第4話 頂上決戦

「あなた、世界征服を考えていますね。その過程で多くの人々が犠牲になることも意に介していない。分かるんですよ。私、心が読めますから」


「でたらめばかりよく喋るな。エセ占い師か?」


「そうでないことは、今の一撃で分かったのでは?」


 睨み合いが続く。


 エレナは黒紫の魔力球を作り出し、一気に射出した。エレナの得意だった水魔法の面影はない。完全に上級魔物が使う闇魔法そのものだ。


 だが、アヴァロンは正拳突きで魔力球を弾き飛ばした。空の彼方に飛んでいったので、被害はなさそうだ。


 そのまま二人は殴り合いに突入する。二人とも恐ろしく速い。目で追えない。異次元の戦いだ。だが、エレナの方が押されていることは分かった。


 アヴァロンの強烈な鉤突きが入り、エレナは吹っ飛ばされる。


「今の感触で分かりました。あなた、分身ですね?」


「へぇ。勘が鋭いのね」


 分身だと? エレナ本隊は魔界にいるということか。分身でなおこれほどの力を誇るとは、本人はどれだけ強いのか。


「まぁこっちの世界じゃ条件悪いし、有利な地形に変えたほうがいいわね」


 エレナが地面に手を当てると、途端に地面がひび割れ、次いで凍り付いた。気温が一気に下がる。


「重層結界【コキュートス】」


 コキュートスは魔界の最深部。凍り付いた魔王の玉座があると言われる場所。そんな場所を再現しようとしているのか。


 あちこちに闇の魔力が充溢していくのが分かる。確かにエレナに有利な条件だ。


「結界術ですか。ならばこちらも応じるまで。異界召喚【西方極楽浄土】」


 聞き慣れない単語を口にしたアヴァロンが合掌すると、金色の光が辺りを覆った。


 氷は融け、闇は晴れていた。


 辺りは浅い池になっていて、色とりどりの蓮の花が咲き乱れていた。もう結界術なんて次元ではない。まさに異界召喚。別世界をまるごと持ってきたかのようだ。


「くっ、狂乱魔法【アノイア】」


 わずかに動揺を見せたエレナが、精神操作系の魔法を発動させる。俺は呪文を聞いた瞬間、反射的に目を閉じたが、ダメだった。徐々に脳内が奇妙な快楽で満たされていくのを感じる。


 マズいとは思いつつも、この心地よい感覚に身を委ねたいと思ってしまう。


「精神共有【非想非非想天】」


 だが、アヴァロンの唱えた謎の呪文で、俺の頭は一気にクリアになった。


 何も思わないが、意識を失っているわけでもない。フラットな精神状態。不思議な感覚だ。


「へぇ、私の精神攻撃に即カウンター食らわせてくるなんて、なかなかやるわね。大した魔力よ」


「魔力ではなく、法力ですがね」


 アヴァロンは平然と言ってのけるが、魔力の供給が切れたのか、エレナの分身がぼやけ始めた。


「今日はここまでにしといてあげる。ロッソ。私の愛しいロッソ。あなたが来るまで、毎日分身を送り続けるからね」


 そうとだけ言い残して、エレナの姿は消え去った。

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