第48話:魔女の館にて(幕間)

「ただいま戻りました“プラリーヌ”様」


「おかえりなさい」


暗い森の奥に聳え立つ大きな館の大広間にて。


聞き慣れたしもべの声に、プラリーヌと呼ばれた少女に近い容姿を持つ妙齢の女性は、見つめていた窓の景色から自分の名を呼ぶ青年の方へ視線を移した。


漆黒のエプロンドレスを翻す彼女の前にスコーンと呼ばれた少年はかしずく。

恭しく頭を垂れる飴色の髪が揺れる。


「みたらしの園まで遥々ご苦労様“スコーン”」


飴色の髪に指を通すように撫でる。陶器のような肌は人形のように無機質で美しい。


私の“最高傑作”だ。


「ご命令通りみたらしの園のだんごをあるだけ持ってきました」


「ご苦労様。あら、」


プラリーヌはくすりと笑う。


「数が少ないわね」

「少しご相伴に」

「食いしん坊さん。まあ……これだけあれば、ひとまずは、充分」


プラリーヌは受け取っただんごを側にある人がまるごと入りそうな大きな鍋の中に投入する。


グツグツ煮え滾る中に落とされただんごはみるみる形を失っていった。


「これだけあれば、充分な魔物モンスターが造れる」


ドロドロに溶けた液体状の物体に向けて呪文を唱えると、鍋の中の物体からにょきにょきと手足が生える。



「ダダ……ンゴ、ダンゴ、ダンゴォオオオーーッ!!」



瞬く間にだんごの形状をした魔物モンスターになった。


「……」


「覚えておきなさいスコーン。人々の作るスイーツが魔物を創り、その魔物たちがスイーツを奪う」


鍋の中から出てくるおぞましい菓子の魔物にプラリーヌはうっそり微笑む。



「世界に存在する美味しいお菓子は私のお城、【フォレ・ノワール】で生まれ変わるの」


「はい、プラリーヌ様」


「スイーツは人を苦しめるもの。どんどん魔物を創ってスイーツが不幸を招き苦しめるって世界の人間たちに教えてやるのよ」


「仰せのままに」


飴色の髪がさらりと揺れる。

目の前で微笑む彼女の顔を曇らせるわけにはいかない。


全ては自分を“生み出してくれた”主のため。


……自分はこの方のために生まれ、尽くす存在。


「……」

「ああ、それとね」

プラリーヌが唇の端を吊り上げる。その瞳は笑っていない。


「何やら鬱陶しいのがいるみたいだから、悪い芽は早めに摘んでおかないとね」


ちょいちょい。


背もたれのある椅子に腰掛け、プラリーヌは机上に置かれた水晶に指をさす。


そこには楽しそうに話すかしましい三つのシルエットが映っていた。


「面白い奴らでしたよ。スイーツなどに一生懸命で」


「ふうん」

水晶を見つめる彼女の赤い瞳が細まる。


「今は呑気に笑っているがいい。スイーツが貴方たちを追い詰める日まで……スコーン、引き続き頼むわよ」


「は、必ずやプラリーヌ様の望む世界へしてみせます」




スコーンは大広間を後にし、長廊下から窓の外を見つめた。


【フォレ・ノワール】の館の前の暗い森は多くの魔物が彷徨い歩いている。


全て我が主である魔女・プラリーヌがスイーツから造り上げた魔物モンスターたちだ。


ウオオオォォォ……


憐れな菓子の成れ果てたちは呪うように咆哮をあげた。


「さて。次の目的地だ」


スコーンは身体を覆うようにマントを羽織った。


「砂埃が舞う砂漠・・にはマントは必需品だからね」


そう呟くと【フォレ・ノワール】の館から姿を消した。


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