8話「人は見かけによらず」

 次の日からは、少しずつ授業が始まって本格的に高校生活らしくなってきた。

 6時間の授業を受けて、放課後はみんな部活の見学や体験入部などに向かっていく。

 どこにそんな元気がみんなあるのだろうか。


「学級委員長君〜。今日、見学行く?」

「あ~。それなんだけど、土曜日の午前って練習してる?」

「うん? もちろんしてるけど」

「その時に見学させてもらっていい?」


 見学に行かないと、中原さんに毎日声掛けをさせてしまいそうなのが、気になっている。

 一人暮らしをしている自分の予定も考えて、一番余裕のある土曜日の午前に見学をしようと考えた。

 そして、そこで入部をハッキリと断るつもりである。


「あ~……。それはやめといたほうがいいかも」

「え? 休みの時は見学出来ないっけ?」


 中原さんは少し考えたような顔をして、抑揚の無いトーンで俺に考え直すように促した。


「出来なくは無いけど……。学級委員長君が来る日を、顧問に言わないといけなくってさ。多分、土曜来るって言ったら、一緒に練習してみようって流れになっちゃうよ? それ、断れないでしょ?」

「な、なるほど……。押し切られたら、絶対に断れないな。相手は先生だからな」


 何ヶ月もやっていなくて鈍っているのに、元々格上ですでにバリバリの人たちと練習など、苦しすぎる。

 それだけは避けたいが、教師から促されてはっきり断れるほど、気が強くない。


「はっきり言ってさ、学級委員長君は剣道部入るつもり、無いんでしょ?」

「……うん」

「顧問がああ言っちゃてるから、さらっと見学だけはして、入部はしないって言っといたらいいよ」

「色々と気を遣わせて申し訳ない……」


 これだけ見学に行くことすら渋っていたので、入部に前向きではない事はバレているとは思った。

 その事を踏まえて、色々とアドバイスをくれるとは。


「いいんじゃない? やりたいこと、やりたくないことはあるしね〜。まぁ感謝してるなら、そんな私の事怖がらないで、友達になってもらおーかな」

「こ、怖がってる……?」

「剣道してるし、相手の表情を見ることは慣れてるからね。学級委員長君が、私をどう思ってるかすぐに分かったよ」


 見た目の雰囲気で怖がっていたことなど、色々とバレていたらしい。


「か、重ねて申し訳無い……。見た目から、気の強そうな女性なのかと思ってた」

「まー、そんな格好してるからね。そう思われても仕方ないよね」

「いや、人を見た目で判断したこっちが悪いんで」


 最初から中原さんを、間違いなく苦手なタイプだと決めつけていた。

 しかし、こうして話してみると、印象は全く異なっている。


「真面目だねぇ。人の印象なんて、最初の見た目が大半を占めてそうだし、気にしないでいいよ」

「そう言ってもらえると、助かる」

「いいやつでしょ、私」

「うん。正直、まだまだ話せる人が少ない中、ここまで配慮してくれて本当に助かってる」

「友達になりたいでしょ?」

「え?」

「こんないいやつと、友達になりたいでしょ?」

「う、うん」

「よし、じゃあ友達になろう」


 抑揚のない声で畳み掛けてきた。

 もちろん良い人だとは思うが、こんな見学をすることや、入部を断るかどうかでうじうじしているやつと、友達になりたいのか……?


「こんなやつで良ければ、是非是非」

「お、いいね。男友達を作るなら、君となりたいなーって思ってからさ」

「な、何故にそんな結論になったんだ……?」

「学級委員長君と友達になっておけば、いい感じの場面で忖度してくれそうだし?」

「学級委員長だから、何でも出来るってわけじゃないんで……」


 やっぱりその内、変なことをしでかしそうな気もする。

 それを弁解をしろとか言われたら、どうにもならないのだが。


「何か君って、面白い話し方するよね。よく人にそういう事、言われない?」

「言ってることが分からないとは、よく言われる」

「だろうね。それもいいと思うけど。私はそろそろ、部活に行きますわ〜」

「おっと、足止めして申し訳ない」


 気が付けば、数分経過している。

 貴重な部活の時間であるし、遅れてしまうのも良くない。


「じゃあまた、平日で時間がある時教えてね。見学と体験入部の期間って4月いっぱいまでだから、そんなに焦らなくてもいいよ」

「うん。まぁでもズルズルならないように、早めに予定は立てるよ」

「あいあい〜。じゃ、お疲れ」


 そう言うと、教室から出ていって部活へと向かっていった。


「めっちゃ良い人だった……」


 こちらの事を考えて、あれこれアドバイスをしてくれた。

 しかも、こちらが勝手な印象でマイナスのイメージを持っていたにも関わらず。

 しかも、友達になって欲しいとまで言ってくれた。

 抑揚のない声で言われたので、本気にしていいのかはまだ半信半疑と言ったところだが。


(友達になれるなら、なりたいが)


 あの言葉を本気にしていいか分からないが、中原さんと友達になれるように、何かあれば力になりたいと思った。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る