第6話 卒業式での婚約破棄と断罪は流行りだそうで

 そうこうしているうちに卒業式となった。

 まずは式を行い、その後でパーティーとなるのだが、貴族は大抵の人が既に婚約しているものだ。その場合、婚約者同士で入場する事となる。

 が、イミアの所には、アレクサンダーから揃えるべき衣装の話もなかったし、エスコートの話もなかった。

 まあいいやと、イミアは1人で入場し、ルルのいるテーブルに合流した。

 イミアがアレクサンダーの婚約者である事は周知の事実なので、ある者は怪訝な顔をし、ある者は面白そうな顔をし、ある者は眉をひそめた。

 最後になって堂々と腕を組んで入場したのはアレクサンダーとミリスだ。

 ヒソヒソとした声が、拍手の中に紛れて広がる。

 そしてアレクサンダーは、乾杯も校長のあいさつもまだな中、大声をあげた。

「イミア・カミヨ!ここへ立て!」

 それにざわめきが広がる中、イミアは嘆息した。

「ねえ、ルル。何だと思う?」

「巷では、卒業式で婚約破棄と断罪と真実の愛を叫ぶのが流行らしいわよ、イミア」

 ルルがアレクサンダーとミリスを睨みつけながら言う。

「まさかと思うけど、そうかしら」

「そこまでバカとは思いたくないけど、違うと断言できないわ」

「早くしろ!怖気づいたか!おい!」

 アレクサンダーは取り巻きに目で合図して、

「ここに引きずり出せ」

と言う。

 イミアはその前にと、自分でアレクサンダーの前にぽっかりと開けられた空間に進み出た。

「何でしょうか」

 見ているほかの学生達も、

「まさか、アレ?」

「アレじゃない?」

などとヒソヒソしている。

 注目を浴びながら、アレクサンダーとミリスは気持ちよさそうに寄り添い合っていた。

 アレクサンダーはイミアに指を突きつけ、大声をあげた。

「イミア・カミヨ!貴様との婚約は今日限りで破棄とする!」

 ざわめきが大きくなる中、イミアは嘆息しつつ、自慢気な顔付きのアレクサンダーとミリスを白けた顔付きで眺めていた。

「ええっと、一応理由を窺ってもよろしいでしょうか」

「貴様が、真実の愛で結ばれているこのミリスに嫉妬し、いじめを繰り返したからだ!」

「……」

「驚きすぎて声も出ないか!」

「まあ、ある種そうですね。

 嫉妬もいじめも覚えがないのですが?」

 虚しさを感じながらも、一応は言っておく。

 そして、思った。

(冤罪は晴れるかな。でも、婚約破棄されたし、どうせ地味だし、一生独身決定だわ)

「とぼけても無駄だ!目撃者がいるんだぞ!

 追試の2日目、図書館でミリスを侮辱し、黙れと恫喝したそうだな!」

「……図書館で騒いでいらしたので、静かにして下さいとお願いしただけですよ」

 イミアが言うと、ミリスの取り巻きがキイキイと騒ぎ立てた。

「うそですわ!ミリス様に酷い事を言ったのです!」

「おかわいそうなミリス様!」

 するとルルがイミアに並んだ。

「わたくしも含め、たくさんの学生がその場にいましたが、殿下の仰るような事はございませんでした。図書館で静かにするのは常識。

 ここにもそこにいた方がいらっしゃるでしょう?わたくしの言う事に異議を唱える方がいらしたらどうぞ仰って」

 ルルが言うと、ざわめきは広がるが、誰も意義は唱えない。

 ルルの言う異議が、「自分の証言に対する異議」なのか「図書館では静かにするのが常識、に対する異議」なのかが曖昧な事もある。

「ほ、ほかにもあるぞ。そう!その日食堂で、ミリスの制服に赤ワインをかけただろう!」

「……私はこれまで安い方の食堂しか使っておりませんし、その日も勿論、そちらに行きました。証人もいます。

 それと、安い方の食堂では、アルコールは提供されておりませんよ」

 アレクサンダー達は目を見開いた。

「よ、用意していたんだろ!?」

 アレクサンダーの取り巻きがそう言うが、それに、イミアとルル、ほかの学生達も失笑した。

「わざわざかけるワインを準備して待ち構えるのか?」

「目立つな、それは」

 ミリスと取り巻き達は、悔しそうにイミアを睨みつけた。

「きょ、教科書を破ったでしょう!?おかげでテストの点が!」

「ああ、ミリス。かわいそうに」

「……テストの点が悪かったのは本人の勉強のせいでしょ」

 どこからか声がする。

「私は随分早くに単位を取っていたので教室へは長く行ってませんし、本は大切にします」

 イミアはどうでもいい気分になりながらも一応言っておいた。

 アレクサンダー達は真っ赤な顔で興奮して何か言おうとしているが、言葉が出て来ないようだ。

「だ、黙れ!とにかく、貴様はエリノア教に聖女認定されたミリスに嫉妬し、危害を加えた!よって、婚約を破棄すると共に、貴様ら一族に与えた住居や予算を即刻返還しろ!」

 教員も学生も騒ぎ、とてもパーティーをしている空気ではなくなった。

「どうするのよイミア?」

「ま、いいわ。どこか空き家に引っ越さないと」

「うちも考えないと。

 こうしちゃいられないわ。すぐに帰ってお父様に報告しなくちゃ」

 イミアとルルは、アレクサンダーとミリスを囲んで「万歳」と繰り返す学生達を尻目に、会場を後にした。






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