15:悪意

 瞳ちゃんから告白された翌日の放課後。

 俺と瞳ちゃんはまた公園に来ていた。

 今日の放課後に瞳ちゃんが弥生を呼び出して、本当の気持ちを聞き出そうとしてくれたのだ。

 そして、弥生がどうして浮気をしたのか。

 その理由が分かった気がした。


 恐らく弥生はミチルに騙されたのだ。

 その証拠は弥生が瞳ちゃんに投げつけた大量の写真だ。

 写真には俺と瞳ちゃんがラブホテルに入ったり、出てくるところが写っていた。

 しかし、その写真を見ても俺は冷静でいられた。


 それはなぜか。

 俺と瞳ちゃんは一度もそんなことをしたことがないからだ。

 そんなのは当たり前だ。

 だって俺は弥生のことが大好きだったのだから。

 弥生と付き合っているのに、他の女の子とラブホに入るなんて有り得ない。


 しかし、弥生は有り得ない事実が写った写真を持っていた。

 恐らくそれを見せられて、俺たちが裏切ったとミチルは弥生に言ったのだろう。

 そして、それを元に関係を結んで今のような感じになったのではないかと推測される。

 俺は怒りで頭が沸騰しそうだった。

 今すぐミチルのことを殴りつけてやりたい。

 だけど、今俺があいつのことを殴っても、自分の立場を悪くしてしまうだけだろう。

 俺は弥生のことを騙して、俺たちの関係を崩した元凶を許すことは出来なかった。


 そして、その気持ちは瞳ちゃんも同様だったらしい。

 当たり前だ。

 有りもしないことで親友を騙していたのだから。

 瞳ちゃんは俺のことを好きだと言ってくれたが、それは親友の弥生を傷付けてまで叶えたいとは思っていなかった。

 それはこの三年間を見ていても分かることだ。

 俺たちはただ平穏に、穏やかに愛を育んでいただけだ。

 それなのに、たった一つの悪意のせいで崩れ落ちてしまった。



「俺はミチルのことが許せないよ」


「うん。私も許せない」


「この写真は事実ではない。それは俺たちが知っている。だったら、この写真の元データはどこにあるのか。恐らくだが、この写真は購入したデータではないかと思う。それを画像加工して俺たちの顔を嵌め込んだんだろう」


「――うん。多分それしかないよね」


「あぁ、だから俺は画像検索をかけて、この元の画像データを探す。そして俺たちは無実だということを弥生に知らしめてやろう」


「それが良いわね。あの子も騙されてる被害者なんだから」



 そういうと瞳ちゃんは心配そうな顔を浮かべて、「だけどそのあとは弥生とどうするの?」と質問してきた。

 正直また弥生と一緒になっても元のように愛し合えるかと言われたら無理と答えるしか出来ない。

 だったら、無実だけを証明してこのまま別れるのが正解だろう。

 俺はそれを瞳ちゃんに伝えると、目を伏せて「そう……」と小さく呟いた。




 ―




 翌日俺たちは2人で登校をすると、黒板に俺と瞳ちゃんの名前、そしてその隣に『浮気してたクズです』とデカデカと書かれていた。

 そして、自分たちの机にも『ビッチ』や『浮気野郎』などの文字が書かれている。

 まさかこんなにも直接的な手段で来るとは思いもしなかった。

 周りを見るとクラスメイトが俺たちのことを睨みつけて、「有り得ない」「クズだな」「浮気とか最悪でしょ」と小声で話している。


 瞳ちゃんは顔を真っ青にして、黒板の方へ向かい文字を消し始めた。

 俺はバケツに水を入れて、雑巾で机の落書きを消し始める。

 俺は後回しでも良いから、まずは瞳ちゃんの机を優先した。

 それが気に入らなかったのか、周りからは「浮気相手に良い顔しやがって」「弥生が可哀想」などの声が聞こえてくる。

 どうやら落書き自体は水性ペンで書かれていたらしく、あっさりと消すことができた。

 しかし、俺の机までを消すことは出来なかった。


 担任が俺の机を見たら何かしらのアクションがあるだろう。

 俺はそう考えたが、蓋を開けてみたら完全にスルーだった。

 マジかよ。

 あいつ本気のクズだったのかよ。

 一学期からどうしようもない感じだったけど、本物のクズ教師だったことに絶望してしまう。


 とりあえずSHRが終わったら、机を拭けば一時間目までには間に合うだろう。

 俺はSHRが終わると同時に机を拭く作業を再開する。

 瞳ちゃんも俺の机に来て、拭くのを手伝ってくれたので、悪戯書きがされる前の元通りの状態に戻すことができた。



「瞳ちゃん、ありがとう」


「ううん。良いの。それじゃあ席に戻るね」



 瞳ちゃんがそう言うと、クラスのどこからから「ビッチ」という声が聞こえてきた。

 俺が席を立ち上がると「良いの……」と言いながら、俺の制服の袖をギュッと掴んで静止する。

 俺の袖を掴んでいる瞳ちゃんの腕は小さく震えていた。

 ミチルと弥生はこちらを見ながらニヤニヤと笑っている。


 それを見た俺は、虐めを先導するようなことをした2人に怒りを覚えた。

 弥生に怒りを感じるのはこれが初めてのことだ。

 昨日までは怒りよりも悲しみの方が勝っていたのだが、昨日瞳ちゃんが弥生に問い詰めた次の日に虐めが始まると言うことは、間違いなく弥生も原因の一人であろう。


 あいつは俺たちが裏切ったと思っている。

 だから俺たちと絶縁するのはまだ仕方のないことかもしれない。

 事実を伝えたら、ちゃんと分かってくれると信じていた。


 だけど、あいつはクラスメイト全員を巻き込んで俺たちを陥れようとしている。

 これはもう完全なる悪意でしかなかった。

 しかも、親友の瞳ちゃんにまでその悪意を向けている。

 こんなこと許せるはずがなかった。




 ―




 放課後になると俺は瞳ちゃんを家まで送って、ある場所へと向かう。

 そこで目当てのものを購入した後に、学校へ戻って自分の席の周りで作業を始めた。

 俺たちを嵌めようとした奴ら全員に復讐をしてやる……。

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