第8話 進展

 真姫の視線に吸い込まれそうになった咲絆は目線を泳がせた。


「……やっぱり解決方法に気づいているのね」

 咲絆はバツが悪そうに小さく頷いた。


「じゃあなぜ解決しようと思わないの?胸元に爆弾なんてあったら否が応でも取りたくなるでしょ」

「それはそうなんだけど、一筋縄にはいかない悩みなの」

「どんな悩みか聞いていいかしら?」


 咲絆はほっと深呼吸すると意を決して叫んだ。


「私――翔夢が好きなの!」

「うん、知ってる」

「私まだ誰にも言ったことないのになんで?!」

「近くで見てればわかるわよ」


 さすがの咲絆のアホさに、真姫は呆れてため息をついた。


「それでね、あと一年で私は高校卒業しちゃうし、二年後には翔夢はアメリカに行っちゃうの。だからどうしたらいいか分からなくて」


 咲絆と翔夢は一つ学年が違うことから、幼稚園から中学まで必ず一年先に咲絆が卒業してしまっていた。


 今までは通う場所が違くても同じ方向だったので一緒に通学することはできた。


 だが、咲絆の目指している大学は同じ東京でも距離があるので、翔夢よりも早く出て高校と真逆にある駅を使って電車で行かなくてはならない。


 物心ついた時から一緒にいるのに、ここまで会う機会がなくなるのは初めてだ。


 咲絆はそれがずっと不安で仕方がなかったのだ。


「そうだったのね。爆弾のタイムリミットがなぜ卒業式なのか納得がいったわ。今日はもう遅いからまた今度、話を聞かせてもらうわ」

「分かった。真姫には精神具現化現象の解決を手伝ってもらってるからちゃんと話さないとね」

「ええ。それじゃあまた今度」

「うん。ばいばい」


 そのまま二人は振り向かずに別方向に進んで行った。



 咲絆が早歩きで進むとすぐに翔夢に追いついた。


「何話してたんだ?」

「べ、別に大したことじゃないよ!」

「そうか。それならいいけど」


 翔夢は気にする様子もなく咲絆のペースに合わせて歩いた。


「明日の午後、黒崎の家に行ってくれないか?何が条件であのゲージが増減するのか調査してほしいんだ」

「いいけど、最近全然遊んでくれないじゃん」


 咲絆は不貞腐れた顔で翔夢を睨んだ。


「しょうがないだろ。大会前の一日練習でゴールデンウィークは埋まってるんだよ」

「どこか空いてる日ないの?」

「明後日なら午後からはオフだけど」

「じゃあ明日の調査の報酬としてどこか行こ!」


 咲絆がいつもはしないような上目遣いでお願いする顔で翔夢を見つめた。


「分かったよ。久しぶりに出かけるか」

「やったー!」


 無意識にデートの予定を立ててしまうほど、二人の距離は近かった。

 それ故に、翔夢は咲絆の気持ちに気づかない。



 ―次の日―


 昼食を食べ終えた咲絆は冬音の家に向かった。


 呼び鈴を押すと、中から走ってくるような足音が聞こえて勢いよく扉が開いた。


「あ、咲絆お姉ちゃん!」

「こんにちは。紗楽ちゃん」

「今日はあれで遊ぼー!」


 紗楽に引っ張られながら咲絆は家に入った。


「妹の相手、ありがとうございます。休みの日も家事と勉強でなかなか妹と遊べてなくて」

「紗楽ちゃんは任せて。あと冬音ちゃんの精神具現化現象の調査も翔夢にお願いされてるからしっかりやらないと」


 咲絆が冬音の頭上を見ると、未だにゲージは存在していた。

 昨日と同じくらいで増減はしていなかった。


「私にもできることってありますか?」

「まずは何で増減するのか調査するらしいからこまめにゲージのチェックをしてほしいな」

「分かりました。私は普段通りにしていますね」


 咲絆はリビングで紗楽と遊びながら、家事をこなす冬音を観察した。


 冬音は皿洗いに洗濯に掃除をしたが、ゲージは変化しなかった。



 気づけば夕方になっていて、もうすぐ翔夢が来る。


 一通りの家事を終えた冬音はふらっとリビングから姿を消した。


 しばらくしても戻ってこないことが気になった紗楽は冬音の部屋を覗いた。


 すると、勉強机でノートを開きながら寝落ちしてしまっている冬音がいた。


「お姉ちゃん寝てる」

「せっかくだし起こさないであげよう」


 そう紗楽に言ってリビングに戻ろうとした時、ゲージがじわじわと増えていることに気づいた。

 すると呼び鈴がなり、冬音が起きた。


「あ、翔夢お兄ちゃんだよ!」


 気がつけば翔夢が来るいつもの時間なので紗楽は走って玄関に向かった。


「あれ、私寝てたんだ……って咲絆先輩何してるんですか?」


 覗いているのがバレた咲絆は大人しく体を出した。


「紗楽ちゃんが、戻ってこない冬音ちゃんを心配して部屋を見に行ってたからついてきちゃった。それより今ゲージが少し増えてたよ!」


 冬音は部屋の鏡で頭上を見ると確かに寝る前より増えていることに気づく。


「本当だ!でもどうして?」

「私達だけじゃ分からないから今来た翔夢に相談してみる」


 二人はリビングに向かい、翔夢に詳しい状況を話した。


「寝ている時に少しゲージが増えたねぇ……これだけじゃまだ何もわからないな。他にも増える条件を見つけて共通点を炙り出すといいって真姫先輩が言ってたぞ」

「じゃあまだ調査が必要だね」


 進展はあったものの、解決への手がかりを見つけることはできなかった。



 翔夢と咲絆は一通り家事を手伝い冬音の家を出た。


「そういえば結局明日どこに行くんだ?」

「水族館に行きたい!」

「じゃあ明日部活終わったら迎えに行くわ」


 平然と予定を立ててく翔夢の隣で、咲絆は耳が赤いのを気づかれないようにわざと大袈裟に喜んだ。

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