怪しい二人②

 タクトは下駄箱から外靴を取り出し、履き替えて校舎を出て行く。

 その後ろ姿を怪しげに見守る二人。

 

「よし今だ!」

「おう!」


 ささささと口で擬音を付けながら自分たちも靴を履き替える。

 周りから見たら不審者以外の何者でもない。

 学生のふざけたノリではあるが、本人たちは割と真面目だった。


「なんか尾行ってワクワクするよな!」

「うっさい馬鹿! 気づかれたらどーすんの?」

「う、悪い……サキちゃん本気だな」

「当たり前だろ? タクトが変なことに巻き込まれてたらどうするんだよ。リョウスケは心配じゃないのか?」

「そりゃー心配だけどさ」


 リョウスケは意味深にサキの横顔をじっと見つめる。

 自分と彼女の中で、心配の度合いが違うことに気付く。

 彼は小さく笑う。


「お、校門出た!」

「いきなり方角が違うな。こっちはオレが帰るほうだぞ?」

「だよね。追いかけるよ」

「おう」


 校門を出たタクトの後を追う。

 二人は気づかれないように一定の距離を空け、また逸れないギリギリを攻める。

 時に木々の後ろに隠れたり、通行人に紛れたり。

 素人二人の尾行は逆に目立つ。

 そのせいで周囲から白い目で見られているけど、集中している二人は気づいてもいなかった。


「この方向、駅だな」

「うん。どの電車に乗るんだろ?」

「わっかんねーけど付いていくしかねーな」

「だね。乗り遅れると最悪だし、ちょっと近づいておこう」


 二人は歩く速度を上げてタクトに近づく。

 近づけばより見つかる危険性も高くなるが、一緒の電車に乗れなければ行先がわからない。

 可能なら同じ車両に乗りたい所を、さすがにバレるからと隣の車両を選択する。

 タクトにバレないように遅れて車両へ乗り込み、隣の車両が見える位置を陣取って待機する。


「いや隣でもバレるんじゃね?」

「大丈夫でしょ。他にも生徒が乗ってるし紛れてればさ」

「まぁそっか。なんならよりわかんなくするために恋人っぽく」

「変なことしたら潰すぞ?」

「何を!?」


 二人の軽快なやり取り。

 普段通りにしていたら、自然と声量も大きくなる。

 注目される二人。

 反対の車両にいるタクトも、なんとなく気配を感じたのか車両間の扉を見る。


「ん? 今なんか……気のせいか」

「「……はぁ」」


 咄嗟に顔が見えないように隠れたことで、タクトには気付かれずにすんだ。

 二人は無言のまま、しばらく静かにしていようとアイコンタクト。

 駅が近づくにつれてタクトのほうを確認し、降りる気配があるか見定める。


「どこ向ってんだろうな~」

「こっち方面ってあんたの知ってる地域でしょ? なんかないの? タクトが行きそうな場所」

「行きそうな場所ね~ ゲーセンとか本屋とかはあるけどな~」

「それならわざわざ遠い所に、あ」


 次の駅に到着するアナウンスが流れた。

 それを聞いたタクトは扉側に移動している。


「次で降りるみたい」

「お、んじゃオレらも準備だな」


 電車が停車し、タクトが先に降りるのを確認してから、二人も後に続く。

 同じ駅で降りる学生も多く、流れに紛れることで後ろにつく。


「この当たりか~ なんどか遊びに来たことあるぞ」

「そうなの?」

「ああ。あいつも偶に一人でぶらついたりしてるはずだぜ」

「そうなんだ……」


 改札を抜けたタクトに続く。

 タクトは迷うことなく出口に向かい、スマホの画面を確認していた。


「なんやかんやぶらつきに来ただけだったりして」

「それはないよ。さっきから異様にスマホを確認してるし、進む道にも迷いがない。間違いなくどこかに向ってて、誰かが待っているのか時間が決まってるんだと思う」

「ほぉーなるほど。なんかマジで探偵みたいだなサキちゃん」

「ちゃん付けはって今はいいや。ほら行くよ。タクトちょっと駆け足になった」

「了解だぜ」


 駅から出てどこかへ迷いなく向かうタクトの足は、次第に速くなっていった。

 時間に遅れているのか、はたまた待ち遠しいのか。

 二人もその後を続く。

 そうしてたどり着いた先は、二人にとっては意外な場所だった。


「え、喫茶店?」

「みたいだな。こんな所にあったのか」

「じゃあリョウスケも来たことないの?」

「おう。つーかオレが来てると思うか? こんなこじゃれた場所に」

「ないね。同じくらいタクトにも似合わないよ」


 二人が知るタクトなら行かないような場所。

 そこに真っすぐ、寄り道もせずに向って行った。

 店に入った姿も確認している。

 いよいよ怪しくなってきたと、二人の中で疑念が膨らむ。


「どうする? 入る?」

「……入ろう!」

「良いけどバレるかもしんないぜ? 店もそんなでかくないしさ。良いの?」

「良くはないけど、ここまで来て帰れないでしょ?」

「ははっ! 同感だ。なーんか彼女っぽい気配を感じてムカついてきたし、とりあえず殴るか」


 ぽきぽきと指を慣らすリョウスケ。

 お店の見た目や雰囲気的にも、そっちの可能性が高いとサキも考える。

 それでもまだ不安が拭いきれず、いざという時も覚悟していた。

 そして、二人は意を決して中へと踏み込む。


 カランカラン――


 入店でベルが鳴る。


「あれ? どこだ?」

「おっかしいな。確かに入って……あ」


 奇しくも、同じタイミングだった。


「珍しいね。この時間に私たち以外のお客さん……白濵君あれ!」

「ん? どうしたの? そんなに慌てて――あ」


 互いの視線が交わる。

 男女一組、見慣れた二人組と意外な組み合わせ。

 遂に邂逅してしまった。

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