第41話:情熱はまるめてこねて11

『ようこそ秋のお月見だんご大会へ!』


司会者の男性(だんごフェイス)が朗らかな挨拶をする。


『今年も最高のだんご日和に恵まれました。皆さんには最高のだんごを作ってもらいたいと思います』


手の中が汗で湿る。

いよいよ始まるだんご大会に緊張が走ってきた。


『審査員には和菓子専門家のこめこ先生、大食い力士のあんころ山関、そして! 我らがみたらしの園の姫君・黒蜜姫にお越し頂きました!』


「おお! すげェ美人!」

美しさとは緊張感さえ吹き飛ばすものらしい。


ぺこりと頭を下げる審査員席の三人のうち、真ん中の席に座るお姫様に思わずビターは興奮の声をあげた。

艶のある黒髪に白い肌、憂いのある眼差しがたおやかで美しい。

あれがみたらしの園の黒蜜姫か。

「あれが本物の姫様か。綺麗だ……」

「ねえねえ私は? 私も姫よ!」

「(無視)やっぱ姫ってのは清楚でおしとやかに限るよなァ」

「たしかに上品な佇まいは上に立つものの品格を感じさせますね……」

ぽっと顔を赤らめるフィナンシェ。


「「どこかの姫と全然違う」」


「失礼ねーっ」

メルトはお餅みたいに頬を膨らませる。

「なによあんたたちデレデレしちゃって! このキュートでラブリーでコケティッシュなメルト様が隣にいるのに!」

「ヤンキーは大和撫子に弱い!!」

「知らないわよッ!」



『あ~、長い話もアレなのでね、それではルール説明に入りたいと思います』


「なに!? もうルール説明だと!?」

いつの間にか開会式が終わっていた。

他の参加者も姫様の方ばかりを見ていたらしく挨拶をまいたらしい。司会者の目の端が涙で光っていた。

すまん、だんごフェイスの司会者。


『この大会は最高のだんごを競い合うだんごの祭典! だんごなら何味でも自由。だんごの形状は一串に五つを厳守。制限時間三時間以内に作り審査員の審査を受けてください。だんごは完成した方から順に審査員席へお運びください』


だんごはできたてが一番上手い!


司会者の言葉に審査員の三人はこの時点でよだれを垂らしていた。

食べる気満々だ。

きっと朝食も抜いてきてお腹ぺこぺこなんだろう。

全員食いしん坊か。


『今日は存分に力を奮い素晴らしいだんごを作ってください! よーい……だんご!』


「えっ始まった?」


さっと持ち場に着く参加者たちを見て大会が始まったことに気づく。

緊張感のない開始合図にビターは力が抜けた。

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