第15話 噂

 カレンドルの王に会い、カミヨ家はカレンドルで住居と仕事を得る事になった。

 ルイスは薬草に造詣が深い事を買われて国立医療センターで薬の研究と育成と調合を。イミアは国立図書館で古い文献を調べて過去の世界が栄えていた頃の技術を研究するという仕事だ。

 過去にこの世界は一度文明が滅んだと言われている。原因はわからないが、時々遺跡から、「オーパーツ」としか言いようのないものが発掘されてもいるし、そういう記述のある書物も残っているのだ。

 過去の人類は、空を飛んだり海の底にも潜ったり、空よりも高いところ、月にまで届いたという。それを復活させたいという部署だ。

 家は城下の住宅街で、店にも仕事場にも近い。

 そこでの暮らしも半年経ち、随分と慣れた。そしてクライとロッドは、相変わらずしれっと訪ねて来る。

「揚力よ、揚力。翼の大きさと角度、前へ出るスピードがカギだと思うのよね」

「だからって、全力で走る馬車から飛び降りようとするやつがいるか!」

「あら。クライは空を飛んでみたくないの?私は飛びたいわよ。空どころか、空の上の月にも行ってみたいわ」

「イミアから目を離さないように言っておかないと、爆薬を背負って空を目指しかねないな」

 言い合うイミアとクライはもうお馴染みの光景で、普段冷静で物静かな皇太子殿下が、と驚く者はもういない。

 いずれはイミアを妃に望むのだろうと一部では噂されているが、知らぬは本人ばかりである。

 もうひとつ流れて来た噂は、ランギルの事だった。

「そうとうヤバイらしいな」

「無法地帯だよ。護符や免罪符が出回って危なくなって来た時に、まともなやつはランギルを脱出しただろう?残ったのは、免罪符を握りしめて好き勝手したやつらだから、そりゃあな」

「国中が沼地や湿地になって、乾いた土地がほぼないそうだ」

「商人も入って来ないから、足りないものだらけだし」

「どこの国も国境を封鎖してるから、逃げ出す事も、輸入もできない」

「そりゃあ、難民の顔をした犯罪者がどれだけいるかわかったもんじゃないからな。どこも封鎖するよな」

「実質的には、もう国は滅んだも同然だな」

 そんな話だ。

 国境で別れた後、皇帝は意識が戻らないまま亡くなり、アレクサンダーは皇帝の座に就いた。

 そして「カミヨ家の者を引き渡せ」と抗議して来たが、カレンドルは本人達が亡命を希望しているとこれを拒絶。以降は国交を断絶していた。


 クライをリーダーとする調査隊が、遺跡と思われる地域に足を踏み入れていた。

「これは、古代文字の書かれた石碑です!」

「間違いなく、ここに遺跡が眠っているな」

 クライが興奮を抑えようとしながら言うが、そこに残った霊がわらわらと起き上がる。遺跡には時として、こうした霊が居つくものだ。

 それは悪霊だったりそうでなかったりいろいろだが、今回は悪霊だったようだ。

「殿下」

 サッとロッドがクライを守る位置に立ち、メンバーは一カ所にまとまる。

 そしてイミアは、胸の前でパンッと手を合わせた。それで神が降りて来る。

「雑魚だな。盗掘しようとして死んだ者か。まだ欲に縛られ、残るか」

 美しい唇がそう言うと、手にすらりと細い片刃の剣が現れる。そして、それを一振りして地に突き立てると、それで亡霊は全て消え去ってしまった。

 それを見届け、神は去った。

「ふう」

「お疲れ様、イミア」

 クライはイミアに笑いかけた。

(薬草の勉強は進まなかったが、あの国に行った意味はあったな)

「何?」

「いや。さあ、作業開始だ」

 クライはそう声を上げ、ロッドは小さく

「ヘタレ」

と呟いた。




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