8 記憶

 .......思い出せないことに、初めてランタオは気付いた。


「ぼくが覚えているのはここまでで、家族のことは憶えていないです.......」


 彼がメアリーに話したのは、タンタンとの記憶だけでそれ以外には何もなかった。初めての感情に戸惑いを隠せないでいるランタオにメアリーは、言葉に詰まる。


「そうなんですね、でもタンタンさんもあなたの家族じゃないですか」

「家族、血がつながってないけど。家族? 」

「うん、ランタオ」


 メアリーは初めて口調を崩して話した。ランタオが自分の過去を話してくれたことに親近感を持ったのだ。ランタオは見えない距離が狭まったことに気付き息をのむ。


「メアリー......]

「うん、ランタオ。私たちの社会では血の繋がってない人同士が結ばれて、家族を作っているでしょ。それと同じように血の繋がっていない猫でも犬でも、それがたとえ別の何かだったとしても.......心が強く結ばれたら家族なんだよ。それにね、血が繋がっていないからこそ生まれる愛もあると思うの」

「血が繋がってないからこそ.......? 」

「うん、私のおじいちゃんは血が繋がってなくても最後まで私のことを考えてくれたでしょ」


 ランタオははっとしてメアリーを見た。血が繋がっていなければ家族ではない、という自分の概念を恥じる。


「ごめん、メアリー.......」

「ううん、謝らないで? 全然気にしてないんだから」


 ランタオは体を覆う温もりのあとに、メアリーがランタオを抱きしめていることに気付いた。すっぽりと抜けた記憶の存在への恐怖心が紛れる。代わりに涙が頬を伝った。メアリーがそろそろと体を離そうとしてもランタオは離さない。涙を見られたくないのだ。


 メアリーはランタオの背中をさする。まるで母親のように。ランタオの意識はゆっくりと遠のいた。

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