第33話:情熱はまるめてこねて4

「ロシアンだんごは置いといて、これなんかどうだい!? 特別に伝授してあげる!」

 ウルチはビターにこねくりまわされた後もへこたれず次から次へと懐からだんごを出してくる。

 なんだあの懐。異次元に繋がっているんじゃねぇか?

「じゃじゃーん激甘ヘドロだんご! 吐くほど甘いドロドロテイストだよ!」

「却下」

 問答無用でビターはノーサイン。

「びばーんパチパチ弾けるだんご! 噛めば噛むほど口の中で爆発するように弾けるよ!」

「却下」

「てけてけてーん酸っぱいだんご! 顔にある全てのシワを集中させることができるよ!」

「却下」

「じゃあこれは!? ○#%$△◎だんご!!」

「いいかげんにしろッ!!」

「ぶべらッ!!」

 ビターはウルチの頭を叩いた。

 ツッコミからの勢いをつけたせいで思ったより強く叩きすぎてしまう。

「ひゅう……」

 ウルチは気を失ってしまった。

「わ、悪い。最近人を殴ってなかったから加減がわからなくてつい」

「最低すぎる理由よそれ」

 メルトがビターの脇腹をつねった。けっこう痛い。



「悪気はなかったんだ……ただ、おいらは斬新で新しいスタイルのだんごを作りたかっただけで……」

 目を覚ましたウルチは涙目になって地べたに正座しながらビターたちに謝った。

「いたって真面目に作ってるんだ。断じて食べ物で遊んでるつもりはない」

「真面目に劇物ばっか作ってんじゃねェよ」

「革命としてはいいアイディアだと思ったんだけど……」


 先ほどからウルチの言葉に気になるものがある。


「さっきから斬新とか新しいとか言ってるけど、普通のだんごじゃ駄目なのか?」


 ウルチは弾かれたように顔をあげる。

「うちの国はみんなそう言うんだよ! 伝統を大事に、受け継ぐことが大切って」

「ふむ」

「だからずっと変化もないし進化もしない! そんなのつまらないだろ!!」


「伝統か……」


 たしかにこのみたらしの園は雅で古風な趣がある。

 伝統というものを先人から守り抜いてきたからこそのこの国の雰囲気だろう。

 伝統と革命は真逆のものだ。

 たぶん、ウルチはまったりとした平凡よりも刺激的な変化の方が好ましいと思っている。

 それゆえに伝統の和菓子であるだんごにも新しさを見せる奇抜さを取り込んだのだ。


「お前は長く続いてきた伝統よりも新しいもので革命を起こしたいんだな」

「そう! そうなんだよ! だんごにも、もっといろんな可能性があるんじゃないかって思うんだ! おいらはそれを作りあげたい!!」


 ウルチはつぶらな黒い瞳を輝かせる。目標がある若者は実に好ましいものだ。応援したい。


 しかしあえて空気を読まずビターは発言する。

「でも俺たちは伝統あるだんごを作りたい」

「え!? おいらにだんごの作り方を教わりたい!?」

「いやなんでその流れ!?」

 突然の難聴。

 向こうも空気を読まずにゴリ押しである。

「じゃあさっそく一緒に作ろうか! おいらの家の厨房を貸してあげる」

「はーなーしーをーきけーッ!」



 ビターたち三人はウルチの家まで(ほぼ無理やり)行くことになった。

「おいらの親父は典型的な頑固職人でさ。伝統第一って感じでおいらのだんごなんか認めてくれやしないんだ」

「親父さんもだんごを作ってるのか?」

「うん。まあ、そんな感じだからだんごを作る時は台所で鉢合わせないようにしてるけど。息子の作る菓子なんだから少しは認めてくれたっていいのにさ」

 そう言って頬を膨らませるウルチ少年。その膨れっ面はまるでだんごのよう。

「そりゃ息子が劇物作って喜ぶ親なんていねェだろうよ」

「劇物じゃないって! オイラのだんごをそんな呼び方しないでくれよ!!」

「パチパチとかドロドロとかスイーツの響きじゃねーから」

「新鮮な響きでいいじゃんか!」


 ウルチは反論するが、やはり新しいものを作るにも見た目の麗しさや味の美味しさは大切だと思う。

 ウルチの作るスイーツは真新しさや斬新さを狙いすぎて奇抜さしか感じない。

「新作スイーツを世に出すって難しいんだな……」

 ビターは遠い目をしてこの世界にいるパティシエに尊敬の意を送る。


「……ねぇ、ていうかさっきから歩いてるこの道すごい見覚えあるんだけど」

 メルトがビターの服の裾を引っ張りながら言う。

「おお、そういえばやたらデジャヴを感じると思えば」

 言われてみれば、先程歩いた道と同じ道のような気がする。

「確かにここ、始めにこの国に来て団子を食べた時のお店の通りですよ」

 フィナンシェが事細かに告げる。

「まさか……」


 ビターは嫌な予感がした。


 ウルチがどこに向かおうとしているのか。

 更にいうと彼の家がどこなのか。ウルチの親父ってもしかして……


 ウルチは通りの一番隅にある民家に入っていく。

 ここまできて自分の予感が的中したことを確信する。この家に誰がいるか。

 思い出すのはたった数時間前のやり取り。

「ただいま~」

「……オゥ、お前どこまでほっつき歩いてたんだ」

 予感的中。

「紹介するよ。おいらの親父さ!」

 ウルチが紹介した親父さんは、つい先程ビターとメルトをつまみ出しただんご職人の大将だった。

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