星空な瞳 〜願いの込められたヘッドホン〜

桜桃

 ある日を境に、周りの人達は、私を──……


 ☆


 私の目の前には、いつも通っている高校があった。そこまで新しくないから、壁とかは少し黒ずんでいるけれど、今も生徒達を向かい入れている。


 今は登校時間。周りには沢山の生徒が正面玄関の扉をくぐる。


 それぞれ、友人と楽しげに話している。

 私も加わりたい。いつものようにテレビの話や、授業について。でも、何故か私が話しかけても、まるでいないかのように振る舞われていた。


「それでさぁ、昨日親が──」

『ねぇ、昨日なら私も楽しい話あるんだよ!』


 人が話している途中で割り込むのは、マナー違反なのは分かる。けど、こうしないとダメなんだ。

 女子生徒二人の会話に無理やり入り込み、話しかける。でも──


「なにそれぇ。めっちゃウケるんですけど」

「でっしょー!! まじでうちの親ウケる」


 聞いてくれない。気付いてくれない。

 どうして? 私は、ここにいるんだよ。なんで、誰も話を聞いてくれないの。なんで、一ヶ月前みたいに、話しかけてくれないの。どうして、私を無視するの?


 胸に手を置き、周りの光景を見るしかできない。


 苦しい、辛い、悲しい。

 この、胸の中に渦巻く何かが溢れ出そうになる。

 胸あたりに添えている手に、自然と力が入り、服を強く握ってしまう。あぁ、制服がシワになる。


 ……ダメだ。これを表に出してはダメだ。


 …………屋上に行こう。そこには誰もいないはず。誰も……いなかったはず。そこなら、落ち着ける。


 正面玄関から中に入り、階段を駆け上がる。人とぶつからないように気をつけながら屋上へと向かい、少し錆びている扉を開けた。


 優しい風が私の頬を触れる。髪が後ろへと靡き、少し顔にかかる。邪魔にならないように髪を耳にかけ、空を見上げた。


 すごく綺麗な青空が広がってる。それすら、今の私にとって不快でしかない。

 私はこんなに苦しんでいるのに、なんで空は一緒に泣いてくれないんだ。そんなことを考えたところで、意味なんてないんだけど。


 ため息が自然と口から出る。


『ん? 誰かいるの?』


 屋上の奥に進もうとすると、寝息が聞こえた。こんな早朝に誰かいるのかな。


 周りを見回すと、太陽の影に隠れるように、人影を見つけることが出来た。


 近づいてみると、風に揺れる黒髪を押し潰してしまっている、藍色のヘッドホンが目に入る。


「へ、ヘッドホン………?」


 な、んだろう。なんか、このヘッドホン見覚えが……。それに、この人も。


 壁に寄りかかりながら腕を組み、瞼を閉じてる。

 肌は色白で、制服のボタンは少し開けており、耳にはいくつものピアスが付けられている。


 不良? こんな時間にここにいる訳だし、危ない人かもしれない。


 咄嗟に離れようと後ろへ一歩下がると、それと同時に男性が瞼を開けてしまった。


『あ、やばっ』


 私と男性の瞳がかち合う。

 一瞬、男性は驚きでなのか目を大きく開いた。


 その瞳の中には、澄んだ青空が広がっていてとても綺麗に輝いている。

 そんな瞳は私を離さない。な、なんだろう。変に緊張する。


 お互い目を合わせたまま、言葉を発することなく時が進む。

 重苦しい空気が私達を包み込み、体を動かすことが出来ない。

 綺麗だけど見られているだけで、石のように重くなりそうな鋭い瞳だ。


 固唾を飲み、意を決して問いかけようとした──んだけど、それより先に男性の方が早く口を開いてしまう。


「なんでお前がここにいる。さっさと消えてくれ」

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