてくれた。抱きしめてくれた。

 目尻がじんわりと熱くなり、頬に暖かい何かが流れる。


 もっと。もっと──


 でも、そんな私の想いは、叶わない。

 彼はゆっくりと触れ合っていたであろう唇を離し、腰や頭に回していた手も離す。


 いやだ。お願い。もっと、もっと抱きしめて。私を、一人にしないで──……


 視界が歪む。彼をしっかりと見ることが出来ない。頬に、なにか温かいものが流れ落ちる。


「……──♪」

『その、歌……』


 彼がいきなり歌い出す。その歌は、私が一番好きな歌。

 儚くも、美しく。元気が出るから、私は好きだった。

 彼の声は低いため、女性が歌っている物だと少し違和感がある。それでも、今の私の耳には心地よく、自然と笑みがこぼれる。


 私の体が淡く光り出す。それを見た彼は、優しげに目細め、それでも歌い続けてくれた。


 多分、私が自分の死に気づいたから、現世に留まることが出来なくなったんだ。


 薄れていく自身の体を見て、最後に彼を見る。


 彼の声が心地よくて、眠くなってきた。


『────ありがとう』


 それだけを伝え、私の体は──完全に姿を消した。


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