第45話:情熱はまるめてこねて15
「これがおいらの秘密兵器『アゲアゲだんごマシーン』さ! ロリポップシティから取り寄せたんだ! こいつがいればなんでも美味しい揚げたてスイーツを提供してくれる優れものだい!」
「えーッ!? あんなの持ってきていいのかよ!?」
ビターの叫びに答えるようにアナウンスが流れる。
『大会での条約に調理器具に関しての持ち物の制限はありません。調理器具も然り、調理ロボも然りでーす!』
なんでもありかよこの大会!?
『あ、お店から購入しただんごを自分の品として提出するのはダメですよ』
「んなプライドのねーことするかアァァッ!」
「それに近いことしてたじゃんあんた……」
メルトが控えめに呟いた。
「さあ、ここからがおいらのショータイムだ!」
アゲアゲくんの口部分に串刺しだんごを投入していく。
呑み込まれただんごは下へ降りていきアゲアゲくんの腹部分に溜まる液体の中で泳いでいる。
「スケルトンボディーで中の調理風景が見えるようになってるのさ!」
アゲアゲ言うくらいだから油なんだろうが胃液にしか見えないとわざわざ言うのは野暮な話。
ジュオオオオオォォ……!!
油でだんごが揚げられていく。
表面がほんのり揚げ目がつくと口から揚がったものが上がってきた。口からブツがせり上がってくる様子なりどう見ても(以下略)
テキパキと口から出るだんごを取り上げ皿に盛り直す。
揚がっただんごに作っておいたみたらしのタレをかけ、
「へいおまち! おいらの新発明“アゲるみたらしだんご”だ!!」
揚げたてのほんのり焦げ目のつくだんごにみたらしがたっぷりかけられ、なんとも魅力的な輝きを放っていた。
「本来だんごは焼く形の菓子ですが、濃厚なみたらしに合う形にしたくて揚げてみました。みたらしはおいらの家に代々伝わる味です。うちのみたらしのタレは甘さとしょっぱさの配分が4:6なのでくどくなく、油との相性もばっちりです! どうぞ召し上がれ!」
「これは驚いたでごわす! だんごを揚げるとは! おったまげでごわす!」とあんころ山関。
「作業行程はともかく完成度は高いですな。しかし気になるのは味」とこめこ先生。
「揚げ物は揚げたてが一番美味しいですわ。冷めないうちに是非いただきましょう」
最後に黒蜜姫が号令をかけると、審査員三人はアゲアゲだんごを口に運んだ。
ぱく。
「こ、これは!」
糸のように細い目のこめこ先生が開眼した。
「揚げだんごのボリュームあるまろやかさが濃厚なみたらしに絡みつく! まさに互いが互いを向上させる好相性!」
「お、おかわりはないでごわすか!?」
あんころ山関が席を立ち上がる。
「カロリーが高いと分かっていても食べるのをやめられない魔性の味! なんとも罪深き背徳的なだんご……! 自分はもう抗うことができないでごわすー~ッ!」
悶絶していた。
たしかに、油分や糖分には中毒性があると聞く。あんころ山関からは禁断症状が出ていた。
「揚げものとスイーツ……ドーナツが良い例だが、まさか和菓子を組み合わせるなんて、やりやがったなうるち」
「あー私もあれ食べたーい」
「お前はこれ以上肥えたらだめ」
「
「伝統ある由緒正しきだんご屋からとんでもないじゃじゃ馬が生まれましたわね。面白いわ」
黒蜜姫様は舌でぺろりと唇を舐めとった。
「こういう挑戦的な代物は
一番辛口評価の姫様も満足そうにだんごを平らげた。
「だんごの本来の在り方を否定せずさらに魅力を引き出す改変、素晴らしかった。だんごの解釈が広まったよ」
「アゲアゲ最高! ごっつぁんです!」
「! ありがとうございます!!」
うるちの円らな目が潤んでいた。
予期せぬ形で出された“アゲるみたらしだんご”に審査員三人全員が好評価をした。
「これは……最後の最後で盤上がひっくり返るんじゃねーの」
ビターは審査員席近くに立つ
ビターと同じく、うるちの動向を見ようと審査員席近くまで足を運ばせた人物がいた。
「……ふん。相変わらず奇抜なことやりやがって」
それだけ言うと
「素直じゃねェな」
だがそのため息にはどこか嬉しさが感じられた。
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