カルピスウォーター

 君からのLINEを見て、久しぶりにカルピスが飲みたくなった。君から教えてもらった曲をイヤホンで聞きながらコンビニへ向かって、ペットボトルのカルピスを買う。自宅とコンビニの間にあるベンチしかない小さな公園で、夜景を見つめながらカルピスを開けた。

 一口飲むと、まるで走馬灯のように君との思い出が過る。告白した高校の教室、初めてキスをした雨の日の公園、遊びに行った君の家、別れ話をした喫茶店のミルクティー。

 君がしていたように、一度蓋を閉めて、カルピスウォーターの文字を指でなぞった。

『私、この爽やかな味好きなんだ』

 夜空に響き渡ったような君の声は、僕の脳内をリフレインしていく。君の笑顔は、僕の心を突き刺して、掻き乱していく。

「沙奈」

 口が自然と君の名前を呼んだ。夜空の中に消え入るように、白い息が散っていった。

「もう一度」

 会いたい、と続くはずだった言葉は、声にならなかった。別れた理由も、離れた理由も分かっている。会いたいと願うなんて、あまりにも酷い話だ。君を傷つけた僕に、君に会う資格はない。僕はすべてを飲み込むように、カルピスを飲んだ。

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