第40話成長した君
92,君が変えたのは…
私は、三神君の実家を出て,ソーラ様から連絡をもらった地点へと向かっていく。
せっかく三神君から似合ってるて言われたけど流石にこのままの姿で戦うわけにもいかないのでいつもの正装へと姿を変える。
「早く終わらせて、三神君の事を迎えにいかないと。」私はそう呟きながら、空中を飛び、現場へ向かっていくスピードを上げる。
現場に向かいながら、三神君の叔母さんとの会話を思い出していた。
ほんの少しだけ時を遡る。三神君が仏壇のある部屋に向かっていき、私は叔母さんと二人でお茶を飲みながら、三神君が戻って来るのを待っていた。
三神君が部屋を出ると叔母さんが独り言を呟くように私に語りかけて来た。
「あの子は、早くに家族を無くしてね。それでも、自分なりに頑張ってたみたいなんだけど、何をするにも、お兄さんと比べられて辛い思いをしてきたの。」そこまで言うと叔母さんは、お茶が入った湯飲をゆっくりと置いて、微笑しながら私の方へ視線を向ける。
「だから、あの子がこうやって人を連れて来るなんて思っても見なかったわ。」その言葉には、嬉しさと同じくらいの後悔の思いが乗っているように感じられた。
その後悔の思いはなんなのだろう。そう思っていると叔母さんは話を続けてくる。
「私達は、あの子を助けてあげることができなかった。けど今、昔の涼太君のように戻れたのは、きっとあなたのおかげなのよね。」叔母さんは、そこまで言うと表情をほのぼのとした顔から真剣な顔に表情を変え、私に頭を下げてくる。
「あの子のこと、どうかよろしくお願いします。」そこまで聞いて、私はさっきの叔母さんの言葉で感じた嬉しさと同じくらいの後悔の思いの正体がわかった。
その後悔の思いは、私がマルファスとラウムとの戦いの時に感じた、何もしてあげられなかった自分の不甲斐に似ているのだろう。私は叔母さんに親近感を少しだけ感じながら、語りかける。
「頭を上げてください。私も叔母様と同じように彼に何か出来たとは思っていません。それに彼が昔のように戻れたのは、彼自身の力です。」そこまで言うと叔母さんは、顔上げ私に視線を向ける。同時に私は、今までのことを思い出していた。
彼は、自らの意志で戦う事を、強くなる事を選びここまで来た。時には、心折られる事もあったのだろう、けれどその度に立ち上がって来た。
誰が彼に手を差し伸べたかなど関係ない。彼はどんな逆境にだって抗おうとする強い意志を持っていた。
「三神君には、諦めず前に進む強い力があります。それはきっとご家族や叔母様達に育てられたからなのでしょうね。」私がそう微笑みながら、三神君の叔母さんに言うと叔母さんは、微笑み返してから再び語りかけてくる。
「そう言ってもらえて嬉しいわ。それに涼太君は、父のように諦めの悪い人に成長したんのね。」そう、言葉をこぼす叔母さんは、涙目をしながら、湯飲みへと視線を向けていた。
そんな時、私にソーラ様から通信が入ってきた。
「アルテミス。休日を過ごしているところすまない。新しい『神現の実』が出現した。今ヘルメスとスサノヲを向かわせたが少しでも戦力が欲しい。現場に向かってくれ。」聞き終えると現場であろう場所が脳内に送られてくる。
「すいません。急ぎの仕事が思い出したので、ここら辺で失礼します。」そう言って、私は席を立ち、叔母さんに一礼する。
「忙しい中、来てくれてありがとうございますね。」叔母さんも席を立って、私に一礼してくる。
そして私が玄関の方へ歩いていき、三神君に謝罪と事情を説明して今に至るということだ。
叔母さんは、何も出来なかったと思っていたようだけれど、私の言葉で少しは自分達が三神君のために何か出来ていたのだと思えてくれただろうか。
彼が昔のようになれたと言ったが、どちらかといえば彼は変わったのだと思う。昔より強く、そして逞しく。
彼の叔母さんや叔父さんも、ましてや家族は、今の彼を見て、誇らしく思うのだろう。
迎えに行った時、君が変えたのは、君自身だよとでも言ってあげたら嬉しそうな顔するのかな。
そんな風に一人で考えている間に目的の場所が見えてきた。切り替えないといけないとわかっていても彼の喜ぶ顔を思い浮かべると自然と私も笑みをこぼしてしまう。
そうだ。もう一つ言わないといけないわね。そう思いながら、私はスピードを上げて現場に向かう。
君が変えたのは、君自身ともう一つ。それは、私達神々の人間への考え方も変えているのだと。
93,昔を思い出して
涼太君が玄関を出た後、私は仏壇のある部屋に入り、仏壇近くの写真を手に取る。
「あんたの子どもは、あんたみたいに諦めの悪くて、優しい子になったてさ。」私は、写真に写る、笑顔で子ども二人の頭を撫でる男に目線を向けてそう呟く。
涼太君の父、
自分の弟だなんて思えない程のお人好しで馬鹿みたいに最後までやりぬく根性の持ち主。そんな弟が私は少し羨ましかった。
ある日、その弟が突然亡くなった。私は、弟が残した子ども二人を預かり、親代わりになって育ててきた。
兄ちゃんである
それに対して、涼太君は、穏やかな性格だった。私の弟の奥さんの方に似ているのだろう。
奥さんには、一度だけあった事があるがいつも笑顔で、場を暖かい空気で包み込んでくれるような人だった。
「あの人がまだ生きていたら、涼太君はもっと楽な人生だったんだろうな。」私は奥さんを思い出すと自然とそう言葉を漏らしてしまう。
本当に優しい人で弟が求婚するのが、女の私でもわかるほどだった。綺麗な茶髪のロングヘアに可愛らしい笑顔を向けてきたあの人は、まさに天使のようだった。
昔の涼太君の笑顔を見るとどことなく似ている気がしていたのをよく覚えている。今の涼太君の笑顔を見てもそれは変わっていなかった。
「奥さん。あなたの子は今も頑張ってるから見守ってあげてください。」私は仏壇に向けてそう言って、写真を置いて部屋を出る。
ふと玄関に視線を向けてしまう。涼太君は、父大吾のように人には言えない秘密を持っている。それがどんな事か知りたくないと言えば嘘になるが、無理に聞きたいわけじゃない。
それに、どうせ聞いても教えてなどくれないのだから、それに関して悩んだ時、頼れる所になれればいいと思えた。
けれどその場所は、あの白銀の髪の子が陣取っているのでしょうね。まったくこう思うと昔に戻ったというより随分変わってしまったのではないかと思えてならない。
「涼太君を変えたのは、涼太君自身か。だとしたら、変えるための一歩を踏み出させたのは、彼女なのでしょうね。」私は白銀の髪の子を思いながら、そう呟く。あの子の言う通り、涼太君自身が自分の意思で変わったのだろう。
だが、その変わるきっかけは、私でもまして彼自身でもない。あの子なのだと不思議と納得できてしまう。
本当に感謝しかない。今度あの子が来たなら、手料理でもご馳走して、涼太君との出会いの話でも聞こうかしら。そんな事を思いながら、私はキッチンに行き、夕ご飯を作り始めた。
涼太君に会えなかった夫にも、この話をしたらきっと驚きと嬉しさで泣くに違いない。私は、夫の反応を想像しながら、夫が帰ってくるを楽しみに待つのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます