第3話 欲求不満な許嫁

 なんか、最近海野さんに避けられている感じがする。俺が一方的にそう思っているならそれはただの思い込みだろう。

 話しかけようとすると、他の子の席に行ったり、そっぽを向くというよりかは目線を合わしてくれないのだ。

 何か海野さんの気に刺すような事をしたかと記憶を巡ってみるが思い当たる事も無く。

 もしかして俺嫌われたのか・・・・・・

 それはそれで虚しいぞ。

 そんな事を思っていると昼休みがやってきた。みんなは机をくっつけて食べたりと楽しそうだが今日は屋上が使えないので隣の空き教室で食べる事にした。

 隣の空き教室は常に鍵が空いており誰でも出入りができる。先生に頼めば鍵を借りて施錠する事もできるがめんどくさいのであまり鍵は借りない。

 無造作に置かれている机と椅子を整えて椅子に座った時、

 ガラガラと扉の開く音がした。先生かと思ったがそうじゃなかったのだ。

「だ、誰もいませんよね・・・・・・」

 この声。間違いない海野さんだ。

 その瞬間、俺は弁当を高速で包み、近くにあったロッカーに急いで隠れた。

 別に隠れる必要もないのではと思ったが、この時だけは反射的に隠れてしまった。

 ロッカーの中からでも見えるかすかな光をを頼りにして、空き教室を覗いている。

 こんな所から覗き見をするのは良心が痛むがやむ終えない状況だったので仕方ない。

 ロッカーが少し狭いせいか少しでも動くとロッカーに当たって音がしてしまうので極力動かないようにしているが同じ体勢だと流石に限界がある。

「ここなら・・・・・」

 うっすらとしか見えないが片目だとはっきり見る事ができた。

 海野さんは少しほてった顔で周りを見ながらソワソワしている。それに何か手に服のような物を持っている。 

 俺は息を殺して観察を続けることにした。

「はあ、はあ、良い匂いです・・・・・・」

 自分の欲に身を任せて快楽を求めているような顔でずっと誰かの服の匂いを嗅いでいる。

 それは一回、二回と嗅ぐ事に吸う量が多くなっているようにも見える。

 なんか・・・・・・すごい悪い事してる気分だ。

「今はこれで我慢するしか・・・・・・いや・・・・・・もう我慢できない!」

 匂いを嗅いでいた服のボタンを取り外し海野さんはその服に袖を通した。

 さっきまでは服は畳んでいたのでどういうタイプの服なのかが分からなかったが今海野さんが袖を通したのは制服のシャツだった。

 やばい・・・・・・ますます出るのが気まずくなってる。

 それはそうと、海野さんが着ているの、俺のシャツじゃないか? 

 登校した後に着替えてカバンの中に入れてそこから探しても見つからなかったが、まさか。

 いやいや、そんな事ないない。 

 きっとどこかに落としてそのままなのだろう。

 しかしそんな考えも儚くも散る事になる。

「はあ、はあ・・・・・・城道君の匂い良いです・・・・・・」

 っっって俺のシャツやないかい!

 そんなツッコミを心の中でして数秒思考をフル回転させた。なんで俺のシャツを海野さんが持っているのか分からないが、今ロッカーを出たらとんでもない事になりそうな予感が全てを感覚を通して俺に訴えかけている。

 それはそうと、長い時間隠れているせいか、ロッカーに隠れてもうそろそろ限界になってきた・・・・・・

 も、もう限界だ。

 止めていた息を外に吐き出したように勢いよくロッカーから時離れてしまった。

 その先に待ち構えているのは、

「し、城道君!」

「あはは・・・・・・」

 苦笑いでこの場を誤魔化そうとするがそんな些細な攻撃は効かず海野さんの顔はみるみる真っ赤に仕上がっていく。

「み、見ましたか?」

「見てないって言ったら嘘になるかもです・・・・・・」

 それは遠回りに見たと言っているのと同じなのだ。

 すると海野さんは、少し怒ったような顔でこちらを見つめ口を開いた。

「放課後、保健室に来てください。異論は認めません」

「は、はい・・・・・・」

 少し反論の余地を見せようとしたが海野さんの威圧に負けてそのままはいと言ってしまった。


 放課後のなり、俺は言わたまま保健室に向かい入室した。

 おそるおそるドアを開けてみると保健室の先生はおらずに誰もいない。

「あれ、誰もいないのか」

 そう自然と言葉が溢れていると、ガチャと鍵の閉まる音がした。

 誰かいる、そう確信して振り向くと両手を体の後ろに交差してこちらを物欲しそうに見つめる海野さんの姿が目に入る。

「やっと・・・・・・二人きりになれました」

「ど、どうしました・・・・・・」

「私はずっと我慢してたのです・・・・・・でも今やっとそれが叶う・・・・・・」

「ちょ、ちょっと海野さん」

 話ながらこちらに一歩、二歩と近づき思わず俺も、一歩、二歩と後ろに下がってゆく。

「ふあ!」

 入り口からベッドまで後ろ足で下がっていたためベッドに体が当たりふいにベッドに倒れてしまった。

「もう・・・・・・我慢できないです」

 ベッドに倒れている俺を見つめながら、制服のシャツのボタンを一つずつ外してゆく。

 二個目のボタンの外したくらいから下着が見え始め、両手で目を塞いだ。

 見てみたいと思った部分もあったがよくよく考えたらそんな度胸なんて俺にはなかったので俺の中で行われた葛藤は早く終わった。

「う、海野さん! 下着、見えてる!」

「お気になさらず。私がしたくてしている事なので」

 いやいや、そういう問題じゃないのですよ。こん状況もそうだけど下着姿なんてのが目の前にあったらそれこそ目のやり場に困ってしまう。

「そ、そういう問題じゃ」

「それじゃあどういう問題なのですか?」

「そ、それは・・・・・・」

「答えられないのなら大丈夫って事ですね」

 制服のボタンを全て外すと、今度はベッドに乗り俺の体に乗ってくる。 

 琥珀色の長い髪が俺の頬にかすかに当たり、甘いシャンプーの匂いがふわりと漂った。

「それじゃあ」

 っっって俺これから何されるの! すごい怖いんですけど!

 目を瞑ってブルブルと震えていると、首元に空気を吸い込むような感覚が走った。

 それも一回じゃない。二回、三回と回数が増える事にどんどん

激しさを増している。

 目を開けると、

「やっぱり、城道君の匂いは良いです・・・・・・」

「って海野さん! 何やっているのですか!」

「何って匂いを嗅いでいるのですよ」

 なんと海野さんは俺の首元の匂いを嗅いでいたのだ。それで首元がむず痒かったのはそのせいか。

 それに昼休みのシャツも。

「大丈夫ですよ。痛くはしないので」

  そうじゃなくて、早くやめさせないといけないのに、海野さんがのしかかっているので思いように体を動かせない。

「もう少しだけ・・・・・・」

 まだ海野さんがお気に召さないようで今度は何をされるのだろうと、今は少しの期待を抱いてしまっている自分がいる。

「ひゃあ!」

「可愛い反応・・・・・・最高です」

 今度は直接的に伝わってきた。首元にぬるぬるとした感触が体全体を伝わっていく。

「今度は何を・・・・・・」

「城道君の首元を舌で舐めているのですよ。男の子はこういう事が好きって聞きましたので」

「そ、それは」

「欲求不満な私は嫌いですか?」

 ダメだ。今の海野さんは完全に頭のねじが外れている。人間は機械と一緒ってよく言われるけどまさにその通りだ。機械を構成する部品が足りなければ故障してしまう。それは人間も一緒だ。今の海野さんにやめてなんていう生半可な言葉は届かないだろう。

 いつもはたくさんいの人に囲まれていて、みんなの人気の海野さんが俺の首元を舐めるなんて、ギャップ萌えというやつなのだろうか。

 首元を舐めるという行為が男子みんなが好きだとは分からないが、こんな美少女に舌で舐められているという背徳間はたまらないだろう。

「それじゃあこれで最後です」

 そう言うと、海野さんは再び俺の首元目がけて舌でペロリと舐める。

「お、終わりましたか」

「はい、スッキリしました」

「それは、よかったです」

 首元を舐められたり、匂いを嗅がれたりと予想外の事態だったがなんとか終わったみたいだ。

「そ、それと、今日の事は内緒にしてくださいね・・・・・・二人だけの秘密です」

「は、はい・・・・・・」

 

 


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