地獄の沙汰は、鬼の涙と引き換えて。歴史を語り縁を結ぶ、風雅な御伽草子。

 ジャンルはホラーですが、歴史や古典文学を愛する方にこそ刺さる作品だと思います。
 主人公は鬼の血を引く白子(アルビノ)の青年。大きな葛籠を背負い、年季の入った琵琶を携え、簡素な白装束に金色の掛絡、目から頭に掛けては白い布を巻きつけた旅の僧に身をやつしています。彼が語るのは、各地に語り継がれる伝承のその、裏側。歴史の陰に葬られた数々の真相です。

 壇ノ浦、濡衣塚、太宰府、かちかち山……日本人なら良く知る歴史物語や御伽噺が、彼の語りによって新たな意味を帯び、思わぬ背景が紐解かれてゆく。どの物語にも登場する、鬼の血をひく子供と葛籠の鬼。それこそが、語り部である空也の幼少時代なのでした。
 賽の河原で出逢い、とある罪により共に罰を受け、現世を彷徨うようになったふたり。
 その罪とは何だったのか、救いの手立てはあるのか、彼らは何を目指しているのか。物語は完結していますので、最後までお楽しみいただけます。

 仏法には、親子の血縁を重視する思想があり、それは文化としても根づいています。しかし、彼らの生き様を見つめるときに、望む縁は選びとれるもの、大切なひとは自分で決められるもの、そう強く感じるのです。
 生まれでも他者の評価でもなく、自分の命の価値は自身で付してゆける。そんな勇気をもらえる物語です。ぜひご一読ください。

その他のおすすめレビュー

羽鳥(眞城白歌)さんの他のおすすめレビュー958