第5話 添い寝という名の誘惑

一通りお見合いが終わったので、ひとまず終了の報告をするべくリビングに向かう。

「失礼します。ただいまお見合いが終わりました」

「おお、入っておいで」

 海野さんはさっと障子を開き、入る。

「さあ、どうぞ」

「あ、はい」

 渋々中に入ると、テーブルのすぐ近くのソファに案内された。そして目の前には着物を着た四十代くらいの男性が座っていた。

「君が、城道伊桜理君かな?」

「は、はい・・・・・・」

「娘から話は聞いているよ。まずはお見合いを受けてくれて本当に感謝している。ありがとう」

 そう言うと男性は、俺に向かって深く一礼をした。

「い、いえ。こちらこそ、急にお見合いはびっくりしましたけど、でも真鈴さんとこうしてちゃんと話したり一緒に歩いたりしてすごく楽しかったです」

「それは何よりだ。ここで私も一つ決心がついたよ」

「は、はい」

「君を私の娘の許嫁にする!」

「はいー?」

 すっとぼけた返事の後、俺は頭の中で今の状況を整理する。

 ちょっと待て今なんて言った? 許嫁って言ったか? 許嫁ってあれだろ、双方の親が子供が小さいうちから結婚をさせる約束をさせるっていうやつだよね?

「お見合いをさせてどんな男か観察してみたがやっぱり俺の目に狂いはなかったな!」

「ちょっと待ってください! 許嫁って、それにどうして僕なんですか!」

「それはまだ教える事は出来ないな」

「どうしてですか!」

「それはまだ言えないな」

 こんなやり取りが数分と続き、結局その理由は何も教えてくれなかった。

「ま、とりあえず今日は家に泊まっていきなさい」

「い、いえ。流石にそこまでは」

「一応君の親からは承諾を得ているよ。さっき電話で聞いてみたら即オッケーだったけど」

 親ー! 少しは抵抗してくれー!

「そ、そうですか」

 親の承諾があるなら俺はもうなすすべは無い。つまり今日はこの豪邸で寝るわけになるのだ。

「ま、そういうわけだ。今日はもうおしまいにしよう」

「は、はい」


 こうして話は終わり今日はこの家に泊まる事になってしまった。そんな事を思いながら今は夕食の洗い物をしている。すると、海野さんが横に並んで皿を洗い始めた。

「これくらい私がやりますから大丈夫ですよ」

「いえ、自分がやります。何かしてないと落ち着かなくて」

「すみませんね。父親の勝手に付き合ってもらって」

「いえ、最初は驚きましたけど今は少し落ち着きました」

 まあ今でも信じられない部分はあるけど、さっきほっぺつねったらちゃんと痛かったからこれは夢じゃないだろう。

 

 夜十時。いつもは眠くなって布団に入ったら爆睡なのに今日は何故か眠くない。まあ布団に入って目を瞑ればいつか眠れるだろう。そう思い、俺は布団に入って目をゆっくりと瞑った。

今日はいろいろと思いがけない事がいっぱいで波乱だった。何があったか思い出してみよう。手紙の正体を暴くためにここに来てそしたら、お見合いが始まってましてや海野さんを俺の許嫁にするとか言ってきたのだ。今日という一日が濃すぎたのだ。そう思っていた時、すう〜っと障子が開く音がした。

「もう寝ちゃいました?」

「・・・・・・」

 突然だったのでで俺は寝たふり作戦に入る事にした。寝たふりなのでもちろん応答はしない。

「それなら」

 すると、ガサガサと布団が動く音がした。俺は動いてすらいないから音が鳴るのがおかしい。それに何か布団が少し温かい。俺とは違う別の何かが布団にいると仮定するならそれは立証されるかもしれない。

 まさか・・・・・・

 一回、一回だけ寝返りを打ってみよう。ゆっくりと反対方向に寝返りを打つ。そしてうっすら目を開けるとそこには、海野さんがいるのだ。

 なんだなんだこの状況は! しかもこんな至近距離で! やばいやばい!

 急いで寝返りをうってまずは我を戻した。今は吐息が感じれるほどの距離にいる。確かな温もりがそこにあるのだ。ふわりと香るシャンプーの匂いが鼻腔を刺激して眠気を阻害してくる。

 そして彼女はただ一言、俺の耳元で囁いた。

「おやすみなさい」

 

 

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