はるめぐる

 たまには遠回りしてみようか。

 そんなことを貴方が言い、雪が溶けて歩きづらい歩道を、私はのろのろとついていきました。積もったときには美しかったであろう雪の白さが、人々の靴底に汚されて見る影もないのを、沈んだ心で見つめながら。

 歩いている間に、またぞろ雪が降り始めました。無数の細かな結晶が風に乗り、前をゆく貴方と、私との間を限りない距離で引き離します。三歩先も見えません。涙が滲んで、体内の水までもが雪になりそうなほどです。貴方の背中を見失い、おろおろと伸ばした手が、温かく大きな掌に包まれたのが分かりました。

 途端、雪の壁は、輝く美しい光の粒に変わり、貴方の笑顔が、私に向けられていました。

 ご覧、と貴方が示した湖には薄く氷が張っていて、きらきらと陽光を反射しています。

 あの下でも、生命が息づいているんだ。春がくれば、彼らはまた動き出すんだよ。

 ああ、それはまさしく本当でした。私が歩いてきた雪道の下にもやはり同じように生命はいて、今は隠されていても、やがて再び動き出すのでしょう。

 私はようやく頷きました。

 春が来るのを、貴方とともに待ちましょう。世界は、限りなく優しいのですから。

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