第11話 魔界攻略の鍵

「魔界攻略には異界召喚が欠かせません。特に中層から先を突破するには、異界召喚のような力技が必要になります」


 アヴァロンは、呼吸を整えると、静かに語り始めた。


「私が潜ったことがあるのは第五層まで。そこから先は私でも命の危険があるため進みませんでした。そこで鍵となるのが、異界召喚です」


 異界召喚をどう活用するのか、俺は疑問に思った。


「これを使えば、魔界という異界を別の異界で中和し、階層を貫いて第八層に到達できます。私の使える【東方浄瑠璃浄土】と【西方極楽浄土】の二つで、第六層と第七層を突破するわけです」


 だが、アヴァロンは二日続けて異界召喚を使ってかなり消耗している。魔界攻略で同じ事態に陥るであろうことも、想定済みなのか。


「つまり、その二つの異界に俺を慣れさせるために、ドラゴンロード相手にわざわざ異界召喚を使ったと?」


「その通りです。この異界に満ちる法力を使いこなせれば、限界を超えて強くなれます。さらに魔力と法力を混ぜて使えれば、エレナ・メルセンヌにも対抗できるでしょう。第六層、第七層の突破で私が力を使い果たしても、あなた一人でどうにかできます」


 そんな方針まで考えていてくれていたのか。アヴァロンは、冷静ではあるが冷酷ではないらしい。


「……私を冷酷だと思っていたのですか?」


 そういえば、アヴァロンは心が読めるんだったな。


「いえ、そんなことは……ただ、俺は自分の決めた覚悟が否定されたような気がして、あなたの言葉が冷酷に聞こえたのかもしれません」


「そうですか。私も、今齢十五ですが、昔から何を考えているか分からないと言われ、よく邪険にされたものです。慣れています」


 アヴァロンは無表情だが、傷つけてしまったかもしれない。なんだか申し訳ないことを思ってしまったな。というか、アヴァロンは俺の6歳下なのか。


「気に病む必要はありませんよ。お師匠様と出会うまでは、自分には生きている価値などない。死ぬべきだと考えていました。ですが、5年間の修行期間中に気付いたのです。そもそも、この世に価値あるものなど一つもないじゃないか、生きる価値もなにもない、とね」


 暴論にも聞こえるが、アヴァロンが言うと不思議な説得力がある。


「あなたも、私も、地上最強に思えるエレナ・メルセンヌも、いずれは死にゆく存在。この世は無常ですから」


 全てを諦めたかのような価値観だ。しかし、何とも清々しいじゃないか。厭世的でもないし、負け犬特有のひねくれた根性も感じられない。心の底からそう思っているようだ。


「でも、何事も無価値ということは、全てのものに価値があると言っているのと同じことですよ?」


「そうですね。相対的に考えればそうなります。あなた、意外と鋭いですね」


 まさか十五歳の少女に褒められるとはな。意外なこともあるものだ。

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