第8話 雨と相合傘と許嫁

 夏休みと言っても毎日ダラダラ過ごしているのは時間を持て余してもったいないと思った時、母親からお使いを頼まれた。

 今晩の夕食に使う肉やカレーのルーを頼まれたのだ。てかカレーのルー頼むって事は今日夕飯カレーじゃねえか。

 今は頼まれた物を買って帰る途中で、左手に袋、右手に傘を持っている。今日の夕方から降ると聞いて別にいらないと思ったが母親が持ってけと言うので渋々持っていく事にした。

「はあ、早く帰ろ」

 すると、ポツポツと雨が降ってきたのだ。俺は急いで傘を差して家に帰ろうとした。幸い服とかは今は濡れていないので今から走れば何とか濡れずに帰れる。

 そう思った時だった。いつも登下校の時に通る公園に視界が向いてしまったのだ。

 雨の中、公園で遊んでいる姿ももちろんあるわけもなく、でもここからうっすらと人影が見えるのだ。

 おそるおそる近づいてみると、琥珀色の髪をした少女が途方の暮れた顔をしながらブランコに座ってずっと下を見つめているのだ。

 濃い灰色の雲の覆われて今は少し薄暗くなっているせいで視界が不自由になっている。公園の外から見たら気づかれないかもしれない。

 公園に入ってもっと近づいてみると、海野さんだったのだ。誰かを待っているわけでもなく、ただ無言でブランコに座ったまま下を見ているのだ。

 もしかしたら海野さんが好んで今こうして座っているのかもしれない、それならそっとしておいてもいいと思うが、こんな所にいたら体温が下がって風邪をひいたりとかなり危険だからこのままほっとくわけにもいかないのだ。

 ブランコに近づき、彼女に雨が当たらないように上から傘をかぶせる。さっきまでかなりの時間雨に打たれていたので少しでも当たらないようにとする俺の配慮だ。

「あ、城道君」

「大丈夫ですか? こんな所にいたら風邪ひきますよ」

「すいません・・・・・・ちょっと考え事をしてて気づいたら雨が降ってきまして」

 すんごい集中力。流石に雨が降ってきたら気づいてと思うが、まずは彼女を家に帰すのが先だ。

「とりあえず、家まで送りますよ」

「は、はいありがとうござます」

 そこからは少しずつ雨は強くなっていき傘無しではすぐに服はびしゃびしゃになってしまうくらいだ。

 傘を持ってきたのはいいが少し小さかったかもしれない。まさか海野さんを入れて歩くとは思わなかったからだ。

「はっくしょん!」 

 それよりもさっきより気温が低くなっている気がする。現にこうしてくしゃみをしたのだ。海野さんじゃくて俺が風邪をひいてしまいそうだ。

「城道君、それ・・・・・・」

 そう言って海野さんが指を指したのは俺の右肩だった。白のTシャツを着ているので俺の右肩だけ濡れているのはすぐに気づいたようだ。

「ああ、傘が少し狭かったので、これくらいどおってことないですよ。まずは海野さんを送り届ける事が先です」

 少しキザみたいなセリフを吐いてしまった俺だがこれに関してはまあ、もっと広い傘を持ってこなかった俺が悪いし、それに海野さんにこれ以上濡れてほしくないからだ。許嫁としては当然の事だ。それはそうと、その・・・・・・今、俺と海野さんは相合傘をしているんだよな。さっきも言ったが今は海野さんを家まで送り届ける事が先だ。男である俺が肩を濡らすくらいどおって事ない。それで海野さんが濡れないのなら安いもんだ。

「着きましたよ」

「ありがとうござざいます。また今度お礼させてください」

「いえいえ、そんな」

「それなら今度またお裾分けに来てもいいですか?」

「あ、はいそれくらいなら」

「それならまた作って持ってきますね」

「は、はいお願いします」

 その言葉を残して俺は海野さんの家を後した。うう、少し寒気がする。風邪でもひいたか。それだっら早く風呂入って暖かくして寝よ。



 

 

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