第3話  小馬鹿にする令嬢たちにも仕返しを。

王宮の廊下から貴族の令嬢たちの黄色い歓声が聞こえる。渡り廊下の先は貴人の演習場があり、それを見に来ているのだ。




 そう彼女たちのお目当ては、騎士団と共に演習を行う王太子殿下だ。




 この渡り廊下は本来、私と騎士団の管理下に置いて令嬢などは入れないようになっている。しかし私がココを留守にしたたった数時間で、この有様だ。




 きっと令嬢たちに押される形で、入ることを許可してしまったのだろう。




 まったく騎士団も不甲斐ないというか、職務怠慢もいいところだ。そして彼女たちも残念なことに、大きな勘違いを一つしている。




「お嬢様方、今すぐご退場願えませんでしょうか。この渡り廊下は、許可されていない者の入場が禁止されているはずです。本日の責任者は誰ですか? 今すぐご令嬢たちを退場させてください」


「あーあ、もううるさいのが来ちゃったし」


「ホントだ、おばさん侍女頭登場~」


「まったく規則規則って、固すぎるのよね」


「あのひっつめ頭の中みたいにね。まったく、あの中一回見てみたーい」




 絶対に周囲の人間たちに聞こえると分かる大きさの声で、令嬢たちはクスクスと私への悪口を並べ立てていく。




 私も貴族令嬢ではあるが、ここではあくまでも王太子殿下付きの護衛官兼侍女頭だ。そのため髪はすべてひっつめメイドキャップの中にしまい込み、すっぴんに大きな眼鏡というとても地味な姿だ。




 もっともこれも全部父からの命令のせい。殿下に女を意識させず、迷惑をかけず、地味で目立たない女をというもの。 まぁ、今となってはある意味これも私の作戦には丁度いい。




 このキーキーと騒ぐ勘違い令嬢たちはもちろんのこと、殿下ですら私の中身を知らないのだから。




「本日責任者は自分です。シアラ殿申し訳ない。ご令嬢たちには、すぐに退場していただきます」


「そうして下さい。殿下は、ここで騒がれるご令嬢の方をとても嫌われます。すぐにでも退場していただかなければ、今後登城すら難しくなるでしょう」


「な、なにそれ」


「あなた、どうしてそれを先に言わないのよ」


「聞かれてはおりませんでしたので」


「だ、だからって」


「ですので常日頃から、ココへの侵入は禁止していたはずですが?」




 令嬢たちは皆一様に真っ青だ。ここに来て殿下の目に留まりアピールできれば、自分たちとて王妃候補になれるかもしれないと思っていたのだろう。しかしまったくの逆効果。殿下はここに来ていた令嬢は例外なく、婚約者候補から外している。だから未だに殿下の婚約者がこの国内において見つけられないのだ。




「そ、それはそうだけど」


「ではこちらには落ち度はないですね」


「親切ではなさすぎよ」


「私の業務はあくまでも殿下の侍女にございます。言葉の通じない令嬢たちの子守りは含まれておりません」


「な、あんた」




 よほど腹に据えかねたのか、令嬢の一人が手を振り上げた。しかし私はその場から一歩下がり、令嬢の手は空を切り、その場によろけてしゃがみ込む。私はしゃがみ込んだ令嬢に寄り添うかのようにしゃがみこみ、小さな声で囁きかけた。

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