第9話 天国と地獄

今日は幸の誕生日。


「何が食べたい?」と聞くと

「肉」


家族の意見も

「肉」


それは材料の一部で、料理名じゃないよ。


結局、散々悩んだあげく、特別感があるもの。

『すき焼き』を作る事にした。


「わ~~い!すっきやっき!すっきやっき!」

この言葉、幸と主人。二人で言ってます。


クールな太雅は嬉しそうな表情はしているが、二人には加わらず、近くで笑って見ていた。


普段は行かない少し高級なスーパーで、刺しが入った高級牛を買い、

後は白菜、ニンジン、長ネギ、えのき等々、野菜類を購入。


ケーキは絶対チョコレートケーキ!と言う幸の為、家の近所にあるケーキ屋さんへ。

わが家はホールでは買わない。みんなそれぞれ食べたいケーキが食べたいからだ。


幸はチョコレートケーキ。主人はモンブラン。私はチーズケーキ。太雅はケーキ全般苦手な為、すでにスーパーでアイスを買っていた。


「ろうそく立てたい!!!!!」

幸が言う。


家にろうそくあったかなぁ。覚えてない。。寒い中また外出するのも億劫だった為、ケーキと一緒にレジの横にあるろうそくも一緒に買った。


2月14日の夜。


「ハッピーバースデー幸~!!」

準備していたクラッカーを3人で一斉に鳴らす。


「わぁ~きれーい。」

幸がキラキラした目で、落ちて来た小さく切られた金の折り紙やら、紙でできた紐を集める。


「もう幸も6歳だね。おめでとう!今年は小学生だ!!」

主人が幸にオレンジジュースを注いであげながら言葉を掛けた。


「うん!!“おべんきょう”頑張る!」

幸がニコニコ嬉しそうにしていた。


「さぁ、みんな、飲み物の用意は出来た?

幸、改めてお誕生日おめでとう!かんぱーーーい!!!!!!」


「幸おめでとー!」

「6歳おめでとう!」


グラスをチンっと鳴らす。


「ありがとう。」

と言いながら、目の前のごちそうが早く食べたいのか、右手には箸。左手にはジュースを手にしてた。


鍋の蓋を開けると、ふわっとすき焼きの甘い匂いがしてきた。

子供達へそれぞれ取り分ける。


幸の

「美味しい~。幸せ~~~。ほっぺたおちそー。」

お口に沢山頬張り、ほくほく食べる姿に家族みんな笑った。


そしてアッという間にすき焼きが空っぽ。


「あぁお腹いっぱい。もぉ食べれな~い」

と私が言うと


「お!美羽が珍しい。デザートは別腹じゃないのか?」


「別腹別腹!食べれるよぉ!!」


子供達も待ってましたとばかりにケーキを待つ。


「幸は、目を閉じてて。」


「うん!!!!」


すぐに台所へ行き、幸のチョコレートケーキには“6”と書かれたろうそくを。

火を灯して、電気を消した。


「ハッピーバースデートゥーユー♪」

歌をみんなで唄った。


「はい、目開けて良いよ。」

そういうと、ぎゅっと閉じていた目をゆっくり開けた。


「すごい!綺麗!!!火、消して良いの?」


「いいわよ。」


フーー!!!!と思いっきり息を吹きかけるが消えない。


「もうちょっと強く吹いてみてごらん」


そう言われて、幸は周りに聞こえるぐらい、酸素を思いっきりすぅ~っと吸って

フーーーーーーーーー!!!!!!!!


火が消えて、私は電気を付けた。


チョコレートケーキを前にして、幸は本当に幸せそうだった。

「ねぇ、食べても良い?」


「あ、待って!写真撮らせて!」

私は携帯を持ってきて、写真を数枚撮った。


「じゃ、食べるね~」

幸は早く食べたいのか、『もう、用事はないね』と言わんばかりに

お口を大きく開けてパクリと食べた。


それを見届けてから、太雅のアイス、主人のモンブラン、私のチーズケーキを冷蔵庫から出した。

「いただきまーす。」


「今日、幸が誕生日で良かった~俺も御馳走とアイス食べられた~♪」

太雅がニコニコしながらアイスを食べていた。


主人も幸せそうに、ケーキの中で一番大好きなモンブランを口いっぱいに頬張っていた。

「食べ物って人を幸せにするねぇ。あと5個ぐらい食べられるよ。」


「幸せにはしてくれるけど、あなたはた・べ・す・ぎ!」

と言って、笑った。


その晩だった。みんな寝静まった頃、なんか気持ちが悪くて目が覚めた。

吐きそうだし、お腹も痛い。


「食あたり・・?」


私は、『もう我慢出来ない!』と思い、急いでトイレへ駆け込んだ。


上から、下から、両方来た。


どっち優先する?

いや、さすがにう〇こは床にしたくない。

一瞬でどうすべきか判断し


すぐさまトイレに座った。えぇい。吐くときは床に吐いちゃえ!!


下の方はと言うと、これでもかってぐらい、水のような物が沢山出て来た。(汚くて申し訳ない。)少しお腹の痛みが引いたあと、今度は上から突き上げるような物が襲ってきた。慌てて便座から降りた。

私は便器に向かって思い切り吐く。吐くのは、妊娠中につわりで散々吐いたから慣れている。その後、またお腹がぎゅるぎゅるして、すぐにトイレへ座った。


上からも下からも。。

まだ交互だから良かった。。

そう思いながらも、あまりのお腹の痛さに身もだえた。出しても出しても出るし、全部出たかと思ったら今度は嘔吐。


それを何度か繰り返して、体中がしびれて来た。

呼吸が荒くなる。『苦しい・・・・・・』


おしりを拭き、なんとかズボンを吐いて、トイレから出る。その瞬間、


もう、無理。


私は冷たい床にバタンっと倒れた。


息が吸えない。吸っても吸っても苦しい。


手足がびりびりしびれる。立ち上がる事すら出来なかった。

「直人、直人・・。」

※主人の名前


声に力も入らなかった。

こんな所で、死ぬの?私。


お腹に力を込めて


「直人!」


と叫んだ。


すると、寝ていた主人は「んぁ。どうしたあ。」と返事をする。


「助けて・・。助けて!」

顔面も麻痺したかのようにしびれてきた。


主人が来る足音がした。


倒れている私を見て

「美羽!!!どうした!?大丈夫か?!!!」


「全身痺れる。下痢と嘔吐も。息も苦しい・・。」


「え!!!救急車呼ぶ?!それともしばらくゆっくりしたら大丈夫そう???!」


「いや・・。救急車呼んで・・・・・。」

そう言った私はもう顔中痺れて言葉が聞き取りずらいぐらいだった。


すぐに主人は救急車を呼んだ。

私の症状を言い、すぐに来てくれるようお願いしていた。


私の指が可笑しな動きをし出した。痺れて指がピンっと張っていた。

息を吸っても吸っても苦しくて、意識がどんどん遠のいていくのを感じた。


すると救急車の音がした。


電話をして5分もたたなかったと思う。

サイレンの音を聞きながら


良かった。死なずに済む・・。

安心したのか、そこからスゥっと意識が遠のく感じがあった。


主人がトイレの前まで救急隊員の方を連れてくる。


「奥さーん、奥さーん、聞こえますか?」


私は小さな声でハイと答えた。


すると、「過換気症候群だな。」と隊員の誰かが言った。

「ゆっくり息を吸って吐いて、吐いて。もう一回息を吸って、吐いて、吐いて。

もう大丈夫ですからね。息をゆっくりしてたら痺れも収まりますよ。」


そういわれて、だいぶ気持ちが落ち着いた。

直ぐに担架に乗せられ、救急車の中へ運ばれた。


「血圧図りますよ~、少し手が痛いかもしれませんが、少しの間だけですから、我慢してくださいね。」

右腕で血圧を測定される。機械がグーと音を鳴らしながら私の腕を締め付ける。

「痛い!痛い!!!!」

普段使っている普通の血圧計じゃない!

腕が折れるんじゃないかと言うぐらいの激しい痛みだった。


プシューと音がして、測定が終わった。


隊員の方が病院と連絡を取っていた。

「奥さん、今から医師会へ向かいますが、宜しいですか。」


頷く私。


そこからの記憶が全く無かった。

安心して寝てしまったのか。


担架をおろした音、救急室へ運ばれる担架の振動すら気付かなかった。

意識を失っていたのだろうか。

ただ、寝ていたのだろうか。未だにそれは分からなかった。


眩しい!


それで私は目が覚めた。

白い天井が視界に入る。


ドラマのようだが、実話だ。


「あ。病院着いたんだ。」


医者と看護師がそこにはいた。

何かしている。

私に気付いたのか、看護師さんが声を掛けてきた。

「寒くないですか。血圧、図りますね。」


「ハイ・・。」

あ、今度は痛くない。


「奥様は、過換気症候群です。悩みがあるとか、そう言った事、聞いた事はありますか?」

「いやぁ~・・。最近聞いた事はないですが、妻はうつ病で、情緒不安定な所はあります。」


お?なんか直人が先生と話してる。

てか、“かかんきしょうこうぐん”って、なに?


医者が戻ってきた。

「北川さんの倒れた原因は“過換気症候群”です。聞かれた事は無いかもしれませんが、極度の緊張や不安。心配事で、酸素を吸い込みすぎて、血液中の二酸化炭素量が減ります。それによって、手足がしびれ出すんです。一過性である事が多いので、心配はそこまで必要ないでしょう。

それから、北川さんの場合は、嘔吐に下痢もあったそうですね。食中毒の可能性もありますので、念の為、2日程、検査入院していただきます。」


あぁ。。そういや心当たりある。

お肉が美味しすぎて、食べすぎて、夜中に胃がムカムカしだして、それで嘔吐と下痢に!

そんで、嘔吐と下痢が交互にくるからパニくって、“かかんきしょうこうぐん“とやらになったんだ。


救急車まで呼んで何やってんだ私!


「じゃ、酸素濃度を測りますので、動脈から血を抜きますね。」


え!太ももの裏!?


プスッと針が刺さる。


ぅいっっっったあい!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!

「痛い痛い痛い!!!!!!!」

思わず叫ぶ。

その声が病室の外まで聞こえていたようで、後で主人に

「すごい叫び声だったね」と笑われた。

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