第49話 決着

「碧か」


 燦砂は何でもないことのように呟く。が、相当なダメージを食らったようで、そのままへたり込む。


 アヴァロンが来てくれたのか。


「もうお前に興味はない。新しい玩具を手に入れたんでな」


「エレナ・メルセンヌを利用するつもりなら、断固として私が阻止します」


 アヴァロンは毅然とした態度で宣言する。


「やってみろよ」


 燦砂は余裕を崩さない。


「ロッソさん、あなたを【蔵】にします。私とて和泉の端くれ。蔵造りの技術くらい持ち合わせていますから。それで私の法力全てを流し込みます。あなたが練ったものと合わせれば、さらに上の異界召喚ができます」


「お願いします!」


「蔵造り【如来蔵】」


 アヴァロンが俺に手を触れると、びっしりと謎の文字列が俺の身体を覆った。


「まずいです。燦砂が回復します!」


「いいから黙って。集中させて!」


 アヴァロンが敬語を忘れるほど集中している。俺も法力と魔力を練らなければ。


「明王式……」


 俺は以前アヴァロンに見せてもらったイメージを基に、魔力と法力をブレンドする。


「出来ました! 精神共有【非想天】」


 新たな異界召喚のイメージが流れ込んでくる。


 これでやるしかない。


「異界召喚【無勝荘厳国】」


 俺が唱えると、莫大な量の法力が一気に発散した。


 そこには何もなかった。


 法力も、魔力も、持っていけなかった。


 ひたすらに無音で、虚無の支配する白い世界。


「私の力が、流れ出していく?」


 燦砂は困惑しているようだ。


 だが確かに、汚れが水に流されていくように、闇の魔力が流れ出していく。


「閉じよ」


 俺が唱えると、異界は急速に集束し始めた。それも燦砂に向かって。


 やがて異界召喚は解除された。だが、あの虚無の異界は、燦砂にまとわりついて離れない。


「くそ! なんだこれは!」


「終わりだ、燦砂」


 俺は自分のロングソードを燦砂の眉間に突き刺す。


「ぐっ」


「あんたもここで処理してやるよ。『闇に呑まれた』憐れな人間」


「俺を! そこらの人間と一緒にするな!」


 そこですかさずアヴァロンが咎める。


「人は皆凡夫に過ぎません。あなたも私も。ただ絶対不変のものなどないという、真理があるだけ。千年生きたあなたにも、滅びのときが来たというだけです」


「ふざけるな! 俺は不老不死になって全世界を統治すべく生まれたのだ! 誰にも邪魔はさせない!」


 なんと子供じみた言い草だろうか。


 力とは、人をここまで狂わせるのか。


「いいから消えろ。炎魔法【フレアバースト】」


 俺は剣の切っ先で爆炎を起こし、燦砂の脳を破壊した。

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