デスゲイズあわてる

第1話 デスゲイズと子犬

 ドエライ王国首都デーレーの昼下がり。俺様は自家用車のドアにカギをかけ、借りているログハウスの側にあるカヌー置き場にブラブラと歩いていった。

 

 今日はなにも用事がなかったのでたまにはカヌーでもいでみようと海辺にやってきた。


「カヌーなんて久しぶりだなあ。漕ぎかたを忘れてないだろうな」


 海辺までカヌーを運ぶのは魔法で瞬時に行い、さあカヌーで近くの島へとでも行ってみようとしたとき『キャンキャン』と犬の鳴き声が俺様の近くで聞こえた。

 気を抜いていたので気づかなかったがすぐ側に一匹の子犬がいて、尻尾を振っていた。


「子犬だと…怪しいな。これは何かが起きる前兆だぜ…早めに沖へ出よう」


 俺様は子犬を無視してカヌーを海に浮かべ颯爽さっそうとカヌーに乗り込み漕ぎだした。

 幸い子犬はついてこなかったので、安堵あんどの息をもらした。


「また魔物だったらかなわないからな…ふーっ。危なかったぜ」


 ざぶーん ざぶーん


 カヌーを漕いで数十分、鼻歌も混じって良いカヌー日和。波も穏やかで魔物が出る気配はなかった。


「怪しいな…魔物が出てこねえ…きっと何かが出てくるはずだぜ…」


 ざぶーん ざぶーん


 俺様は疑心暗鬼になりながらカヌーを漕いでいた。そして遠景の島がだんだん近くになってきたので更に疑心暗鬼になった。


「あの島は魔物じゃねえのか? 巨大な亀とか…いかんいかん職業病だなこりゃあ」


 島に近づいても魔物が出てくる様子はなかったため、休憩をとるため島に上陸した。すると『キャンキャン』近くで犬が鳴く声が聞こえた。

 見ると俺様のすぐ側に先ほど見たような子犬が浜辺にいて尻尾を振っていた。


「やべっ! 転移! ログハウス!」


 俺様はあわてて自分のログハウスに向かって転移魔法テレポートを唱えた! 

 

 しかしテレポートはなんの効果も起きなかった。

 

 俺様は島に転移防止結界ワープシールドがはられているのに気がついた。


「ちっ。転移防止かよめんどくせーな…」


『キャンキャン』


「こりゃなんだ…ただの子犬か? それとも魔物か…?」


 俺様は子犬に『お手!』と手を出してみたところ、子犬はお手をしなかった。


「飼い犬じゃねーのかな。ただの子犬ならば大丈夫だが…」


 犬の種類は雑種っぽい感じで、毛並みの状態から生まれてしばらくたっているだろうという事はなんとなくわかった。


「キサマに飼い主はいないようだな。達者でな! 俺様は絶対に飼わんぞ」


 俺様はカヌーに戻り海へ漕ぎ出そうとしたが、子犬がカヌーについてきた。


「海に落ちても知らんぞ? 俺様はキサマに興味がない」


 俺様は島から出た瞬間カヌーごと転移魔法テレポートを唱え、自分のログハウスに戻ってきた。すると『キャンキャン』複数の犬の鳴き声が聞こえた。


「はぁ~~~~ん? なんだこりゃあ…」


 俺様の側に先ほど見たような子犬が2匹座って鳴いていた。うち一匹はれているようだった。


「俺様は知らぬ! さらばだ!」

☆☆☆☆☆☆☆☆☆


 俺様は子犬2匹に向かってテレポートをとなえたが効果は起きなかった。


 更に障壁魔法バリアで包み込もうとしたが子犬にはバリアも効かなかった。


☆☆☆☆☆☆☆☆☆

 

 俺様は自家用車まで走って逃げだした。後ろから結構な速さで子犬があとをトコトコ追いかけてくる。

 

 自家用車の鍵を開け、飛び乗り、めいっぱいアクセルを踏んで車を走らせた。道路には他の車が走っていたので俺様は車ごとテレポートをこころみ、自宅の側まで移動した。


 自宅の側には幸い子犬がいなかった。

 俺様は安堵して車から降り自宅に入って行った。


「まったくせっかくの休暇が台無しだぜ…」


 俺様が自宅のソファに寝そべってくつろいでいると、俺様の錬金術携帯電話ズマホが鳴った。


「もしもし、俺様だ。キサマは誰だ?」


 ズマホの向こうから聞き覚えがある声がした。


「…あ、アズマです。デスゲイズさん。今暇ですか?」


「暇ではない。へそで茶をわかすぐらい立て込んでいるところだ…。要件だけは聞いておこう」


「新しいズマホを作りました。デスゲイズさんがズマホを切り替えないかな~なんて」


「…それはいくらするんだ。高ければやめておこう」


「…値段は現在出荷されているズマホより高いですが、デスゲイズさんが大好きな黄金カラーがあります」


「なんだとキサマ!? 今すぐ買いに行こう。黄金カラーは俺様が買い占めてやる!」


「じゃあいつもの店でお待ちしています…ところでアムリタさんは最近元気ですか?」


「アムリタ? 誰だったかな~!? ああそういえば…聞き覚えがある名前だ……ちなみに俺様は知らぬ。なんか用事でもあるのか?」


「…いえ元気ならそれでいいんです。またお暇なときにでも誘っていただけたらな~と」


「わかった。誘ってやろう。俺様は気分がいいからなクックック」

 

 俺様はズマホを切り、自宅から外へブラブラと出て行った。


 錬金術列車アルケミートレインが走る駅までテレポートを使い、駅で5デーレーを支払いチケットを買い、列車が來るのを待った。

 列車が來るまでの間にアムリタに非通知の電話をかけて『一生呪ってやる』という通話を何回も行った。


「ちょ、誰、デスゲイズだろ! しつこいよ! 何か用でもあるのか?」

「デスゲイズ? 知らんなあ。誰かと間違えているんじゃないのか? 『ゲラゲラ』ただ用事があってキサマに電話した。今すぐシムラ村のパーラーシムラまで来い。もしも来なかったらキサマに幸せの手紙を送ってやる」

「幸せの手紙ってなんだよ!? あ、もしもし? もしもーし!」


 ズマホの音は列車の騒音でかき消されて、俺様は列車に乗り込んだ。

 しばらくして列車は駅を出発し、首都デーレーからシムラ村へ向かっていった。


 列車がデーレー大橋に差し掛かった頃、俺様は眠たくなり仮眠をとった。

 俺様が魔法の目覚まし時計で起きたとき、シムラ村の駅に列車は到着した。

 

 俺様は駅の構内でオレンジジュースを一本買い、それを飲みながらパーラーシムラへ歩いて行った。

 俺様がパーラーシムラに到着したときすでにアムリタはテレポートで先に到着していた。


「誰かと思えば、ひしゃくの虚無僧こむそうではないか。こんなところまでなんでやってきたんだ?」


「だ・れ・が、ひしゃくの虚無僧だよ! なんの用なんだ。デスゲイズ」


「おかしいな。ああ、アムリタだったかな。なんかそういう名前だった気がする」


 アムリタはデスゲイズが相変わらずとぼけているので鼻息を荒くした。

 俺様はアムリタを見てニヤニヤ笑いながらパーラーシムラの店内に入って行った。

 

「いらっしゃい。お一人様ですかー?」

 

 店員がデスゲイズに声をかける。


「いや、三人だ」

 俺様は指を三本立てながら店員に告げた。


遅れてアムリタが入店し、4人がけボックス席にデスゲイズが座っているのを見て、デスゲイズの対面に座った。


「たしかここって…… あー! そうだ! アズマさんとよく待ち合わせをする場所じゃないか!?」


「そのとおりだアムリタ。今日は冴えているな。ほめてやろう」


「また怪しげなものを買うんじゃないか?」


「キサマの作る魔法の品物ほどは怪しげではない『ゲラゲラ』今日はとても重要な品を手に入れる」

 俺様は上機嫌じょうきげんでしばらくアムリタと話をしていた。


 日がかたむいたころ、店にアズマがやってきた。


「待ちかねたぞ。アズマ。品物は忘れずに持って来ただろうなぁ?」


「はい。これです」

 アズマは布にくるまれた包みをとき、中から黄金カラーのズマホを取り出した。

 

「やっぱり金ぴかの怪しい品物じゃないか…。デスゲイズ」


「何をいうアムリタ…この輝きが、キサマにはわからんのか……?」

 俺様は黄金のズマホにほおずりをしながらアムリタに答えた。


「こんにちはアムリタさん」

 アズマが緊張したおも持ちでアムリタに声をかける。


「こんにちはアズマさん。久しぶりだね。元気だったかい?」


「すこぶる元気です。最近自宅に神像をまつるようになってから体調がすごくいいです」


「それはいいことだね」


「ところでこの黄金のズマホはいくらだ?」


「1500デーレーです。今お持ちですか?」


「1000デーレー紙幣1枚と500デーレー相当の宝石だ」


「たしかに1000デーレー紙幣と…宝石はデスゲイズさんなら信用出来るでしょう。ありがとうございました。……ところでアムリタさんこのあとどこかに行きませんか? 素敵な夜景が見える場所があるんです」


「夜景か~。私は今回パスさせてもらうよ。ごめんね」


「かしこまりました。またの機会にお願いします」


「いい輝きだぜ。このズマホは永久保存して自宅の倉庫にしまっておこう」


 デスゲイズは黄金のズマホを自宅の倉庫にテレポートで移動させた。


「使わないんですか!?」

 アズマが驚きの声をあげる。


「使わんぞ? キズが入ったらどうしてくれるんだ!? これは大事な俺様のコレクションだ」

「ま、まあいいです。ハイ」


「じゃあそろそろ解散だな!」

 俺様は食べた物を清算し店の外に出た。

 

 そして『キャンキャン』犬の鳴き声がした。


 俺様は何も聞こえなかったように耳をふさぎ瞬時にテレポートで自宅に帰って行った!!

 

 家につくと子犬がいないことを確認して! 

 大急ぎで自宅周囲に結界を張り巡らせ! 

 自宅に入りドアのカギを魔法でかけた!!

 

 その日は早くベッドに入り布団にもぐり込み、寝込んだのであった。



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