【祝・追放100回記念】自分を追放した奴らのスキルを全部使えるようになりました!

高見南純平

第1部 追放からの旅立ち

#1 魔熊の森

第1話 100回目の追放(改訂版)

「ララク、お前はこのパーティーから追放だ」


「……っえ、そうですか……」


 冒険者パーティー【疾風怒濤】のリーダー、デフェロットにパーティーメンバーのララクは追放宣言をされた。


 しかし、当事者のララクはそれほど驚いた様子はなかった。


「理由は分かるよなぁ?」


 小柄なララクよりも頭一つ分以上は身長の高いデフェロットは、彼を見下しながら高圧的な態度をとっていた。この関係性は、彼らがパーティーを組んでからさほど変わっていない。しかし、今回はデフェロットの怒りが頂点に達しているように見受けられた。


「ボクが役に立たないからですよね」


 ララクは怒りを露わにしているデフェロットを見ても、特に態度を変えることなく淡々と言葉を発した。

 顔に活力はなく、目に光はなかった。


「あー、そうだよ! ヒーラーのクセに全然回復出来てねぇんだよ! これなら、ポーションの方がましだ」


 そういうデフェロットの鎧や肌は、擦り傷や泥などで汚れている。彼らは少し前まで、【魔熊の森】という場所でモンスター退治を行っていた。

 しかし、その際に味方を回復する役目のララクが、十分に仕事ができなかったのだ。

 そして現在、疲れと傷を癒すために森の泉がある休憩所でパーティーは休息をとっていたのだ。


「あんたさぁ、初級スキルの【ヒーリング】しか使えないとか、才能ないんじゃない?」


 デフェロットの隣にいるローブを着た女が、馬鹿にした口調でララクを責める。彼女の銀色の髪からは、2つの大きな獣耳が飛び出ていた。

 彼女、レニナは狐人きつねびとという種族で、スキルを発動するために必要な魔力に優れている。


 基本的にスキルは、生物によって会得できる物があらかじめ決まっている。普通は、戦闘力を示すレベルを、経験を積んで上げることによって、所持スキルも増えてくる。


 しかし、ララクはレベルはそれなりに高いのに、生まれつき使える【ヒーリング】という、簡単な回復スキルしか使えなかった。


 名前  ララク・ストリーン

 種族  人間

 レベル 40


 アクションスキル 一覧


【ヒーリング】



 普通の人間ならば、レベル40ならば少なくて5,6個は覚えているものだ。

 ララクを馬鹿にした狐人のレニナは、これを知っているので「才能がない」とののしったのである。


「レニナ。言葉がきつすぎるぞ」


 そんな彼女を注意したのは、年長者であり重装備の戦士 ガッディアだった。

 基本、煽るような態度をしているデフェロットとレニナに対して、彼は寛容的で落ち着いている。


「なによ。ガッディアだって、ララクを追放するのは賛成なんでしょ?」


「……それは」


 ララクを彼ら4人で活動しているパーティー【疾風怒濤しっぷうどとう】から追放する、という案はリーダーのデフェロットの独断と偏見で決定したものではなかった。

 事前に、ララクを除く3人で話し合いが行われていたのだ。


「いいんですよ、ガッディアさん。才能がないのは、事実ですから」


「……すまないな。前衛としては、回復が足りないのは無視できない問題でな。キミを守ることで、以前よりもダメージを受ける機会が増えてしまった。

 申し訳ないが、回復はポーションでまかなっていた時の方が、その、戦いやすかったんだ」


 申し訳なさそうにしながらも、ガッディアは自分の意見を論理的に述べた。その意見は、自分でもわかっているとはいえ、ララクの胸に響いた。


 疾風怒濤は、ララクが加入するまでは3人でパーティーを組んで、モンスター退治を行っていた。

 それまでは、仲間を守る役目であるガッディアが優秀なことと、デフェロットがヒット&アウェイを得意としていることなどもあって、ポーションで事足りていた。

 しかし、さらに強力なモンスターと戦うには、ヒーラーは必要不可欠だった。


 そこでララクを雇ったのだが、彼らが言っていたように回復量が足りず、今に至るのだ。


「分かったろ、俺らにとってお前を入れることはデメリットはあってもメリットはねぇんだよ。

 っち、もっと優秀なヒーラーを探せばよかったぜ」


「誰でもいいから、って言ってこいつを加入させたのは、リーダーのあんたでしょ」


「うるせぇな。こんなやつでもいないよりはマシだと思ったんだよ! けど、こんなに足手まといだとは思わなかったぜ。

 いっぱしに、レベルだけ高いのがむかつくぜ」


 デフェロットとレニナが、ララクの前で怒りを飛ばしあう。この2人は日常的にこんなやりとりをしているが、今日は一段と酷い。


「あんたさぁ。なんで、そんなにレベルだけ高いわけ?」


 レベルを上げるには、様々な手段があるが一番はモンスターと呼ばれる強力な生物を倒すことだ。

 最初のうちは低級モンスターでもレベルは上がるが、上を目指すには上級モンスターを倒さなくてはいけない。

 なので、最低限の回復力しかない【ヒーリング】しか使えないララクが、何故そこまでレベルが高いのかが、レニナには疑問だったのだ。


「……これまでに、いろんな冒険者パーティーに所属していたので」


「あ、そっか。あんた、私たちの所にくる前に、たーくさんパーティーをクビになったんだっけ」


 彼女はララクを嘲笑った。

 それに対して、ララクはあまり精神的に辛くはないようだ。

 デフェロットやレニナの態度はあからさますぎて、こういった経験に慣れているララクにはそこまで精神的ダメージを与えない。

 それよりも、ガッディアのように気を遣われる方が、申し訳なくなるものだった。


「お前よぉ、今までどんだけ追放されてきたんだよ」


「……今回ので100です」


 ボソッと呟く。


 それを聞いて、他のメンバーは一瞬鎮まり返った。

 しかしすぐに、レニナが大きな声で笑いだした。


「ひゃ、100って、あんたどんだけクビになってんのよ。皆、考えることは一緒ね」


「っち、とんだ外れくじを引いちまったぜ。あーもういぃ、今すぐにパーティ契約解除だ!」


 加入前に、ララクがこれまでにいくつもパーティー追放にあっているのは、情報として伝わっていた。

 しかし、想像していた数字の桁が違ったようだ。


 怒りを通り越して、半ば呆れているような表情になったデフェロットは、自分の右腕をララクに向ける。

 彼の右手には、剣のような青い紋章が刻まれている。

 これは、デフェロットだけではなく他の3人にも似たような紋章が刻まれている。


「……了解です」


 ララクも紋章のついた手を出すと、2つの紋章が共鳴しだして一際大きく輝きだす。


 そして、紋章同士を繋げるように光の糸が現れる。これによって、デフェロットとララクの紋章が契約状態であることが分かる。


「今をもって、ララク・ストリーンとのパーティー契約を解除する」


 デフェロットが紋章に宣言すると、すぐに繋いでいた糸が光の粒となって散らばっていく。


 紋章同士でパーティー契約をすることで、モンスターを直接倒していないメンバーにも、レベルアップに必要な経験値が入るようになる。

 そうでなければ、ヒーラーや仲間を強化するスキルを持つサポーターの冒険者はいっこうにレベルアップしない。

 ララクのレベルが異様に高いのは、この契約システムの恩恵を受けていたからだった。


 そしてこの契約を解除されたことにより、ララクは正式にパーティーから追放されたのだった。



【あとがき】

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