妖魔の境界

御鏡 鏡

第1話

2035/11/15(木)  深夜零時三十分 南京町南東部 折神おりがみ


 俺は通常の警邏に交じって、久しぶりに本職を熟していた。


 今日は検非違使けびいし絡みの仕事ではない。


 楽ではないが、そういうものだ。


 俺は兵庫県警捜査一課に勤める刑事だ、まだ警部補だが幸先はいいはずだった。


 南京町で怪しいヤクを密売している奴がいる、という通報を偶々近くで受けて現場に応援に行ったのだ。


 だがそこで行われていたのは乱闘や喧嘩ならまだよかったが、シンジケート同士の抗争だった。


 しかも一目でわかるそのなりからいって中華系のシンジケートだと思われた。


 片側は一般人を装ってはいるが、怒声や口調からいって同系列のものだとわかる口喧嘩と投石であった。


 厄介だったのはもう片方、明らかにシンジケートといった風体で皆一様に黒サングラスに黒スーツを着こみ黒い山高帽を目深まぶかにかぶりトミーガンを持ち一般人を装っていると思われるヤツらに鉛弾を撃ち込んでいるのだ。


「警察だ! 大人しく銃を捨てて投降しろ!」と声をかけると同時に愛用の銃M29で一撃空砲を空に向かって放った。


 そいつらは一度顔を見合わせたが、こちらにも向かって撃ち込んできたのだった。


 一般の警邏けいらと共に、車や電信柱を盾に撃ち合いが始まる。


 俺も防弾チョッキは着ている。


 俺は的確に殺さない程度に肩や腕を撃ち、一射確弱といったふうに撃ち込んでいった。


 三人ほど片付けた時だった。


 不意に長い銀髪で灰色のトレンチコートを着たヤツが立ち上がった、そして銀に鈍く光るデザートイーグル二丁を俺に向けて抜き打ちした。


 その瞬間俺はありえない力で、はじき飛ばされ意識を失った。


 その後俺は、そのまま市民病院に運び込まれたのであった。


 警察病院でもよかったらしいが、現場から遠くなるうえにいつもの作業がしにくくなるであろうという判断からだったらしい。


 その後同僚が、さらに応援を呼んだため黒服の奴らが引き上げていったのだった。


 追跡は行われたが、追跡のさなか奴らは忽然こつぜんと姿を消したらしかった。




2035/11/15(木) 深夜一時十五分 芦屋浜あしやはま高級住宅街 長良ながら


 スマートフォンがベッド脇のサイドテーブルの上で鳴った、緊急呼び出しのコールのほうだった。


 仕方なく、俺は電話を取った。


「休みの日にすまないが急用だ! 折神が撃たれた! 県警の仕事中らしいが撃たれて市民病院に運び込まれた。今わたしている。リキの付くものでも買って来てやれないか?」と電話の向こうで術式を執り行う声がした。


「加藤副課長、自ら執行なさっているのにですかい?」と俺は若干皮肉を込めて答えた。


 副課長自ら術式によって、執り行っているのに? という意味でいったつもりだった。


「すまないが頼んだよ、私はここを動けないからな。装備はいつものものに8357を含んで来てくれ」と返され電話は切れた。


 何が起きているのか良く分らなかった8357とか、もうただごとではない俺はそう思った。



「力の付くものねぇ……」とつぶやくと外出の準備を始めた。


 タクティカルスーツを着こみふところにM18357クーガⅡを収納し反対側に予備マグ三本を装備して太刀袋を持った。


 ナグリコミにしては装備が多すぎる、そう思ったが敢えて平静を保つことにする。


 本日の愛車は、金色系オロ・エリオスカラーの二〇〇一年式ランボルギーニディアブロ6.0SEである。


 少々派手だが改造も施されている、いわゆる普通の車ではない。


 防弾防刃の装甲を備えた改造車だ、車重は通常型とほぼ同じに設定されている。


 五時半には支度したくがすべて終わり、“力の付くもの”を買い込みに出た。


 定番なのは肉だろう、三ノ宮方面に向けて車をころがしていった。




2035/11/15(木) 深夜一時三十分 南京町北西部南京ビル四階 ラウ・ワン


「なにかあったんですかい?」と俺は聞いた。


 こんな夜遅くの呼び出しだ、何かあったとしか思えない俺はそう思った。


「先生には夜遅くて申し訳ないアル。ついいましがた南京町南東部で抗争が起こったアル、ウチの若い衆が四人ほどヤラレテしまったアル」と黄龍のドン王さんが泣きそうになっていった。


「先生にこんな時だけ頼ってしまって悪いが報復してほしいアル、黒龍ヘイロン許さないネ」と王さんはいった。


「確かこの前ウチに来た若い刑事さんも、撃たれたらしいアル」ともいった。


 俺は怒りに震えた。

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