第5話 雨は降り始めた


 新宿から小田急線に乗り込んで経堂までは、快速ということもあって割合に早く着いた。


 駅からはバスが住宅街まで走っているのだが、高校時代はいつも歩きで行っていたから、そのまま徒歩で行くことにした。

 経堂の駅に十年ぶりに降りたって、様変わりしたバスターミナルを眺めていたら、僕の冷静さがいくぶんか回復した。


 黒々とした雲の下で、駅前の人々の行き交いは自然と足早になっている。僕も改めてこれはまずかったなと、その時になって思い至った。


 そう思ったのとほとんど同時に大粒の雨がぽつりぽつりと路面を黒く染め始めた。

 住宅街に入る前でよかったと思いながら、手近のコンビニで傘を買って、そうして雨の中、友人である段柳祐介の家を目指そうと、表に出たらまた少し冷静さが戻ってきた。


 僕と彼の友人関係はどれほどのものだったか。


 覚えている一番初めのやりとりは高校一年の時だった。彼の父が亡くなったときの葬儀場で言葉をかけてやったのだ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る