第45話 和国の結界

「あ、すごく遠いけど……アヴァロンちゃんの法力を感じる……」


 国境の外周を回りこむようにして南方を目指していると、エレナが唐突に呟いた。


「ということは、アヴァロンさんは無事なんだな」


 エレナは魔界の最深部に居ながらにして、俺の位置を正確に特定できた。


 その感知能力は極めて高いと見ていいだろう。


「和国とナブー王国の国境付近にいるみたい。分身を送ってみる!」


 そういえばエレナは分身を作って送れるんだったな。


 敵に回すと厄介な能力だったが、味方になるとなんとも心強い。


 だが数刻もしないうちに、エレナの顔が歪んだ。


「逆探知された!」


 エレナは鬼気迫る様子で呟く。


「え……エレナ、すぐに術式を解け!」


「もう遅い」


 謎の男がこちらに転移してきていた。


「うかつだったな。大罪魔妃。和国を覆う結界は術式を反射する。お前が分身を送れば、こちらからも分身を送れるようになるということだ」


 つまり、結界内に入らない限り、こちらの攻撃は通じないということか。


 にしても、この全身黒づくめで能面を付けた男は、何者だ? 燦砂の部下か?


「和泉の人間か?」


「そう。私は和泉の亡霊。燦砂に敗れ、死後も利用される生ける屍だ」


 燦砂に負けた?


 ということは、こいつは、


「和泉閑厳。私の俗世での名だ」


「あの和泉閑厳! 教えてくれ。燦砂の能力の源泉は……」


「今の私には喋れない。私は和国の防衛システムとしてこき使われる亡霊。お前たちに有利な情報は何も喋れない。こうして、外敵を排除することしかできない」


 閑厳の亡霊は、剣を抜いた。


 すかさず俺も法力を練り、三鈷剣を錬成し、斬り結んだ。


 やはり重い。


 カルネス王国の建国者なだけある。


 俺ごときではどこまで止められるか分からない。


「水魔法【カスケード】」


 洪水のような水流が、俺を避けて閑厳の身体を押し流す。


「後衛は私に任せて!」


 そうだ。


 今の俺にはエレナがいる。


 もう、何もかも一人で背負う必要はない。

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