4 Monterey――モントレ

「わ、わぁ.......!すごい、すごい! 」

「どうなってるんだこれは.......」


 緑に包まれたその空間。二人は息をのんだ。奥に巨木が聳えている。その前に木の温かみが感じられるベッドが二台置かれていた。ウッドチェアが二つ置かれている。小さな灯篭がいくつも宙で留まっていた。


 どこかで愉快な音楽が聴こえてくる。小太鼓をたたく音や笛を吹く音。


「ここがあなた方のお部屋になります。まもなく食事が用意されます」


 部屋まで案内してきた少女が頭を下げる。プラチナブロンドの髪を揺らめかせながら、微笑む。


「あの、よかったら名前を」


 少女は店員に名前を尋ねる不思議なランタオの言動に笑顔で答えた。


「エミリーです。ランタオさん」

「エミリーさん」

「お前、惚れたな? 」


 横やりに顔を赤らめるランタオはだれがどう見ても、エミリーに一目ぼれをした様子だ。その場は笑いに包まれる。レオナが笑いすぎているためにランタオが気の毒になってエミリーは笑うのをやめた。


「それより、少しお話を聞いていただけませんか」



 ダイニングテーブルを囲み、三人は話を始めた。エミリーは不安げにランタオとレオナの顔を見る。


「なんだ、話というのは」

「.......はい。石守り村のイサクさんから話は聞いてると思います。実はこの街、ヴァラタムでも厄介なことが起きてまして。それというのもヴァラタムは少し前から不穏な空気に侵されています。そして今日、私のお兄さんが病に倒れたのです」

 

 ランタオは息をのみ、リオナは彼を見やった。愉快な演奏が止んだ。

 

「それもまさか不穏な空気と関係があるのか? 」

「それは、わかりません。でも元気だった兄が急に病床に就くとは考えづらいです」

「医者には診てもらったのですか?」


 ランタオが聞いた。


「はい、原因不明だということです」

「それで、お兄さんはどうされていますか? 」

「意識不明の重体です」


 三人は黙り込んだ。しばらく考えたのち、ランタオが顔を上げた。


「エミリーさん、お兄さんのお見舞いに行ってもいいですか?」

「ランタオさん.......! はい、お願いします.......! 」


 エミリーは不安がとれたのか、また元の笑顔になった。どうやらよほど期待されているらしい、ランタオは嬉しい反面これから先の不安があった。



 入浴後、ランタオはベッドに寝ころび明日の不安を考えていた。ぎしり、と隣でレオナが濡れた髪を拭きながら座る。


「レオナさん、レオナさんは不安ではないんですか明日のこと」

「何を言っているんだ? なよなよしいのもいい加減にしろよ。お前は神に力を授けられた勇者なんだぞ」

「そんなこと言ったって、僕が持っている力は石の持つ効力を最大限に引き出す力のみであって」

「うるさいな、十分だろ。考えていたって仕方ないんだ。お前は寝ることに専念しろ」


 ランタオは黙るしかなかった。レオナの言うことは間違いない。今は考えるよりも寝ることのほうが先だ、そう考えた。それでも先の不安は取れなかった。


 ランタオは考えてしまう。もし、もしも僕が石守り村の周囲で見聞きする謎を解決できなかったら。


 ランタオは目を瞑る。考えないようにと願えば願うほど考えてしまう。もう止んでしまったあの愉快な音色を誰か奏でないかと、今度はイライラする。


 明日が早く来てほしいのか来てほしくないのか。

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