才能とは何か?

「才能は、残酷だ。持っていない人間を徹底的に拒否する。つまり、あたしはダメってこと。」

最初、主人公の比呂はそう結論づけ、邪悪な小人と取引します。駄作を素晴らしく見せるために。
この物語を読み終えた時、私は「あそこにいる誰しもが他者の評価に振り回されている」のだな、と思いました。
己の基準と他者の評価が食い違った時、芸術家は、私たちはどちらを取るのか。
他者の意見を受け入れて、自分の作品に昇華する人もいるかもしれない。その苦悩から逃れるために、諦める人もいるかもしれない。それを「才能がない」と形容する人もいるかもしれない。

だけど、こうも思うのです。
ただ眩しいもの、光り輝くものだけでは、世界は美しくない。沢山の人が集まるだけの場所も美しくない。
真夏の木漏れ日のように、黒くて、歪で、鋭利で、揺らめいて、静寂で、その一瞬一瞬の光に魅せられた形を残して行きたい。
私が読む比呂の「駄作」は、そういうものに見えるのです。

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