愛しきライカの殺戮歌

私誰 待文

〇 プロローグ

In Spite Of All The Danger

 この夜、一人の男が息を引き取った。

 男の名はラブ・シグ・ラームズ。「愛の貴人」と称され、多くの民に愛された彼の最期は、小屋の病床にて孤独の果てに目をつむるという、実に呆気ないものだった。 


 彼は死の間際、複数のを自室に用意していた。彼がどのような意図で、なぜ小屋に運び出したのかは誰も知らないが、彼の遺品は世界的・文化的な価値を持つ品として、一夜のうちに回収された。


 ○


 ラームズの死から3日が経過した日のある昼下がり。死体の埋葬のため一人の男が小屋に入った。男は死臭の充満する室内の片隅に、腐敗が進み体の数十箇所を虫にわれているラームズの死体を確認する。

 布で鼻を抑え眉根を寄せながら死体の処理を始めようと近づくと、ふと男は死体の頭部が乗っているまくらが気になった。


 枕の下から、紙片が見えている。目を移すと、ベッドの下、黄土色に腐った死体の指の傍に、デッサン用の鉛筆が横たわっている。

 もしかしたらラームズ氏は遺言を書いていたのかもしれない。男は枕元の紙切れを慎重に引っ張り出した。


 予想通り、手帳1ページほどのサイズの用紙には彼直筆の遺言が記されていた。

 ただしその内容は、遺産相続の分配についてでも、埋葬や葬式の按排についてでもない。


 紙面には流れるような筆跡でこう書かれていた。



『愛を歌うことを忘れてはいけない。

――例えどれほど危険な運命が君たちを襲おうとも、』

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